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金で繋がった関係

 さて、どうしたものか。変な物ばかり『万物換金』で送りつけたからアンリエッタはご立腹だ。だが、


「まあ聞いてくれ。なんと一日で純益が二千四十デンにもなったんだ。一日の稼ぎにしては中々だろ」

『それは……否定しないけどね』


 あの後、俺達は色んな場所を回って不用品を買い取っていった。


 物を処分できずに困っている人はそれなりに多く、おっちゃんと同じく半額でも皆喜んで売ってくれたのだ。口コミが拡がればまだ稼げるだろう。


 ちなみにこういうので問題になるのは同業者だが、そこはジューネ達に別行動をして調べてもらった。どうやら大半が副業程度で、あまり大々的にやらなければ目を付けられる事もないという。


『ずっとこれだけで稼ぎ続けられないのは分かってるようね。まあここに滞在する間くらいなら問題ないでしょう。だけど』

「だけど金を稼ぐ事は大前提。肝心なのはその内容……だろ? 分かってるって。だからこれだけじゃなく、都市長さんにアルミニウムの売り込みをしたじゃないか」


 都市長さんが帰って来て食事を食べ終わるのを見計らい、ジューネ達と早速売り込みを開始したのだ。


「都市長さんも疲れていただろうに真剣に話を聞いてくれてな。まあ話の流れ上加護の実演をすることになったけど」


 やはり『万物換金』は都市長さんから見ても珍しいようだ。アルミニウムとは別に大分驚かれた。


「都市長さんの協力で、アルミニウムをダンジョン産として売り出すのはなんとか出来そうだ。条件付きだけどな」

『都市長の選ぶ職人にアルミニウムを調べさせ、危険性が無いと判断すれば許可する……だったかしらね』

「その後も取引の優先権やら色々あった。ジューネやアシュさんにフォローしてもらって何とか交渉になったけど、俺一人だったら確実に良いように使われてたな」

『今回はアナタの手腕より、純粋に相手の方が上手だったと褒めるべきね。ジューネも中々だったけど、都市長は更に上を行ったわ。あれは才能もあるけれど、踏んだ場数の差が圧倒的に違うという所ね』


 あのアンリエッタが珍しく普通に褒めている。それだけ都市長さんが凄いって事か。


「サンプルとして現物を幾つか渡したから、数日後にはひとまず結果が出るらしい。値段交渉にも影響が出るから上手い方に転がってくれると嬉しいんだけど」

『上手く転がりすぎても困るんだけどね。今回の一件で確実に都市長に目を付けられてるわよ。向こうが友好的に接していることが救いね」

「目を付けられてるって……まだなんか不思議な加護だなくらいしか考えていないと思うぞ。それかアルミニウムがもし良い物だったら手を付けておくくらいじゃないか?」

『だと良いけどね。まあ都市長は悪くない人材だから、精々仲良くしておきなさいな。ワタシの手駒』

「そうさせてもらうよ」


 その言葉を最後に通信が切れる。もう一回分通話できるが、こちらが話す事をまとめてからだ。


「……向こうもおおよそ知っているでしょうに、何故わざわざトキヒサに聞いていくのかしら?」

「前にもそう聞いたんだけど、俺の主観も込みで聞きたいんだとさ」


 また目が覚めてしまったのだろう。ソファーにもたれたままの体勢で薄目を開け、エプリがそうポツリと口にする。というか寧ろ毎回起きているんじゃないだろうな? セプトはぐっすり眠っているのに。


 起こすのも悪いので時間を変えようかと言ったのだが、エプリは別にいつもの時間で良いと譲らない。この場合は譲り続けていると言うべきか? 


「そうだ! 忘れる所だった」


 貯金箱を呼び出し、銀貨十枚をエプリに差し出す。エプリはそれを見て少し困惑しているようだった。


「……これは?」

「これまでの依頼料だ。金が入ったし少しずつでも払っていこうと思って」


 払える内に払っておかないと、いずれ借金で首が回らなくなりそうだ。エプリは銀貨を静かに受け取り、そのまま服の中に仕舞いこむ。


「確かに受け取ったわ。だけど、次はもう少し懐に余裕が出来てからにした方が良いわよ。……いざと言う時に金が無いとマズいでしょう?」

「まあな。だけど支払う意思はあるって所をしっかり見せておこうと思って。それに、そのいざと言う時にこそエプリがいてくれたら助かるしな」

「……受け取った分の仕事はするわ」


 そう言ってエプリは再び目を閉じる。相変わらず寝つきがものすごく良いな。十秒もしないのに寝息を立て始めたぞ。


 金で繋がった関係。俺とエプリを一言で言い表すとそれだろう。だけど、字面こそ悪いけど中身はそう悪いもんじゃないと思う。どんなものであったとしても、繋がりは繋がりだからな。


