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第25話 俺のせいじゃない……?

(父さんが倒れたのは、俺のせいじゃない……。本当に……?)


誰かにそう言ってもらえて、どうしようもなく、俺は救われた気がした。


涙が止まらず、喉から嗚咽が漏れる。


「あの家……。実はまだ……ローンが残っていて……。親戚には、さっさと手放したほうが楽だって……言われたり……双子は施設に預けるべきだって……」


(俺は……何を月宮先輩に話してるんだ……)


そう思いつつも、ずっと蓋をしていた気持ちを吐き出さずにはいられなかった。


「でも……俺にはどちらも、どうしてもできなかった……。母さんと父さんが……守りたかったものを、俺が……俺が代わりに守っていきたくて……。だけど、それは俺のワガママで……。結局一人じゃできなくて、那央に迷惑かけて……。そんな俺じゃダメだって、那央に責められている気がして……それで……那央とちゃんと向き合うのが怖くなって……」


(そうか……。俺、那央に責められているって思い込んで、那央と向き合うことから避けてたんだ……。本当にサイテーだ……)


俺は気持ちを吐き出したことで、ずっと気付かないフリをしていた気持ちと向き合うことができた。


「海棠……」


月宮先輩は軽く膝を曲げて屈むと、しゃがみこんで膝に顔を埋める俺の頭にそっと手を置き、優しく撫でてくれた。


「やっぱり海棠はすごいな。海棠理央として兄弟を、家を守る。リオンとして私を救ってくれた。まるでスーパーマンだ。私はどう、この気持ちを伝えればいいかわからないが、ひとつだけ言える。私はどんな時も海棠の味方だ」


(すごい……? 味方……? 月宮先輩が俺の……?)


俺は膝に埋めていた顔を少しだけ上げて、月宮先輩を見つめた。


蒼くて宝石のような月宮先輩の瞳は、嘘や建前ではなく、心からの言葉なんだと訴えかけられているように見えた。


「私を頼って欲しい。きっと、この気持ちは那央君も同じだと思うぞ」


「はい……」


不思議と、俺は素直に月宮先輩の言葉を受け入れられた。


「よし。それじゃあ、明日も私が迎えに来ても構わないな?」


月宮先輩は、俺に立ち上がるよう手を差し伸べてきた。


「えっ……?」


「明日も保育園に双子を送っていくのだろう? あんなに元気の有り余る二人だ。歩いて連れていくには、危険も伴うだろ?」


「で、でも……。今日、こんなに迷惑かけて、これ以上は……」


「今、言ったはずだぞ。私を頼って欲しいと」


「で、でも……」


「海棠……。私も海棠の役に立ちたいんだ。でも、そうだな……。どうしても聞き入れないというなら、あの言葉を使うぞ?」


見たことのない不敵な笑みを浮かべる月宮先輩に、俺は思わず笑ってしまう。


「また、俺を脅すんですか?」


俺は月宮先輩に差し出された手を、しっかりと取った。


「そうだ。海棠のような頑固で分からず屋には、人に頼る訓練が必要だ。でも、取引するというのもいいかもしれないな。よっと」


腕に力を込めて、月宮先輩は俺が立ち上がるように引っ張り上げてくれた。


「取引ですか?」


「ああ。代わりに弁当を……明日、私の分の弁当も作ってくれないか?」


「お弁当をですか?」


「そうだ。ただし、私だけ特別ではなく、海棠と同じものが食べたいんだ」


「俺と同じって……。質素な弁当になっちゃいますよ? もしかすると、白米だけかもしれませんよ」


「たとえ白米だけだったとしても、海棠と同じものが明日も食べられるなら、それでもかまわない」


「ふっ。なんですか……それ……」


自然と笑みが零れ、俺は気が付くと涙は止まっていた。


(やっぱり……)


変な人と言いたかったが、俺の中で月宮先輩は、変な人から頼りになる先輩へ変わっていた。


(もしかして、母さんが俺のことを心配して、月宮先輩と引き合わせてくれた……とか?)


俺はそっと空を見上げた。


天気が良くて雲もない澄み渡った夜空には、数えるほどではあったが星が見えた。


俺は遠くに見える星へ向かって、そっと笑みを浮かべた。

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