キッチンは対面式だったので、コーヒーを淹れ終えて俺が料理をしている間、月宮先輩と双子のやりとりがよく見えた。
リビングに置かれたソファー前のローテーブルに向かって、月宮先輩は真ん中に座り、双子がピタリとくっついて挟むように座っていた。
「えいとおうじー。ここにおひさまかいてー」
「ねー、みてみて。まお、こんなにじょうずにおれるんだよ」
月宮先輩は右からも左からも同時に話しかけられて、少し困ったように眉を下げた顔をしていた。
だが困っていながらも、一生懸命二人に応えようとしているのが、離れた場所から見ていてもわかった。
(なんだか、新米お父さんみたいだ)
小さい子に振り回されている月宮先輩の姿に、俺は愛おしさを感じて笑みが漏れ、ほっこりとした気分になる。
(よし、できた)
「ほら、ごはんできたぞー。こっちにこーい」
いつもであれば二人に話しかけられたり、構いながら作るため時間がかかるが、月宮先輩のおかげでとても捗り、あっという間に晩御飯の支度を終わらせることができた。
「やったー! おなかぺこぺこー」
「えいとおうじ、はやくいこー」
六人掛けのダイニングテーブルに、嬉しそうに双子が駆け寄ってくる。
「じゃあ、私はこのへんで……」
ソファーの片隅に置いてあったカバンを肩に掛け、邪魔にならないよう慌てて帰ろうとする月宮先輩を、俺は月宮先輩の制服の裾を掴んで呼び止めた。
「あの、月宮先輩……。晩御飯、よかったら一緒に食べませんか?」
「えっ……?」
俺の提案に月宮先輩は目を丸くして、瞬きをしながら驚いた顔をした。
「その……。今日のお礼です。いや、俺の料理なんかでお礼にはならないと思うんですけど……。今日は本当に助かったので、ご迷惑じゃなければ……」
「いや、私はべつに……」
月宮先輩は何と返事をしたらいいか、困っている様子だった。
俺は掴んでいた月宮先輩の制服の裾を、もう少しだけ強く握った。
「実は今日、弟の那央が剣道に行ってるんで、帰りが遅いんです。俺は那央と一緒に食べるんで、双子だけの御飯になっちゃうんです。だから……双子と一緒に食べてあげてくれませんか?」
「……。そういうことなら……」
少し間を開けて月宮先輩は頷くと、肩に掛けていたカバンを下ろした。
「えいとおうじもいっしょに、りおくんごはんたべるの?」
「たべるのー?」
「ああ。ご一緒してもかまわないか?」
「うん!」
「もちろん!」
双子は嬉しそうに月宮先輩の手を握ると、ダイニングテーブルまで手を引いていった。
「えいとおうじ、まんなかー」
「まんなかー!」
「はいはい。ちょっと待ってな」
俺はダイニングテーブルのキッズチェアを動かして、ローテーブルの前で座っていた時のように、月宮先輩を真ん中に挟む形で双子が座れるようにした。
「りおくんごはん、おいしいよー」
「ねー」
双子は自分たちでキッズチェアによじ登ると、月宮先輩も椅子を引いて双子の真ん中の席についた。
「知っている。卵焼きを食べたことがあるが、あれは絶品だった。世界一だ」
「ちょ、月宮先輩!」
また恥ずかしいことを言い出した月宮先輩に、俺は頬が熱くなるのを感じた。
「せかいいちー」
「りおくんごはんは、せかいいちー」
双子が嬉しそうに手を叩き出し、俺は追い打ちをかけられ、さらに恥ずかしくなる。
「こ、こら! 静かに! 食卓でバタバタしない!」
俺はさらに顔を赤くしながら、速まる心臓の音を静めるように、ダイニングテーブルに料理を並べていった。
「きょ、今日は、アスパラとひじきのごはん。豆腐ハンバーグに、ほうれんそうのコーンバター炒め。キャベツとミニトマトとベーコンのスープです。あ、月宮先輩。なんか苦手なものとかあります?」
「好き嫌いはない」
首を横に振り、並べられていく料理に目を輝かせる月宮先輩の姿は、俺にはなんだか三歳の双子と変わらないように見えた。
「はい、それじゃあ」
俺も月宮先輩と双子の向かい側の席につき、手と手と合わせる。
「いただきまーす!」
「いただきます」