俺は月宮先輩と家を出ると、街灯と各々の家から漏れ出す微かな明かりに照らされながら、二人で並んで歩き始めた。
「お迎え……。うちの前まで来てもらえば、よかったんじゃないんですか?」
「いや、ちょっと事情があってな……。大通りで待ち合わせにしたんだ」
「そう……ですか……」
「……。海棠……」
「はい……?」
「いや、なんでも……」
月宮先輩は何か話したそうに言いかけるが、そのまま何もしゃべらずに口を閉ざしてしまう。
(まあ、さっきの状況的にも話しかけにくいよな……)
そのまま俺たちは特に会話もせず、家のすぐ近くにある小さな公園を通り過ぎようとした時、月宮先輩は足を止めた。
「月宮先輩……?」
「海棠……。少し話をしていかないか?」
「えっ……あ、月宮先輩……?」
月宮先輩は俺の返事を待たずに、公園の中に向かって行ってしまった。
(俺は別に話すことなんてないのに……)
そう思いながらも、スタスタと歩いて行ってしまう月宮先輩に、俺はついていくしかなかった。
住宅街の一角に作られた公園には、遊具はブランコと砂場だけ。
あとは、ぽつんと一本立てられた街灯の下に二人掛けのベンチがある、本当に小さな公園だ。
休日や夕方には近所の子供たちに人気の遊び場だが、夜は人もおらず、住宅街の中ということもあって、ひっそりとしていた。
「せっかくだし、ブランコにでも乗ります?」
なにがせっかくなのか自分で言っていてもよく分からなかったが、俺がブランコを指差すと月宮先輩はそっと頷いてくれたので、二台あるブランコに俺たちは並んで腰かけた。
「双子は大丈夫なのか? その……起きた時に海棠がいないと、不安になって探してしまうんじゃないか?」
「那央に頼んできましたし、大丈夫ですよ。アイツ、俺にはあんな感じですけど、双子の面倒はしっかり見てくれるんで」
「そうか……。それなら、よかった。子供が突然目が覚めた時に誰もいないのは、やっぱり不安だからな……」
「それは……月宮先輩の経験談ですか……?」
ふと、淋しそうに呟いた月宮先輩に、俺はよく考えずに質問してしまい後悔する。
「あ……。ご、ごめんなさい。俺、無神経で……。その……忘れてください……」
(月宮先輩のプライベートに、俺は踏み込める立場じゃないだろ……)
申し訳なさで、最後のほうは自分でもほとんど聞き取れないほど声が小さくなり、俺は俯いてしまった。
「やっぱり、海棠は優しいな……」
「えっ……」
そんな呟きが聞こえて、俺は俯いたまま横目で月宮先輩の様子を確認すると、月宮先輩は優しく微笑んでいた。