「すごーい、りおくん。おひめさま」
「おひめさまー!」
握っていた手を振り回し、二人は嬉しそうにもっと飛び跳ねた。
「待て待て待て待てッ! 俺は男だ!」
「そういう固定観念はよくないぞ、海棠」
「月宮先輩は黙っててください!」
(あー、もうっ!)
真顔で言う月宮先輩と双子のテンションに俺はドッと疲れ、力が抜けてその場にしゃがみこんでしまう。
「だいじょうぶー? りおくーん」
「りおくーん、つかれたのー?」
双子が慰めるように俺の頭を撫でてくれているのを感じていると、俺は急に体を持ち上げられた。
「えっ?」
体が宙に浮いた理由が、月宮先輩にお姫様抱っこをされたからだと気づいたとき、俺は顔に火がついたように熱くなるのを感じた。
「ちょ、ちょっと月宮先輩! 一体何して!! 下ろしてください!」
「二人とも、お兄ちゃんを車に運ぶから、私に掴まって付いてきてくれるか?」
「はーいっ!」
双子の荷物とカバンを持った俺を楽々と持ち上げた月宮先輩は、元気に返事をした双子が月宮先輩のブレザーの裾を掴んだのを確認すると、車に向かってどんどん歩き始めてしまう。
「月宮先輩、お願いですから下ろしてください!!」
俺の声は届いているはずなのに、月宮先輩はまるで聞こえていないかのように涼しい顔で、俺を楽々と運び続ける。
「ああ、もうっ!」
俺は諦めて、せめてすれ違う人に恥ずかしがっているこの顔だけは見られまいと、手で顔を覆い隠した。
「りおくんて、おひめさまだったんだねー」
「しらなかったー。でも、だからおうちのこと、いっぱいしてたんだね」
(ちっがーう! 俺はシンデレラでも、白雪姫でもない! ただの男子高校生だ! それに、王子様を待っているために、家事をしてたわけじゃないぞ!)
双子の会話は俺をさらにドッと疲れさせ、月宮先輩の運転手が目を見開いて俺たちの姿に驚いたことを気にする余裕さえ、もう俺には残されていなかった。