時久が混ざるはずだった『勇者』達の視点です。
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どうしてこんなことになってしまったんだろう? 私、
「……これが『勇者』だと!? どのような者かと思えば何のこともない。ただの小娘ではないか!?」
「クフッ。見た目だけで判断してはいけませんよぅ。問題なのは宿した加護の方です」
私の目の前には、その凶魔をけしかけた二人が佇んでいた。どちらも黒いローブとフードで顔はよく見えないけれど、声のトーンから男の人のようだった。一人はローブを着ていても分かる筋骨隆々な大男。もう一人も背は高いけれど、どこか粘つく嫌な感じの声の人。
「さあ。私達と一緒に来てもらいますよ『勇者』様。我らが悲願の成就のために」
彼らは座り込んで動けない私に歩み寄ってくる。どこに連れていかれるのかは分からないけど、町の人を凶魔に襲わせるような人達なので良い結果にはならないと思う。
本当にどうしてこんなことになってしまったんだろう? 私はこの
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それは十一日前、高校の図書室で本の整理をしている時だった。脚立に登って棚の上の本を並べ替えていた時、急に地震が起きたんだ。震度自体はせいぜい三か四程度。普通なら大したことはない。
でも私はバランスを崩して脚立から落ちてしまった。その時に頭をぶつけてとても痛かったのを憶えている。そしてだんだん意識が遠くなって……気が付いたら私はこの世界に来ていた。
城の一室。魔法陣が床いっぱいに描かれた部屋で、私は同じように召喚されてきた三人と一緒に呆然としていた。そしてあれよあれよという間に周りを城の兵士達に囲まれ、王の間まで連れていかれたんだ。
豪華な装飾がされた広い部屋に、立ち並ぶ中世風の服を纏った人々。そして玉座に座る王冠を被った男の人。子供の頃に読んだ物語のような光景だと思ったのを憶えている。
この城の王様、ジーグ・ホライ・ヒュムスと名乗った初老の人は、私達のことを『勇者』と呼んだ。『勇者』とは古い伝説で異世界から呼び出されて世界を救った人だと言う。そして私達はその失われた召喚法を再現して呼び出されたらしい。
王様の説明によると、ここは私達から見れば異世界。世界は幾つかの国に分かれ、ここはヒト種と呼ばれる者達の国、ヒュムス国。現在世界は危機に瀕していて、凶魔と呼ばれる怪物の出現が頻繁になっている。それは邪悪な魔族達が原因ではないかとされ、『勇者』はその対抗策として召喚されたのだという。
でも、私にはそんなことはどうでもよかった。いきなりこんなところに連れてこられてパニックを起こしていた私は泣きながら訴えた。戦いなんてできません。どうか元の所に返してくださいと。
王様は静かに言った。『勇者』は特殊な加護を所持していて常人とは地力が違う。仮に子供が来たとしてもその時点でこちらの平均的な成人並みに強くなっている。鍛えれば更に強くなることは確実だと。
そして……戻すことは出来る。ただし、
召喚術で呼び出す条件として、一定以上の魔力量を持つことと、死の淵にある者という条件があるかららしい。私は否定しようとしたけれど、ここに来る直前頭を強く打っていたことを思い出す。
他の人達を見ると、皆何かに気付いたような顔をしている。思い当たる節があるみたいだった。
王様は話を続ける。戻っても待っているのは死だが、それを回避する方法もある。かつての『勇者』が所持していたとされる“天命の石”が有れば、戻ったあとで訪れる死を誤魔化すことが出来るという。
石は長い歴史の中で現在行方知れずだが、最後に所在が確認されたのは魔族の国だったらしい。こちらは現在少しずつ情報を集めているのが、なにぶん他国なので調査が思うように進まないとのこと。
最後に、「『勇者』殿達はあくまで凶魔や魔族への対抗策。それ以外の戦いに駆り出すつもりはなく、基本的には個人の意思に沿うつもりだ。最低限の戦闘訓練は受けてもらうがそれ以上の強要はしない。戦わないのであっても国賓待遇で迎え、望むなら仕事も用意する。だが出来れば一人は戦ってほしい。部屋を用意するので一晩ゆっくり話し合ってもらいたい。それと、能力測定等は今日の夜夕食後に行う」という旨の話で解散となった。
その後部屋に案内された私達は自分のことを話し合い、それぞれが確かに死んだ、あるいは死ぬような目に遭ってここに来たことを確認した。私一人なら偶然ということもあり得たけれど、全員がとなるとそれは事実なのだろうと思う。
次に王様の言葉がどこまで本当なのか考えてみる。このまま戻ったら死んでしまうというのは多分事実。次に本当に戻れるのかだけど、これに関しては今は確かめようがないので保留。
最後に“天命の石”だけど、これには皆正直半信半疑だった。有るのかどうかも分からないし、適当に嘘をついて私達をいいようにこき使うということもできる。なのでこれはあまり期待できない。
私達は話し合って、ひとまず自分達の身に付いたという能力を知ってからでも遅くはないということになった。戦うにしても戦わないにしても能力を把握してからだと。……現実逃避かもしれないけど。
……でも、私にはどんな能力だったとしても戦うという選択肢はなかった。こんなところに連れてこられて、知らないままに変な能力を身につけさせられる。自分が自分でなくなるような感覚を覚えて、私はとても怖くなったのだ。
見たこと無いような豪華な夕食の後、能力測定のためそれぞれ血を一滴取られた。本格的なものは時間がかかるらしいけれど、簡単なものであればこの場で可能だという。それぞれの検査結果を見るたびに、検査官は驚きの声を上げた。
私達は魔力というものが常人より相当高いらしい。更に加護と言われるものも一人一つ付いているようだ。これは持っている人が非常に少なくて、持っているだけでスカウトがくるレベルだという。
自分が特別だと、人より優れていると言われると大なり小なり嬉しいもので、他の人達も少し浮かれていたように思う。だから翌日再度王様から聞かれた時に、私達の内二人は戦うことに意欲的だった。私ともう一人は戦わない派。だけどスタンスはそれぞれ違っていた。
一人は
次の一人は
そのまた次の一人は、
そして私は、
これらはそれぞれの意見を話し合った時に私が感じた印象だ。あくまで印象なので、実際は違うかもしれない。
王様はそれぞれの言い分を聞いた上で、私達の要望になるべく沿うようにすると約束してくれた。口約束だけど、約束をしたという事実は少なからず安心するものだと思う。
二人しか戦わないけれど良いのですかという質問があがったけれど、『勇者』が居るだけで周囲に良いイメージを与えるから問題はないとのこと。最悪戦力にならなくとも、一種の広告塔みたいなことをさせるつもりなのだろう。
しかし