「さあてと。今度はアンリエッタに明日の予定でも説明しようかね」





 異世界生活二十日目。


「はっ! でやあぁっ!」

「まだまだ。今だけを見るんじゃない。もっと動きの先を読めっ!」


 ヒースの打ち込みを軽くいなしながら、反撃と共にアシュさんの喝が飛ぶ。


 昨日アシュさんに「ヒースの鍛錬を手伝ってくれ。話のきっかけにもなるだろ?」と言われて来たのだが……どうしろと?


 割って入れとかじゃないよね? 動きを見るだけで手いっぱいだぞ。加護で動体視力が強化されていなかったらまさに目にもとまらぬって動きだ。


「……戦闘訓練としては上物よ。見るだけで参考になる動きも結構あるし」

「目が、疲れてきた」

「……何が何だか全然見えませんね」


 この動きを普通に見えているエプリはやはり凄い。セプトはなんとか目で追えると言ったところか? ジューネは見えていない様子っと。


 流石にジューネに負けると色々男としての自尊心的な何かが崩れ去りそうなので少しホッとする。セプトに負けそうなのは出来ればノーカンとしたい。


「大分身体のキレも戻ってきたな。準備運動はこんなものだろう」


 そう言ってアシュさんが剣を下ろすと、ヒースも軽く息を吐きながらそれに合わせる。えっ!? これで準備運動? アシュさんには準備運動なのかもしれないけど、ヒースの方は結構疲れたって感じだぞ。


「ずっと二人で戦ってばかりじゃ味気ないからな。今回は少し趣向を凝らしてみようと思う。……お~い! 待たせたなお前ら。出番だ。ジューネも暇なら一緒にな」

「暇じゃありませんっての! 頼まれごとなので仕方なくですよ」


 ようやく出番らしい。俺達はそのまま二人に近づいていく。ジューネもぶつくさ言いながら一緒だ。


「ヒース。今回の鍛錬はこいつらにも協力してもらう」

「はぁ。しかし先生。この者達は父上の客人。怪我でもさせたら問題では? 見た所僕の相手になれそうなのは……そこのフードの者くらいのものです」


 普通にこっちの戦力を見抜かれてるよっ! いやそうだけどさっ! さっきの動きに完全に反応出来ていたのはエプリくらいのものだったから。


「……トキヒサの護衛以外は契約の範囲外だけど、多少なら付き合うわ」

「別に直接戦えとは言ってない。まあ実際まともにやり合えるのはお前さんと、周囲の損害を度外視すればセプトも戦いになるな。トキヒサは……全財産をぶち込んで二、三度斬られる覚悟をすれば勝ち目が出てくるか」


 うん。こっちも冷静に分析されてる。セプトは最初に戦った時みたく影をフルに使えるのならいけるかもしれない。


 ヒースは動きは速いけど直接攻撃のみのようだし、先に影で囲ってしまえば動きを制限できる。と言ってもここはあまり遮蔽物がないから、まず影を作る準備がいるけど。場を荒らす的な。


 あと俺に関して言えば、まず斬られた時点で負けだからね普通。二回も三回も斬られる事自体まずズレているからねホント。あと全財産って。


「私も、戦う?」

「いや、今回はあくまで俺とヒースでこれまでのように戦う。お前さん達に頼みたいのは横やりだ」

「横やりですか?」


 俺の問いかけに、アシュさんはあぁと首を縦に振る。


「俺とヒースが戦っている最中に、適当に金魔法でも何でもいいから攻撃を加えてくれ。威力は弱めでな。ちなみに狙いは出来れば無作為が良い。流れ弾のような感じだ」

「なっ!? アシュさん。それはちょっと危ないんじゃ?」


 威力は弱めったって、石貨でも素肌に当たったら火傷するし、目にでも当たったら大変だ。エプリの風弾だって結構痛いしセプトの魔法も然り。それで横やりとなると少しだけ不安というか。


