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第21話 俺の代わりなんていくらでも

「よしっ……!」


月宮先輩は何か決意したように自分に気合いを入れると、大きな体には似つかわしくない子供用のブランコを、長い足を真っ直ぐ延ばして大きく漕ぎ始めた。


二人っきりの公園に、ブランコの鎖が軋む音が響く。


「月宮先輩も、ブランコ漕げるんですね」


「失礼な。ブランコぐらい、いくらでも漕げるぞ」


口を軽く尖らせて、少しだけ顔をムッとさせた月宮先輩は、俺に見せつけるように、さらに大きくブランコを漕いで揺らした。


その姿は、子供が対抗心むき出しで張り合ってきた時のようで、月宮先輩のイメージとは相反する姿に俺は笑みが零れる。


「ほんとだ、上手ですね。失礼だと思うんですけど、月宮先輩のイメージではないというか……。月宮先輩の見た目からは想像ができなくて……」


「私にだって子供のころはあったぞ。昔、祖父が庭にあった大きな木に、手作りのブランコを作ってくれたんだ。私は双子と同じ年のころ、毎日それで遊んでいた」


「へー、そうだったんですね」


俺は頷きながら、月宮先輩と同じようにブランコを漕ぎ始めた。


(さすがに、夜は少し冷えるな……)


ブランコで風を切ると、夜ということもあって、ブレザーをボタンも留めずにただ羽織っているだけでは肌寒さを感じた。


微かに身震いをして、俺はブレザーのボタンを留めようとすると、そんな俺に気付いた月宮先輩は、長い脚を地面につけてブランコを漕ぐのをやめた。


「寒いのか?」


「いえ、そこまでは。でも、この季節は昼間との寒暖差が結構ありますよね。ブレザー取ってきて、正解でしたよ」


「……」


「月宮先輩?」


月宮先輩は急にブランコから立ち上がると、ブレザーのボタンを外し、着ていたブレザーを脱いで手に持った。


そして、俺の後ろにあっという間に回り込むと、手に持っていた自分のブレザーを俺の背中にかけてくれた。


「月宮先輩……」


「海棠が風邪を引いたら、みんなが困るだろ?」


「そんなことないですよ。俺の代わりなんていくらでも……」


俺はまた卑屈なことを言ってしまったと後悔して口籠ると、月宮先輩は俺が乗っているブランコの手すりを掴んだ。


「なんで……そんなことを言うんだ……」


その声は微かに震えていて、俺は咄嗟に仰け反るようにして月宮先輩を見上げた。


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