「……」
宝石のように綺麗な碧い瞳を揺らして俺を見下ろす月宮先輩は、眉間に皺を寄せながら、まるで自分のことのように、苦しくって悲しそうな顔をしていた。
「なんで、月宮先輩がそんな顔をするんですか……?」
(俺には分からない。だって、俺は……)
「月宮先輩の大事な人はリオンでしょ? 俺じゃない。そうでしょ? だから月宮先輩は、そんな顔しないでくださいよ」
月宮先輩に俺は笑って見せた。
すると、月宮先輩はショックを受けたように、酷く傷ついた顔をした。
「すまない……。海棠にまた、そんな顔をさせているのは私のせいだな……」
(そんな顔って……。あれ……? 俺、また笑えてないの……?)
俺は口元を指先で触れて確かめると、必死に上げているはずの口角が、仏壇の前でのやりとりの時のように、ほとんど上がっていないことに気が付いた。
「ちが……。違うんです。月宮先輩は何も……。俺が全部いけないんです。俺が……」
「そうやって、全部自分のせいにして抱え込むのか……? 弟とのことも……」
月宮先輩が握っていた手すりに力を込めたことでブランコが揺れると、鎖が軋む音がした。
「そうですよ……。那央とのことも、俺がもっとお兄ちゃんとして、しっかりしていれば……こんな形には……」
俺は月宮先輩から顔を逸らし、地面に着いていた足を内側に折り畳むと、ブランコの手すりの鎖をギュッと握った。
「……海棠。そうやって、全部自分がいけないと思うのは楽か? 私には逃げているとしか思えないぞ」
「えっ……?」
月宮先輩とは思えない厳しい言葉に、俺はハッとさせられる。
「しっかりしていれば? バカな。これ以上しっかりしてどうする? 海棠は十分すぎるほど、しっかりしているだろ?」
「え……? いや、だって……」
「他人の私から言わせてもらえば、海棠は向き合うのを怖がっているだけにしか見えないぞ。違うか?」
「それは……」
矢継ぎ早に月宮先輩に言われ、俺は言葉が続かなかった。
それは心のどこかで、月宮先輩の言っていることは正しいと思ったからかもしれない。
「彼……。那央君は、海棠を手伝うことのできない非力な自分を、責めてしまっているじゃないか? だから、本当はもっと、海棠に頼って欲しいと思っているんじゃないのか?」
「那央が……俺に……?」
そんなはずないと思ったが、ふと先程の玄関でのやりとりを思い出す。
『自転車がパンクして困っていたら、車で双子のお迎えに付き合ってくれて、助けられたんだ』
『チッ。なんで、オレに連絡してこなかったんだよ……』
(もしかして、本当に那央は……)
月宮先輩の話がストンと腑に落ちると、昔、那央に言われた言葉を思い出す。
それは三年前の、母さんの葬儀の日のことだった。