「戦いは常に目に見える相手だけとは限らない。だからそういう時に備えて鍛錬を積んでおかなきゃいけない。それにだ」


 俺の不安を見て取ったのか、アシュさんはニヤリと不敵に笑う。


「なに。心配するな。ヒースは一発や二発当たってダメになるような鍛え方はしていない。それに……俺がエプリの嬢ちゃんならともかく、お前さんの金に当たると思うかい?」


 なるほど。確かに俺がいくらアシュさんに金をばら撒いたとしても当たるとは思えない。ならヒースにだけ注意していれば良い訳だ。


「……分かりました。でもちゃんと避けてくださいよ。あとヒースもな」

「当然だ。それと呼び捨てではなくさんか様を付けろ。父上の客人であろうともな」


 はいはい。それではまだちょっと不安だけど、鍛錬に協力するとしますか。そう言えばここで使う分は必要経費で出してくれるのかね?





 こうして再び二人の鍛錬が始まった。基本的には先ほどと同じように剣による試合だが、


「金よ。弾けろっ!」

「……“強風ハイウィンド”」


 このように俺とエプリが邪魔をする。金は言われた通り狙いも付けず、半ばばら撒くように投げて破裂するタイミングも適当。エプリも同じような物だろう。するとどうなるかというと、投げた金が風に流されてそこら中を飛び回るという事態が起きていた。


「くっ!? このっ!」

「ほらほらどうしたヒース? 反応が遅いぞっ! そおらっ!」

「ぐはっ!?」


 威力は弱くとも近くで金が破裂すれば一瞬気を取られるし、風に押されれば体勢だって崩れる。それが戦いの中ではどんなに少しであったとしても致命になる。


 哀れヒースは一瞬とは言え隙が出来、そこをアシュさんに突かれてビシバシ木剣を当てられている。


 ちなみにアシュさんときたら、適当に投げているとは言え乱れ舞う硬貨を全弾回避しているのだから驚きだ。ほぼ真後ろからのもあったんだけどな。


「……やるわね。こっそりアシュを風弾を混ぜて狙撃してみたけど、三発撃って一発掠っただけか」


 エプリそんなことやってたんかいっ!? だけどよく当てたね。


「私も、やる?」

「今回はやめておいた方が良さそうだ。だって見ろよ。俺とエプリだけでアレだぜ」


 セプトはやる気だが、この時点でヒースはもうボロボロだ。これに追い打ちをかけるというのはちょっと気が退ける。それにセプトは闇属性を使った時点で素性がバレる。まあ今はさせなくても良いだろう。


「はぁ。はぁ。こんなもので……負けるかぁっ!」


 今にも倒れそうになっていたヒースだが、木剣を杖のようにしてなんとか踏みとどまる。


「よし。良く立った。では今日はこれで終わりだ。最後に思いっきり来いっ! 一撃当てて見せろっ!」

「はいっ! うおおぉっ!」


 最後の力を振り絞り、ヒースは剣を構えて咆哮しながら吶喊する。今にも倒れそうなのになんて気迫。


 途中石貨が何枚かぶつかりそうになったが、なんと木剣で弾き飛ばしてそのまま一気にアシュさんに迫る。だが、


「速さは良い。気持ちも乗った良い剣だ。だが……真っ正直すぎるっ!」


 ヒースの剣を半身をずらして紙一重で躱し、アシュさんはカウンター気味の一撃でヒースを胴薙ぎにする。ヒースはその一撃で膝を折り、遂にその場に崩れ落ちた。


「……よし。今日の分はここまでとするか。最後もしっかり一撃当てたしな」


 倒れこんだまま疲労で動けない様子のヒースに対し、アシュさんはそんなことを言う。えっ! 最後はアシュさんはギリギリで躱していたように見えたけど。


 アシュさんは無言で服の袖の一部を指差す。そこには、石貨によって出来た焦げ跡が付いていた。


 そうか。これは途中でヒースが弾いた石貨だ。アシュさんは自分に向かってきた石貨は全て回避していたけど、ヒースが弾いた分までは回避しきれなかったらしい。


「じゃあこのまま少し休んだら戻るとするか」

「ちょ、ちょっと。結局私来た意味無いじゃないですか!」


 ジューネときたらただ見てただけだもんな。暇だったらって呼ばれたから微妙に怒っている。


「ジューネの仕事はこれからだ。休んでいる間に話をしておいてくれ。トキヒサもな」


 そう言えばそうだ。これまで都市長さんから頼まれてはいたものの、じっくり腰を据えてヒースと話をしたことはなかったな。折角ジューネもいることだし、ここは一つやってみるとするか。

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