葬儀場で母さんの葬儀を終え、参列者も全員いなくなると、父さんは生まれたばかりの双子が入院している病院に向かった。
俺と那央は二人だけで、母さんが眠ったように瞳を閉じて入っている柩の傍で、父さんの帰りを椅子に座って待っていた。
当時、中学生になったばかりの俺に突然訪れた母さんの死は、現実味がなく、最後まで泣くことさえもできなかった。
そんな、ただ茫然としていた俺に、隣に座っていた那央が静かに呟いた。
『オレたちは、一人じゃないから……』
あの時、那央がぽつりと独り言のように言った言葉の本当の意味を、俺は今やっと理解した気がした。
(そんな、俺……)
俺はブランコの上で体を丸めるようにして、月宮先輩が背中にかけてくれたブレザーがずり落ちないように手で押さえた。
「海棠……」
俺の後ろに立っていた月宮先輩は、ゆっくりと俺の目の前に移動すると膝をついた。
「昼休みに話していた剣道の話。那央君があえて部活に入らないっていうのは、海棠にいつ頼られてもいいように、はたまた、負担をかけないように思ってのことなのかもしれないな」
「う、嘘……」
俺は俯きながら、信じられないと首を必死に横に振る。
そんなはずはないと、どこかでそう思いたかったが、本当はもう分かっていた。
(俺はどこかで分かっていたはずだ……。けど、気付かないフリをしていただけだ……)
今まで那央が気を使ってくれていたのに、その気持ちを踏み躙っていた自分の愚かさに、俺は目の前が暗くなる。
月宮先輩が背中にかけてくれたブレザーを掴む自分の手が、震えているのを感じた。
「でも、俺は……。那央にこれ以上頼ることなんて許されないんです……。だって……だって……!」
「お父様が倒れたのは……自分のせい、だからか?」
「えっ……?」
ずっと抱えて隠してきたことを月宮先輩に言い当てられて、俺は思わず俯いていた顔を上げて目を丸くした。
「どうして……」
「……。海棠、本当にお父様が倒れたのは、自分のせいだと思っているのか? だから、全て一人でやらなければと思っているのか?」
「それは……」
「バカらしい。いいか、よく聞くんだ。誰もそんなことは思っていないし、そんな考えは無駄で意味がない」
俺の肩を掴んで、真剣な顔で真っ直ぐ目を見て訴えかけてくる月宮先輩から、俺は目が離せなくなる。
「月宮先輩……」