2023年12月6日。浦川辺あやは、来月には歌手としてメジャーデビューする。観音寺芸能プロダクションの元を最初に訪れてから約1年間。レッスンから対バンライブまで、笑いと涙に溢れた時間を過ごしてきた。男子バレー部は親友の雛菊さやに任せて、松岡、岡部、井沢、新垣は来月に3度目の全国大会に進む。
過去の時間ループで恋人だった神楽りおは、新しい恋人の泉岳きらりと共に、女性同性愛者として歩む。今は高校3年生の彼女達は大学受験の勉強に没頭するのだった。
時間の巻き戻しはもう起きない。あやとりおの時空の鬼道はアンインストールされて。術者である前田よしとも受験勉強に没頭している。よしとには女子サッカー部の蛇島りりあというプライドの高い恋人がよく似合う。
あやは歌う。
長空北高校で出会った全ての人が、これから出会う全ての人が、最大の幸福を手に入れられますように。
渋谷のライブハウスで今宵も対バンライブに忙しい。
この日の出演と物販を終えて、母・浦川辺みちよの車の中で携帯電話を開く。
「クリスマスはデートできないですか」
「だめだよ。クリスマスは対バンだよ。デートは無理だよ」
「じゃあ対バンライブに行きます」
「ライブには来ないで」
「わかりました。あや。今夜はどこで待ち合わせしますか」
「月の見える公園」
あやは、自家用車のメルセデスベンツを運転する母・みちよに、
「お母さん、いつもごめんね。学校では友達だから」
と言う。
みちよは、
「素敵な子じゃない。あやがライブで歌った日は、必ず会いたいなんて」
と言う。
あやは、月の見える公園に着くと、母親を車で待たせて、中へ歩んで行った。
煌々と天空に座す月の光を浴びて深く息を吸った。
強そうなあやを見るたび
とても僕は不甲斐ない
砂時計が僕を閉じ込めて
恋人になるのを待っているのなら
いくらでもお待ちしております
あやは、
「じゅえりも月の見える公園が好きなの?」
と言う
ここはあや様の聖地です
あや様はここで王子様になるのです
じゅえりは、いつものように少し前に公園に来て、あやを待っていた。あやは、最後に自分に想いを寄せる女の子を選んだ。抱きしめて、本当の望みを叶えるために歌う。
この公園で、じゅえりに聴かせるとても短い歌。
永遠なんかよりずっと
こころで生きていられたら
一つの誇りが大切なブローチになるの
じゅえりは、まるで映画のお姫様のようにお芝居をしながら、
「あ、あや様の本当の望みが叶うのならば、一瞬に散って、決して星屑にも叶わない私を拾い集めてはいけません…」
と言った。
あやは、
「今日も素敵だ!君がくれた強さのおかげだ!」
と言った。
じゅえりは、まるで映画の王子様のようにお芝居をしながら、
「僕は置き去りの優しさに叶わないのかい!」
と言った。
あやは、
「そんな事ないわ!貴方の優しさよ!」
と言った。
それは時に御伽噺のようで、心しか抱きしめる者の無い者達のストーリーだった。
そしてまた君に会うための春が来て。
りおはきらりと共に生き、共に歩んだ。
よしとは強かに生きた。
あやは人々の傷ついた心の闇を払うように歌う。様々な出会いと別れの中で、本当の望みが叶う呪いの指輪を、あやにはめたのは誰だったのか。それでもそれぞれの未来に最大の幸福を。
―Fin―