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荒事前に探しに行こう


「……浮かない顔ね?」

「そう見えちゃったか?」


 部屋に戻って少しした所で、普通についてきたエプリに声をかけられる。……当然の様にセプトもいるし、もう自然に返事をしてしまう自分に何とも言えないな。


「大丈夫? どこか、痛いの?」

「ああ。そういう訳じゃないから大丈夫だよセプト。ただちょっとさっきから気にかかってて」

「……ヒースの事ね?」


 心配そうにこちらを上目遣いで見るセプトを安心させつつ、エプリの質問に頷きで返す。


「試食会の終わり際に、ドロイさんがファマの実の残りを持ってきてくれたろ? あの時ドロイさんはどこか心配そうな顔をしてた。多分まだヒースが帰ってきてないからだ」

「……そのようね。ドロイはヒースの事になると顔に出るみたいだから」

「というより、というのが大きいかもな」


 この数日世話になったから分かるけど、ドロイさんは仕事中に顔に出すような人じゃない。


 ヒースの夜遊び自体は言っちゃ悪いけど慣れている筈だ。となると普段とは違う状況だから心配してると考えた方が自然だ。


「それにまだ気がかりなことがある。都市長さんが仕事で遅くなるのは分かるけど、アシュさんと一緒ってのが引っかかるんだ。だってアシュさんはジューネの用心棒だろ?」

「……いくら以前の雇い主とは言え、今の依頼人の元を長時間離れるのはおかしいって訳ね。つまりそれだけの何かがある」

「おそらく。そんな日だからこそドロイさんがヒースを心配している。流れとしてはこんな感じかね」


 何が起きているのかは不明。しかし何かが起きているかもうすぐ起きる可能性が高い。とくれば、


「よし。やっぱりちょっと行ってくるよ」

「……ドロイに直接問いただすつもり?」

「いいや。ジューネの所だ。今のドロイさんに聞き出すのは酷だと思うからな」


 そろそろ大葉との話も一段落しているだろう。早速向かおうとして、


「わざわざ来ることはありませんよ。こちらから来ましたから」


 コンコンというノックの音と共に、ジューネが真剣な顔で大葉と連れ立って部屋に入ってきた。大葉は心なしか少し疲れたような顔をしているな。


 しかし丁度良い。諸々じっくり話してもらおうじゃないの。





「セ、センパ~イ。あたしもうダメっす。ジューネちゃんに根掘り葉掘り手取り足取りぬっちょりねっとり探られちゃって、足腰立たないくらいにヘロヘロになっちゃったっすよ~」

「ちょっ!? 言い方っ!! ……そりゃあ聞き取りに熱が入ってしまったのは事実ですが、一切オオバさんには触れていませんからね! 商品だけですから!」


 大葉がおよよっとばかりにしなをつくりながら座り込み、ジューネが慌てて弁明する。わざわざ説明しなくても、大葉がいたずらっぽく笑ってるから冗談って分かるよ。


「まったくもう。……こほん。オオバさんも勉強会に参加したいとのことで抜き打ちテストを行うつもりでしたが、その様子だと私に聞きたいことがあるようですね」

「ああ。ちょっと気になることがあってさ」


 ジューネと大葉が椅子に座ったのを見計らって、俺は早速本題を聞くことにした。……決して抜き打ちテストが嫌だったからじゃないぞ。


「ジューネ。もしかしたらなんだけど、今日何か特別なことが起きた……或いはこれから起こるってことはないか?」

「……何故そう考えたのですか?」


 俺はさっきエプリと話し合ったことを説明する。都市長さんとアシュさん、ヒースが居ないこの状況。ドロイさんの様子、あとついでにアシュさんとジューネの今日の違和感についてもだ。


「違和感? 何かありましたか?」

「まあな。アシュさんの方はさっき言った通りで、今日に限って言えばジューネもそうだ。夕食の時は俺がドロイさんに聞こうとするのをわざと遮ってたし、そもそもこれまで一度も今日どうしてネッツさんに呼ばれたのか話してない。大葉のことで話すタイミングを失くしたんなら今話してくれ」

「そ、それは……」


 ジューネは何か言おうとして、そのまま口ごもってしまう。言えない理由でもあるのだろうか?


「……おそらく、誰かに話すことを禁じられているのでしょうね。大きな商売には良くあることだし、契約を強制的に実行させる道具もある。……違う?」

「道具ではありませんが口止めはされています。商人の信用に関わりますから」


 自身も傭兵として契約を結ぶことが多いエプリが察すると、ジューネも静かにそう返す。……成程ね。今の言い回しはつまりそういう事か。


「じゃあ幾つか答えられる範囲で教えてくれ。何か起こるのはこれからか?」

「詳しい時間までは分かりません」

「ではアシュさんと都市長さんはそれに関わっているか?」


 そこでジューネは押し黙る。つまりは関わっている可能性が高いな。直接情報を洩らせない。言い換えれば周りが勝手に推察するのは自由ってことだ。





 そのまま問答を続けることしばらく。どうにか朧げに把握できたものをまとめてみる。


「まず、今日の夜中から明日の未明にかけてアシュさんと都市長さんが何やら大事に関わる」

「……しかも二人だけではなく、相当数の衛兵が動くようね」

「アシュさんに衛兵沢山ってどんな戦力だよ? どう考えても荒事の気配しかしないぞ」


 元々このノービスはデムニス国に近いという事で、交易が盛んになるまで国境の防波堤のような扱いだったという。つまりそんな所の兵が弱いという訳もなく、交易都市群全体でも兵の練度で言えば三本の指に入るらしい。それが沢山って。


