「よしっ……!」
月宮先輩は何か決意したように自分に気合いを入れると、大きな体には似つかわしくない子供用のブランコを、長い足を真っ直ぐ延ばして大きく漕ぎ始めた。
二人っきりの公園に、ブランコの鎖が軋む音が響く。
「月宮先輩も、ブランコ漕げるんですね」
「失礼な。ブランコぐらい、いくらでも漕げるぞ」
口を軽く尖らせて、少しだけ顔をムッとさせた月宮先輩は、俺に見せつけるように、さらに大きくブランコを漕いで揺らした。
その姿は、子供が対抗心むき出しで張り合ってきた時のようで、月宮先輩のイメージとは相反する姿に俺は笑みが零れる。
「ほんとだ、上手ですね。失礼だと思うんですけど、月宮先輩のイメージではないというか……。月宮先輩の見た目からは想像ができなくて……」
「私にだって子供のころはあったぞ。昔、祖父が庭にあった大きな木に、手作りのブランコを作ってくれたんだ。私は双子と同じ年のころ、毎日それで遊んでいた」
「へー、そうだったんですね」
俺は頷きながら、月宮先輩と同じようにブランコを漕ぎ始めた。
(さすがに、夜は少し冷えるな……)
ブランコで風を切ると、夜ということもあって、ブレザーをボタンも留めずにただ羽織っているだけでは肌寒さを感じた。
微かに身震いをして、俺はブレザーのボタンを留めようとすると、そんな俺に気付いた月宮先輩は、長い脚を地面につけてブランコを漕ぐのをやめた。
「寒いのか?」
「いえ、そこまでは。でも、この季節は昼間との寒暖差が結構ありますよね。ブレザー取ってきて、正解でしたよ」
「……」
「月宮先輩?」
月宮先輩は急にブランコから立ち上がると、ブレザーのボタンを外し、着ていたブレザーを脱いで手に持った。
そして、俺の後ろにあっという間に回り込むと、手に持っていた自分のブレザーを俺の背中にかけてくれた。
「月宮先輩……」
「海棠が風邪を引いたら、みんなが困るだろ?」
「そんなことないですよ。俺の代わりなんていくらでも……」
俺はまた卑屈なことを言ってしまったと後悔して口籠ると、月宮先輩は俺が乗っているブランコの手すりを掴んだ。
「なんで……そんなことを言うんだ……」
その声は微かに震えていて、俺は咄嗟に仰け反るようにして月宮先輩を見上げた。