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第18話 卵焼きは世界一です。

キッチンは対面式だったので、コーヒーを淹れ終えて俺が料理をしている間、月宮先輩と双子のやりとりがよく見えた。


リビングに置かれたソファー前のローテーブルに向かって、月宮先輩は真ん中に座り、双子がピタリとくっついて挟むように座っていた。


「えいとおうじー。ここにおひさまかいてー」


「ねー、みてみて。まお、こんなにじょうずにおれるんだよ」


月宮先輩は右からも左からも同時に話しかけられて、少し困ったように眉を下げた顔をしていた。


だが困っていながらも、一生懸命二人に応えようとしているのが、離れた場所から見ていてもわかった。


(なんだか、新米お父さんみたいだ)


小さい子に振り回されている月宮先輩の姿に、俺は愛おしさを感じて笑みが漏れ、ほっこりとした気分になる。


(よし、できた)


「ほら、ごはんできたぞー。こっちにこーい」


いつもであれば二人に話しかけられたり、構いながら作るため時間がかかるが、月宮先輩のおかげでとても捗り、あっという間に晩御飯の支度を終わらせることができた。


「やったー! おなかぺこぺこー」


「えいとおうじ、はやくいこー」


六人掛けのダイニングテーブルに、嬉しそうに双子が駆け寄ってくる。


「じゃあ、私はこのへんで……」


ソファーの片隅に置いてあったカバンを肩に掛け、邪魔にならないよう慌てて帰ろうとする月宮先輩を、俺は月宮先輩の制服の裾を掴んで呼び止めた。


「あの、月宮先輩……。晩御飯、よかったら一緒に食べませんか?」


「えっ……?」


俺の提案に月宮先輩は目を丸くして、瞬きをしながら驚いた顔をした。


「その……。今日のお礼です。いや、俺の料理なんかでお礼にはならないと思うんですけど……。今日は本当に助かったので、ご迷惑じゃなければ……」


「いや、私はべつに……」


月宮先輩は何と返事をしたらいいか、困っている様子だった。


俺は掴んでいた月宮先輩の制服の裾を、もう少しだけ強く握った。


「実は今日、弟の那央が剣道に行ってるんで、帰りが遅いんです。俺は那央と一緒に食べるんで、双子だけの御飯になっちゃうんです。だから……双子と一緒に食べてあげてくれませんか?」


「……。そういうことなら……」


少し間を開けて月宮先輩は頷くと、肩に掛けていたカバンを下ろした。


「えいとおうじもいっしょに、りおくんごはんたべるの?」


「たべるのー?」


「ああ。ご一緒してもかまわないか?」


「うん!」


「もちろん!」


双子は嬉しそうに月宮先輩の手を握ると、ダイニングテーブルまで手を引いていった。


「えいとおうじ、まんなかー」


「まんなかー!」


「はいはい。ちょっと待ってな」


俺はダイニングテーブルのキッズチェアを動かして、ローテーブルの前で座っていた時のように、月宮先輩を真ん中に挟む形で双子が座れるようにした。


「りおくんごはん、おいしいよー」


「ねー」


双子は自分たちでキッズチェアによじ登ると、月宮先輩も椅子を引いて双子の真ん中の席についた。


「知っている。卵焼きを食べたことがあるが、あれは絶品だった。世界一だ」


「ちょ、月宮先輩!」


また恥ずかしいことを言い出した月宮先輩に、俺は頬が熱くなるのを感じた。


「せかいいちー」


「りおくんごはんは、せかいいちー」


双子が嬉しそうに手を叩き出し、俺は追い打ちをかけられ、さらに恥ずかしくなる。


「こ、こら! 静かに! 食卓でバタバタしない!」


俺はさらに顔を赤くしながら、速まる心臓の音を静めるように、ダイニングテーブルに料理を並べていった。


「きょ、今日は、アスパラとひじきのごはん。豆腐ハンバーグに、ほうれんそうのコーンバター炒め。キャベツとミニトマトとベーコンのスープです。あ、月宮先輩。なんか苦手なものとかあります?」


「好き嫌いはない」


首を横に振り、並べられていく料理に目を輝かせる月宮先輩の姿は、俺にはなんだか三歳の双子と変わらないように見えた。


「はい、それじゃあ」


俺も月宮先輩と双子の向かい側の席につき、手と手と合わせる。


「いただきまーす!」


「いただきます」

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