「おはようございまーす! えいとおうじー」
「わーい! えいとおうじだー」
約束した通りの時間に、月宮先輩は昨日俺たちを送ってくれたリムジンに乗って、家の前まで迎えに来てくれた。
「おはよう」
月宮先輩は車の窓を開けると、双子に手を振って挨拶をした。
(本当に、どこかの国の王子様みたいだな……)
晴天の朝日を感じながら爽やかに手を振るその姿は、まるで、王族が市民に向かって手を振っているかのように神々しかった。
「お、おはようございます。えっと、今日はよろしくお願いします」
「よろしくおねがいしますっ!」
「しますっ!」
俺は月宮先輩に向かってお辞儀をすると、双子も俺の真似をして月宮先輩にお辞儀をした。
「私が勝手にやっていることだ。気にすることはない」
月宮先輩が首を横に振っていると、昨日と同じ運転手さんが運転席から降りてきて、後部座席のドアを開けてくれた。
だが俺は、すぐ視界に入ってきた、昨日まではなかったものの存在に驚きを隠せなかった。
「えっ……? これって……」
それはチャイルドシートだった。
昨日は座席になかったはずのチャイルドシートが、わざわざ二台も取り付けられていた。
「えっ? えっ? これ、まさか今日の……双子のためだけに?」
それ以外考えられないと分かっていながらも、俺は思わず月宮先輩に確認せずにはいられなかった。
「もちろんだ。昨日は突然で準備できなかったが、二人の安全を守るためには必要だろ?」
真剣な顔で腕と足を組む月宮先輩は、俺が驚いている理由が理解できないといった様子で表情を変えないため、俺は焦ってしまう。
「い、いや……。たしかに安全に越したことはないですけど……。そ、そうかもしれないですけど……」
(これは絶対に高いって! それに、こんな高級車で送迎される月宮先輩レベルのお金持ちが、レンタルとかで済ませるわけがない!)
車のチャイルドシートの相場は知らないが、まるで飛行機のファーストクラスのような、車の内装に引けを取らないチャイルドシートの素材とデザイン。
流行やブランド品に疎い俺でも、高いことは見ただけでわかる品物だった。
「ねー、ねー、乗ってもいい?」
「いーい?」
双子は待ち遠しそうに、その場で我慢出来ずに何度も足踏みをして、俺の制服の裾を掴んで引っ張った。
「ま、待った……。ここは冷静にいかないと……。まず、汚さないようにタオルを敷いて靴を脱いで……」
取り付けられてしまっているものは仕方がないと割り切った俺は、慌てて双子のリュックからタオルを取り出そうとする。
「一体何をブツブツ言っているんだ。遅刻するぞ? 二人のことは、運転手に任せておけば大丈夫だ」
「あ……えっ……?」
「わーい!」
俺がリュックを漁りながら慌てふためいているうちに、玲央は運転手さんに抱っこされ、チャイルドシートへあっという間に座らせられてしまった。
「まおも、まおもー」
自分の順番を今か今かと待っている真央が、俺の制服の裾を待ち遠しそうに引っ張る。
「はぁー……」
(もう、諦めるか……)
俺は全て諦めて深い溜め息をつくと、真央を抱っこした。
「よーし、真央。順番なー」
「はーい!」
玲央のチャイルドシートのセッティングがあっという間に終わると、真央を運転手さんに預け、俺も車に乗り込んだ。