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閑話 魔法少女 新米幹部 そして……

 ◇◆◇◆◇◆


っ!?」

「ええ。数日中にまた起こる可能性があると本部から通達があったわ」


 一日の巡回を終えた魔法少女コムギが通信で聞かされたのは、耳を疑うような知らせだった。


 コムギの担当であるオペレーター平岡は、淡々と続きを口にする。


「前回の大量発生。その数日前から、本部はある特殊な反応を感知していたの。ただその時は何の反応か分からず、対応が後手に回り市街地に大きな被害を出してしまった」

「……アズキちゃん」


 コムギは大切な友人の名をポツリと漏らしながら、ぎゅっと目を閉じる。


 死んだとは思っていないし思いたくもない。しかしあれを機に行方不明になってしまったのは事実で、それと同じ事がまた起こると聞いては黙っていられない。


「でも、今回は来るって分かってる。ならっ!」

「ええ。本部でも早速近辺の魔法少女に通達し、警戒を促している。また自衛隊や警察等とも連携し、明日から数日間秘密裏に警戒態勢をとる事が決定されたわ」

「秘密裏……一般には知らせないって事ですかっ!? 何でっ!?」


 慌てるコムギに平岡は落ち着かせるように語る。


「下手に公表してパニックになるのを抑えるためよ。それにまだ本部でも、本当に同じ事が起こるか半信半疑という人も多いの。偶然似た反応が出たとされればそれまでだし」

「そんな。それでもんですよ」

。そう思って手をこまねく人が多いのも事実なの」


 コムギからすれば、それが10%でも起きる可能性があるのなら皆に知らせるべき事だった。それだけの事なのだから。


 しかし平岡の言外にもう決まった事だという態度があり、歯がゆさから知らず知らずに口元を引き締める。そんなコムギの様子を見て、平岡は言おうか言うまいか悩んでいたことを口にする。


「コムギちゃん。やはり警戒期間だけでも良いから、誰かとまたコンビを組むべきよ。最近のアナタは一人で全てやろうと気を張り過ぎている。もうアズキさんは」

「アズキちゃんは必ず帰ってきますっ!」


 平岡の言葉を、叫ぶようにコムギは切り捨てる。


 それは信頼であり、そしてそうあってほしいという願いだった。


「……必ず、帰ってきます。だから、もう少しだけ席を空けておいてください。アズキちゃんが帰ってくる場所を、残しておいてください」

「……分かった。でもあまり長くは待てないわ。いずれ新しく組む相手が決められるまでよ」

「ありがとうございます」


 その言葉を最後に、平岡からの通信が切れた。それを確認したコムギは拳をぎゅっと握りしめる。


「アズキちゃん。あたし、負けないから。誰かにとっての光であれるよう頑張るから。だから……早く戻ってきてよ」


 そう絞り出すようにこぼすコムギの顔は、どこか悲壮なまでの覚悟に満ちていた。




 ◇◆◇◆◇◆


 どたどた。ガラガラ。


「オ~ライオ~ライ! ……ようしそこでストップ!」

「は~い後ろ機材が通るよっ! 下がった下がった!」

「おいそこっ!? 乱暴に扱うなよ! 壊しでもしたら一週間トイレ掃除だぞ」


 その日職員は慌ただしく動き回り、この支部に新しく導入される機材を搬入していた。それは、


『新型の。無事届いたようで何よりです』

「よくたったあれだけの情報から造れたもんだよ。魔法少女達が使う物に比べて大分大きめだけど」


 業務用冷蔵庫のようなサイズのそれを、ピーターは隅々まで眺める。


 そもそも以前ピーターがアズキを支部に運び込んだのは、怪我の治療をするのとは別に調からという面もあった。


 勿論ピーターは彼女を送り返す際、奇麗にクリーニング及び簡単な修繕もしてきちんと返却する予定ではあるが、その間に分析しないとは言っていない。


 それで彼女の持っていた悪心レーダーらしき物の技術を少々拝借して本部兵器課に送った結果、こうして試作品が早速支部に届けられたという訳だ。


『資料を見る限り、その魔法少女が使用している物は携帯性に特化した物でした。対してこちらはより広範囲を索敵する物。おそらく魔法少女達の拠点にも似た物がある筈です』

「なるほど。大体の位置をこれで探って、反応があった所を魔法少女が小型機を持って探すって感じか。納得した」


 そう言ってうんうんとピーターは頷き、


「ところで、いくら何でも試作機が着くの早すぎじゃない? 造るだけならともかく、他にも兵器課にはあちこちから発注があるからもうしばらくかかる筈……?」

『大した事は何も。ただ少々兵器課に掛け合い、です。ああ。ご心配なさらずとも、発注主の方々には別のより良いプランを提案、承諾していただけましたので問題はないかと』

「……そういう事は先にボクにも言っといてくれない?」


 通信機越しにフフッと薄く笑う副官メレンに、ピーターは額を軽く押さえる。


 有能ではあるのだけど、こうして黙って勝手に物事を進める事もしばしば。気が付いたら取り掛かる前に仕事が終わってましたなんて事までもあり、ピーターとしては色んな意味で頼れるけど頼り過ぎてはいけない副官だった。


『それにしても申し訳ありません。検査が予想以上に長引き、そちらに戻れるのはまだ先になるとの事。改めて念を押しますがくれぐれも』

「分かってるって。問題を起こすなって言うんだろ? それは本来ボクが君に言うセリフだからね。くれぐれもそっちこそ検査はちゃんと受ける事。前みたいに医者を買収して時間短縮を図ろうとしない事。良いね?」

『……了解しました。では、失礼します』


 一瞬渋りつつも、静かにそう言ってメレンは通話を切り、ピーターは大きく息を吐く。


(この調子なら来るのはアズキちゃんを帰した後か。正直メレンがアズキちゃんを見たらどう動くか怖いから助かった。『ただ帰すだけなどとんでもない。使えるものは老若男女生物無生物問わず使うものです』とか言い出しかねないし)


「隊長っ! こっちの機材は搬入完了しましたっ! それとここの接続部分ですが」

「ああ。今行くっ!」


 ある意味悪の組織の副官らしい姿を想像して苦笑しながらも、ピーターは職員の呼びかけに応えて歩きだした。





「あっ!? そうだ」


 ピーターはそこで、魔法少女の本部にアズキちゃんを送る手筈について思い当たった。


 ただ送り帰すだけならすぐ戻れば良いのだが、その際どさくさで内部に潜入となると問題がある。


(邪因子の事はまだ知られるわけにはいかない。うっかり何かしらの機械に感知されたら後々の動きに関わってくる。……つまり、一切を悟らせないほど隠密が上手いか、或いは邪因子をほぼ持たない人が送る必要がある)


 前者で心当たりがあるのは自分の上司。リーチャー全職員の中で間違いなく随一とされる隠密のプロ。しかし上級幹部という立場から、こんな所にお呼び立てするのは失礼な話。


 となれば後はとピーターはしばし思案して、


「……あの人今空いてるかな? まあ別支部だからダメって言われたらその時はその時だ」


 以前知った連絡先の番号を押し、通信機からコール音がなる事数度。




 ガチャっ!


『はい。こちら第九支部


 目当ての人に繋がった。


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