「それで何か起こるらしき場所が、よりにもよって町の中。外だったらダンジョン攻略の援軍って事もあったんだけどな」

「きな臭い話っすね。どっかを焼き討ちするとか?」

「この内容だとあながち間違ってなさそうで怖いよ」


 大葉が物騒なことを言っている。場を和ませようとしているのかもしれないが、今言うと本当になりそうだからやめとけな。


「そんなマズい状態の時にヒースが帰ってこない。そりゃあドロイさんも心配するよな」

「うん。心配、する」

「セプトちゃんの言う通りっす。あたしはそのヒースって人は知らないっすけど、一度トイレに立った時に屋敷の人達が心配そうに話してたのは聞いたっすよ」

「となれば……このままジッとしてるってわけにはいかないよな」

「ちょっ! ちょっと待ってください!?」

「トキヒサ。少し待ちなさい」


 俺がそう言って立ち上がると、エプリとジューネがどこか慌てたように扉の前に立ち塞がって止めに入った。


「あのですね。詳しくは言えないのですが、今外出するのはお勧めできないというか。ないとは思いますけど巻き込まれたら危ないんです」

「私も行くのには反対よ。厄介ごとであるのは間違いないもの。……護衛としてはこのまま大人しくしているのを勧めるわ」


 二人共そう言って俺を引き留める。セプトと大葉は何も言わない。セプトは俺の意見に従うつもりのようだけど、大葉は……どうだろうな? 状況を見守っているって感じか。


「大丈夫だって! ちょっとヒースを探してくるだけだから」

「……本当にヒースを探してくるだけ? アナタのことだから別件の厄介ごとをひっかけてこないでしょうね?」

「そんなに信用ないかな俺。そりゃあ色々あったけど、今回は本当に探しに行くだけだって」

「あたしが言うのもなんすけど、センパイは色々じゃ済まないくらいトラブルを巻き起こしてると思うっすよ。この前の経緯を聞いた限りではっすが」


 俺は弁解するのだが、エプリに加えてジューネや大葉も何とも言えない表情を見せる。……いや分かってるけどね。確かに少々トラブルに遭う確率が多いなあとは思ってるけど、どれも自分から好き好んで突っ込んでいるんじゃあないんだ。ホントだぞ。


「それに探しに行くって、ヒース様が何処に居るか当てはあるんですか? 闇雲に探しても見つかるかどうか」

「ひとまずヒースらしき人をエプリが見た場所からあたってみる。居なかったらそこを中心に周りを」

「実質当ては無いってことじゃないですかっ!? ……もしかしたら見つからないかもしれません。他のヒトが見つけるかも。もしくは入れ違いになるかも。なのに行こうって言うんですか?」


 ジューネが理詰めで止めようとするのに対し、俺はそこで力を込めて頷きながらただ我儘に自分の意思をぶつけていく。


「他の人が見つけるなら上々だし、すれ違いになっても自分で帰ってくるならそれで良いよ。……俺はただ、後になってあの時やっておけばよかったって思いたくないだけなんだから」


 それは別にヒースの為じゃない。都市長さんに頼まれているからってのも少し違う。近いのは……そう。この屋敷の人達が心配していたから。


 より正確に言えば、


「待っていれば解決する話かもしれない。それでも、周りが心配する中で一人寝てたら寝覚めが悪いって話だよ。それになんだかんだ一緒に話をして、鍛錬をして、食事をした仲だしな。放っておけない」


 だから頼む。行かせてくれと、俺はゆっくり頭を下げる。理屈ではなく感情で動いているのだから、最低限これくらいの誠意は見せなくてどうするという話だ。


「私からも、お願い」

「セプトちゃん!? 貴女もですか?」

「うん。トキヒサと、一緒に行く。ヒースのこと、私も気になるから」


 横を見ると、セプトも俺と同じように頭を下げていた。前にヒース絡みで失敗したから口を出さないかと思ったけれど、どうやらそんなことはなかったみたいだ。


「…………はぁ。分かったわ。二人共顔を上げて」

「え、エプリさんまでぇ」

「考えてみれば、トキヒサが一度こうと決めたらそうそう曲げると思えないもの。……一応護衛として忠告はしたし、あとは雇い主の意に沿うよう動くのみよ」

「ありがとな! エプリ!」

「……ただし、時間を予め決めておいて、その時になったら見つかってなくても切り上げる。嫌だと言っても私が無理やりにでも引っ張っていく。それが最低限の譲歩よ。……約束できる?」


 ああ。約束するよ! そう言うと、軽くため息をつきながらエプリはセプトと同じく俺の側に立った。


「ああもうっ! 分かりましたよっ!」


 そしてそれを見たジューネは、渋々といった感じで一歩扉の脇にずれてくれた。すまないなジューネ。また儲け話とかあったらお詫びに真っ先に話すからな。





「しかし、当てがほとんどないまま探すというのはどうかと思いますよ」

「そうだよなぁ。もっと他に手掛かりは……例えばエプリの探知能力なら探れないか?」


 行けるかとエプリに聞くと、ゆっくりと首を横に振る。


「……難しいわね。風でおおよその地形や何かの動きを察知するくらいが限界。動きから種族くらいは予想出来ても、個人までは特定できないわ」

「そうか。……あぁもう! せめてもっと人手があればな」


 屋敷の人達に応援を頼もうかとも思ったけど、考えてみたらとっくにヒースを探しに何人か出ている筈だ。さっきヒースを見かけた場所をドロイさんに訊ねられたからまず間違いないだろう。


 せめてもっと人が居れば人海戦術という手も使えたのに。そう愚痴をこぼした途端、


「人手っすか? それなら何とかなるかもしれないっすよ!」

「本当か大葉?」


 思わぬ所から救いの手が差し出された。……少し不安な手ではあるけれどな。


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