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第14話 いいこ、いいこ。

(嫌なわけじゃないんだけど、なんかむず痒いというか……)


月宮先輩は学園の有名人で、入学してすぐに存在は知っていたが、話したのは昨日が初めて。


なのに、お昼を一緒に食べて、放課後には家に寄る。


(俺……。もしかして、友達ができたつもりになって、浮かれてるのかな……)


三年前、桜の花びらが散って葉桜に変わりきった頃。


母が突然帰らぬ人となり、俺は一人残された父の助けになりたいと、友達と遊んだり部活にも入らず、真っ直ぐ家に帰ってきては双子の面倒を見ていた。


次第に付き合いが悪いと、友達が一人、また一人と減っていき、いつのまにか友達といえる存在は、俺の周りからいなくなっていた。


休みの日には一緒にゲームをしたり、放課後には買い食いをして他愛もない話で盛り上がったり、そんなことをしたかったとは今でも思わない。


だが今思い返せば、中学時代の学校の思い出は一つ残っていない。


代わりに双子の成長をずっと見れたので、俺にはそちらのほうが貴重で、一生モノの思い出だと思っている。


だから、始まったばかりの高校生活も不満はない。


誰かと仲良くなったところで結局離れていくなら必要ないと、今でも友達は作らず、クラスではいてもいなくてもいい存在だ。


それはアイドル活動でも同じだ。


バックダンサーとして、いてもいなくても誰も気にならない存在だと思ってた。


なのに、月宮先輩はそんな俺を見つけて応援してくれる。


(俺は……嬉しかったのか……?)


まだモヤモヤする気持ちに答えが出せず、俺はブレザーを脱いで近くの椅子にかけると、腕を組んで考え込む。


「りおくんー。あらってきたよー」


「あらったよー」


そんなことを考えていると、双子がリビングに戻ってきて、俺の膝に抱きついてきた。


「おー。えらい、えらい」


「ねー、ねー。いいこ、いいこしてー」


「してー」


「よーし。いい子、いい子」


俺は双子の頭を、同時に優しく何度も撫でた。


「ほら。母さんにもちゃんと、ただいまの挨拶してきなさい」


「はーい」


双子は息ぴったりに返事をして、リビング奥に置いてある仏壇に向かって行った。


「私も洗ってきた……」


「えっ……?」


いつのまにかすぐ近くに立っていた月宮先輩は、恥ずかしそうに俯きながらも期待の目を俺に向けていた。


俺はどうしたものかと戸惑う。


(こ、これは……。して欲しいってことなのか……?)


正解なのか戸惑いながらも、俺は双子に向けた同じ笑みを浮かべる。


「いい子ですね」


そう言って、俺は少しだけ背伸びをして、月宮先輩の頭を撫でてあげた。

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