2023年10月。長空北高校2年生の浦川辺あやはクラスメイト達と修学旅行へ行った。復帰した芸能活動で忙しい中、しかし大切な学校行事を休む事はなかった。班行動では雛菊さや、三栖じゅえり、他2名と大阪の街を見て回った。
ある日の学校で、あやは、
「じゅえり。31日火曜日はハロウィンパーティをやるよ」
と言った。
じゅえりは、
「あれ?あや様は対バンライブで忙しいのではないのですか?」
と言う。
「渋谷も新宿も治安が最悪だから事務所で18歳未満は自粛って事になったんだよ。たまの休みだから我が家でハロウィンパーティをしようと思って…」
「そうなんですか!一緒に遊びましょう!」
「来てくれるの?」
「行きますよ!」
あやは来年1月にメジャーデビューを控えて、少しでも認知度を高めたり、コアなファンをゲットしたかった。その為、対バンライブ等の活動も全く手を緩めていなかった。ハロウィンは特別にお休みだった。
雛菊さやは、
「いいなぁ♡私は部活で献身的な女子マネージャーをやってきます♡」
と言っていた。
さやは、主将・前田よしとの引退を見届けてからも男子バレー部の女子マネージャーに没頭していた。
あやの対バンライブの日程が進むと、次第にじゅえりは「行ってみたい」と言うようになった。あやは「じゅえりには来て欲しくないんだよ」と冗談のように笑って断った。
じゅえりは修学旅行が終わった辺から、将棋部の活動を受験勉強へシフトするようになった。半分帰宅部のじゅえりは、たまに対バンライブに向かうあやと、正門までの短い距離を一緒に帰るようになった。その意味深な振る舞いに嫌な顔一つ浮かべないあやの横顔を、何度も見送った。
夢を今度こそ叶えたいあやの横顔。
ある日。
じゅえりは正門前の広場であやを呼び止めた。
「あや様。気を付けて行ってらっしゃませ」
この日の対バンライブに向かうあやは、母親のメルセデスベンツの中で衣装に着替える。学校にいる間は、進学校の生徒のシルエットに身を包んだあや。
じゅえりは、両手を高く挙げると、まるでお姫様のように可愛らしい仕草で見送った。昨年のこの季節も、こうやって落ち葉の絨毯が出来ていたはずの空間で、踊るようなじゅえりの仕草は、どこかあやを励ましているように見えた。
あやは、じゅえりの元へ駆け寄ると、
「じゅえりは『来て欲しくない』って言われるの嫌いじゃないのかな?」
と言った。
「一緒に踊りましょう」
「いや…ここで踊るのは嫌だよ…」
「私は嫌ではありません」
あやは、
「あははは!なんか背の低い彼氏みたいだな!」
と意地悪な事をあえて言ってみたのだった。
じゅえりは、ハッとして、
「『僕は』不甲斐ない」
と言うと、あやはギクッとして、じゅえりをジロリと見た。
じゅえりの目には曇りが無かった。
そしてハロウィンパーティの日がやって来た。
あやとじゅえりは二人で下校した。
枯れた落ち葉を蹴散らして歩く。
じゅえりは、
「あや様。二人でパーティというのも風情があって良いですね」
と言う。
楽器演奏のような落ち葉の雑踏。じゅえりは、1年生の頃から同じクラスのあやに、今は心を開いてやまない。今では容姿端麗なあやが好きだった。
あやは、
「じゅえりは、なんで私と仲良くなってくれたのかな?」
と言う。
じゅえりは、
「あや様は綺麗ですよ。皆、あや様の事が好きですよ」
と言った。
あやは、クスッと笑うと、
「知ってるもんな…じゅえりは色々と…」
と言って少し早歩きになった。
じゅえりが、追いかけて、あやの手を握ると、
「あや様!…私はあや様の事が…!」
と言った。
あやは振り返ると、じゅえりのおでこにキスをした。
「ハロウィンパーティのはじまりだね!」
あやは照れ隠しにそう言った。また新しい幸せを探し出す一番最初の日に、この日の通俗的な呼び名を重ねて、心を隠して見せた。
それから冬が来るまでの間。
二人は重なり合う落ち葉のように秘かに血の通った時間を過ごすようになった。