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ピーター 魔法少女を尋問しました

 尋問ピーター視点です。




 ◇◆◇◆◇◆


 コポポポポ。


(……気まずい)


 やあ皆様。ボクピーター。只今とんでもなく気まずい雰囲気で湯呑に茶を入れています。


 目の前には事態が良く分かっていないといった顔のアズキちゃん。ボクはひとまず場を和ませるべく茶と茶菓子を勧める。


(う~ん。これからどうしたものか)


 何故こんな事になったのか? それを一から説明するのはとても長い。なのでざっくりまとめると、



 一、アズキちゃんが最近何か悩んでいるとジェシーから報告を受ける。


 二、この前自分が邪因子による怪人化について話した辺りからであり、それが原因の可能性が高い。


 三、それはそれとして、そろそろアズキちゃんへの尋問を行わないと本部への建前的に良くない。


 四つ、そうだっ! 尋問しつつお茶会をして精神を落ち着かせよう!



 という感じだ。


(幸い、アズキちゃんが和菓子が好きなのは以前羊羹を食べていた時の表情から明らか。念のため、直接町に出向いて自腹でそれ以外にも一通り買ってきたけど)


 困ったことに、緊張しているのか警戒か手を付けてくれない。こんな調子では尋問も何もあったものじゃない。なので、


 モグっ。


 自分から先にきんつばに齧りつき、お茶を飲んで見せる。……へぇっ! こりゃ美味い! 初めて入った店で買ったけど、調査期間中は贔屓にしようかな。


 そうして食べていると、アズキちゃんもおずおずと茶に手を伸ばし、そのまま最中を一口齧って、



 ポロっ。



 


 一瞬何事っ!? と思ったけど、よくよく見ればその顔はとても穏やかで、自分が泣いている事すら気づいていないようだった。


 そのまま一口。また一口と最中を食べていく内に、どうやら落ち着いたのか涙も止まり、笑顔とまでは行かないけれど曇り顔が晴れていく。ここしかない。


「……良かった。少しは、元気になったようだね。ここ数日。明らかに君は落ち込んでいた。原因は分かってる。あの時怪人化の事を聞いたからだ。……ごめん」


 ボクはゆっくり頭を下げ、以前の説明でこちらの配慮が足りなかったことを謝罪する。すると、


「いえ……こちらこそすみません。気を遣わせてしまって。ワタシも、頭では分かってるんです。怪人と悪心は全然違うし、邪因子があるからこそワタシもここまで持ち直したんだってことも。でも……なんとなく、その……不安なんです」


(不安か。そりゃそうだよね)


 少しだけ、その気持ちは分かる。ボクも似たような経験があるから。


 説明をきちんと受けてから投与された大半のリーチャー職員と違い、緊急事態とはいえ気を失っている間に何も知らぬまま邪因子を投与されたアズキちゃん。


 おまけに人外が敵だと日常的に根付いている国で生活してきたのだから、自分がそうなるかもとなればその辺りはより不安だろう。


 ボクは右手をちらりと見る。見せたら場合によってはボクも嫌われるかもしれない。余計不安を煽る事になる可能性もある。だけど、



『ねぇピーターっ! “悪”って何だと思う? ……社会一般の法律を破る行為? クスクス。そ~んなガッチガチの答えしか出ないんだぁ? そんなんじゃあたしのは務まんないよっ! えっ!? それなら何なんだって? ふふんっ! 聞いて驚きなさいよっ! あたしが思う悪とは……』



(『“自分のやりたい事、やるべきだと思った事、やらなきゃいけない事を、たとえ誰かをぶっ飛ばしてでも世界の迷惑になってでもやる”。それが悪であり、あたし達リーチャーなのよ!』……か。分かってますよ。ネルさん)


 ふと頭をよぎったの言葉を思い出し、右手をぎゅっと握りしめる。


(荒療治でもなんでも、時間が迫っている以上やらなきゃな)


「……アズキちゃん。。出来れば、怖がらないでほしい」


 そう言って、右腕だけ変身に留めたのはこの方が見た目的に人間らしいから。


 そしてこの状態では、アズキちゃんはボクを人間だとはっきり認識した。……そう。そうなんだよ。邪因子による変身は、人間を辞めることじゃない。君が不安に思う必要はないんだ。


「ありがとうございます。心配してくれて」


 アズキちゃんはそう礼を言うけど、こっちにも意地と打算があるから礼を言われるほどじゃない。


 さあ。不安も大体取り除けたことだし、今度こそ尋問を始めよう。





 その日の夜。食堂にて。


「ほら皆。ボクが自腹切って買ってきた和菓子だぞっ! 感謝しながらありがたく食べるように」

「おっ! 隊長気が利くっ! 丁度デザートが欲しかったんだ。ゴチになりま~す」

「美味し美味し! ……ついでに茶もくれよ隊長さんっ!」

「茶ぐらい自分で買ってきてくれっ!? というかもっと味わって食べようねっ!?」


 おのれこの隊員達ときたら。尋問も終わったし、余った和菓子も一人じゃ食べきれないので配ったらこれだ。あれだけあった和菓子が瞬く間に食い散らかされていく。


「お疲れ様です隊長。あっ!? その大福も~らいっ! ……むぐっ!?」

「あ~。そんなにがっつくからだぞジェシー。……ほら水だ。医者が喉詰まらせて倒れるなんて洒落にもならない」


 手渡した水を慌てて流し込み、ふぅ~と息を吐くジェシーをボクはジト目で見てやる。


「ハハハ。ありがと。さっきちらっと見たけどアズちゃん少し元気になったみたいね。隊長やるぅ!」

「本来メンタルケアはそっちの仕事だろうに。それにあくまでこれは尋問。それがスムーズに進むようにしたってだけさ」

「もうツンツンしちゃってさ。はむっ! ……それで~? なんか分かった?」


 流石に懲りたのか、少しずつほおばりながらあくまで世間話としてそう聞いてくるジェシー。なので、ボクもそのように返す。


「ああ。魔法少女自身も、公の情報より深い情報はあまり持っていない事が分かった。つまり」

「聖石とは何なのか? 悪心とは何なのか? そして、のは偶然なのか? その辺り全然分かってないって事ね」


 聖石で変身して戦う魔法少女自身にあまり教えていないのは、知られるとマズいからか知っても意味がない事だからか。


 まあこうは言ったが、実際はまだアズキちゃんは何か隠している事があるようだった。母親が政府の役人らしいので、仲が微妙とはいえ多少その辺りの情報が入ってくるのだろう。


「どのみちこれで調査が終わるってものでもないし、運良く情報が入れば儲け物くらいの期待だったしな。後はもう一回くらい聞き取りをして、ジェシーがOKを出したら邪因子を除去。記憶処理後は何かカバーストーリーを作って魔法少女の本部に届ければ良い。酷い怪我で記憶喪失になってたとか。……そのどさくさで内部に潜入できれば尚良しだ」

「抜け目ない事で」

「幹部だからね。善意だけで人助けはしないよ」


 ジェシーの見立てでは回復まであと三日。その日に邪因子除去と記憶処理をするにしても、それなりに時間もかかるし準備も居る。


 三日なんてあっという間だ。……また仕事が増えるのか。今日も徹夜だな。





「ところで隊長。わざわざアズちゃんの目の前で変身したんだって? めっずらしい~。あたしも久々に見たかったな。隊長のドラ」

「トカゲっ! ただのだってのっ!? ……トカゲで充分だよ」


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