『アズキ
こうして数話おきにピーター視点を挟む感じで進めていきます。
◇◆◇◆◇◆
やあ皆様! ボクピーター。先日死にかけの魔法少女を拾ってきた新米幹部です。
最初に現状報告をするならば、先日意識不明だった魔法少女、
ただ目覚めてすぐ彼女の体内の聖石、それと邪因子とで拒絶反応が発生。多少の反発は予想していたけれど、命に関わるレベルとは流石に予想外。
急いで本人に面会し、ここまでの経緯と今の状況を説明。少々キツイ言い方になりましたが、命に関わる以上無闇に魔法少女の力も邪因子の力も使わせるわけにはいきませんからね。
それから今日で七日。時折ジェシーから彼女の事を尋ねるに治療経過は順調。
ただアズキちゃんはどこか焦っているようで、毎日外への連絡許可を申請しています。ただ機密保持の観点から一向に許可は下りず、少々心苦しい気持ちもあったり。
さて。話は変わりますが、
侵略活動? それは組織全体での仕事ですね。
戦闘? それは幹部というより戦闘員の仕事ですよ。勿論自分でもできなくはないし、大規模な戦闘の場合は幹部が指揮を執りますが。
じゃあ何かって? それは、
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「……あああっ。終わんないっ!?」
ボクはパソコンに部下が集めた情報をまとめながら、やるせない怒りを愚痴っていた。
幹部の仕事はいうなれば
本部から来る
えっ!? 幹部なのに中間なのかって? 一口で幹部と言ってもそこは様々。
この悪の組織リーチャーは、首領様を頂点とした完全な縦割り組織。首領様の下に六人の上級幹部。その下にそれぞれ直属の幹部が付き、さらに本部付き幹部、支部付き幹部など色々細かく分けられている。
ボクは先日幹部になったばかりの新米なので当然一番下だ。そして余程のはねっ返りか実力者かマイペースな人でもない限り、その辺りの序列はきちっと弁える物なのだ。
「ここ数年増加傾向にある悪心の発生。そしてそれに対応する魔法少女の方は……増えてはいるけど微増。おまけに悪心以外にも対処しているから慢性的な人手不足かぁ。……こっちだって人手をもっと回してほしいってのっ!?」
あまりよろしくない現状に、ボクは勢いよく背もたれに背を預ける。
正直侵略する側としては、侵略する国を選ぶ際に幾つか基準がある。ざっくりまとめるなら、
一つ、侵略の難易度。
二つ、侵略によって得られる利益。
三つ、侵略後の管理の難易度。
大まかに言うとこの三つだ。
その点この
侵略自体はおそらく可能だけど、魔法少女が良くも悪くも不安要素。
純粋に資源という意味では利益はありそうだけど、何が何でも欲しいかというと何とも言えない。
そして仮にこの国を侵略した場合、突発的に出現する悪心をどうにかしなければ安定した管理は困難。
(侵略するにしてもしないにしても、これだっていう決定的な決め手がないんだよな)
なんとも宙ぶらりんな現状。しかし今はやるべき事を一つずつやろうと、ボクはひたすら書類の内容を打ち込んでいく。そんな中、
キィ……パタン。
突然部屋の扉が開き、そして静かに締まる。
どうしたのかと見てみれば、そこには息を殺して扉越しに耳を澄ますアズキちゃんの姿があった。
「……で? 何をしているんだい? そんなこそこそと。……黙っていちゃ分からない。何か用でも?」
問いただす様な口調になってしまったけれど、急に部屋に怪我人が飛び込んできたら誰だって混乱すると思う。ボクが良い例だ。
アズキちゃんはトイレに行こうとして迷ったと答えたが、流石にそれは下手な言い訳だった。
ボクはそっと近づいてアズキちゃんの眼を見る。悪の組織の幹部にはある程度“相手の心情を察する力”も要求されるけど……その辺りボクはあまり得意じゃないんだよなぁ。
じゃあ何でここに来たのかと考えて……もしかして!?
「……さしずめ、この通信機をこっそり使いに忍び込んで来たって所かい?」
「へっ……あっ!?」
この反応は当たりかな? さらに深く突っ込んでみると、どうやらジェシーには何も言わずに来ているようだった。
「あのっ!? 僅かな時間で良いんです。せめてワタシが無事だって事だけでも……友達に、伝えたいんです。お願いしますっ!」
(そういう心苦しい理由を出すの止めてくれないかなぁっ!?)
必死に頭を下げて頼み込んでくるアズキちゃん。こっちだって一言生きてるくらいは知らせてあげたいけど、それにしたって色々と問題がある。
どうにか宥めようとした時、
プルルルル! プルルルル!
誰だよこんな時に。ボクはいったんアズキちゃんを待たせて通信機を取る。
「はい。こちらピーター」
『メレンです。私が居ない間に現地で魔法少女を捕らえたと聞きましたが?』
まいったな。しばらく検査の為本部で缶詰めになっている筈なのに、どうやってかこちらの事を聞きつけてきたらしい。
「いや彼女は……捕らえたというか保護したというか」
『詳しく話してください』
「……え~っと今ちょっと都合が」
『
これだよ。静かだけど有無を言わさぬ迫力で言うメレンに、ボクは仕方なく簡潔にこれまでの事を説明する。なにせアズキちゃんも居るから急がないと。そしてそれを聞いたメレンは開口一番、
『元居た所に返してきなさい!』
「嫌です!」
迫力に押されてつい敬語になってしまったけど、流石に今の状況で放り出すわけにはいかない。
どうにか納得させようと説得するのだけど、その間もアズキちゃんが聞き耳を立てていたので少し声を抑える。
「じゃあそういう訳だから。彼女の事はもうしばらくこちら預かりで」
『……分かりました。資料を送ってもらえば手続きは私の方でやっておきます。ですが検査が終わって私が戻るまで、これ以上問題を起こさぬように。良いですね?』
こうしてとっても厳しい
(おっといけない。アズキちゃんを待たせたままだった。早く部屋に戻させないと)
「途中まで聞いていたなら分かるよね? 通信は許可出来ない。なので早く」
「ワタシを助けるために……規則を破ったんですか?」
うっ!? 痛い所を突かれた。ただでさえメレンに叱られてヘロヘロなのに、こんな子供にまで責められるのはメンタルに来る。
「悪の組織というのがどういう物か、ワタシには分かりません。だけど、少なくともピーターさんは良い人に見えます」
「……そんな事はないさ。ボクは任務とあれば平気で人を傷つけるし、そのように部下に命令も出来る。だから悪の組織に居るんだよ。……ただ、任務以外で
その言葉にアズキちゃんが一瞬考えこんだ隙を突き、部屋の外へと押し出して扉を閉める。
そのままさっきのアズキちゃんのように扉越しに耳を澄ますと、どうやら足音は部屋に戻っていくようだった。
「……まったく。怪我人は怪我を治すことにのみ集中してもらわないと。魔法少女の内部情報を聞き出すのはその後だ」
下手に尋問みたいなことをして、精神的に余裕がなくなって症状悪化なんてことになったら目も当てられない。どうせ調査期間はまだ一月以上ある。ここはじっくり待つとしよう。
……ほら。だから言ったろうアズキちゃん。
(しかし、また夜中にうろうろされても面倒だな。何か対策を考えた方が良いかもしれない。……仕事溜まってるんだけどなぁ~)