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第6話「体育祭」

2022年5月15日日曜日。快晴の青空の下、長空北高校は体育祭当日を迎えた。2年生の神楽りおは、横山みずき、田原えみか、前田よしとと共に、体育祭を楽しんでいた。


えみかは、

「前田君く~ん。バレー部の司令塔だけあって足速いよね~」

と言う。


夏の足音のような日差しの中、全校生徒の熱気は太陽をはじき返すように力強く、体育祭は次々と種目が進んでいった。グラウンドの砂は、日頃はサッカー部やラグビー部の汗が染みついている。体育祭の最大の山場は午後の騎馬戦だ。今日は大勢の生徒達が獅子奮迅の活躍をしている。

りおは、文芸部で仲良くなった浦川辺あやが気になっていた。100メートル走に出場したあやは、快速を飛ばして決勝に進出した。りおは、カッコいいなと思っていた。綺麗なだけでなく、男子に比べれば、たとえばよしとに比べれば、遥かに華奢な肉体で、男子のような力強さがある。この後、しばらくすれば、あやがまた走る。


よしとが、りおに、

「浦川辺さんとは、仲良くやれている?元芸能人・子役タレントが、こんな何の変哲もない学校に来て、いきなり文芸部に入って」

と言う。


りおは、

「うん。いつの間にか急接近だよ。とにかく明るくて好きだな」

と言う。


すると、よしとがりおの後ろを指さした。りおが振り返ると、あやが立っていた。

「りお先輩!」

「あやちゃん!」

「トイレ行きませんか!」

「なんでだ?!」

どこか子供染みた仕草や言動のある様子も、りおはあやの魅力だと思っている。あやも、そんな自分を受け止めるりおの優しさが好きだった。自分を受け入れてくれる存在としての、りおを好きだった。

よしとは「確かに懐いてるな」と思った。


様子を見ていた、みずきが、

「やはり、あそこは『禁断の交わり』なんだな」

と言う。


雑踏の中を歩く二人には、心と心が重なり合う感覚があって、その正体が同性愛者というプロフィールに依るものだと感じていた。そこで、あやは、男子に興味が無いことを再度打ち明けた。たとえば棒倒しや騎馬戦のような種目を見ていても、闘う姿にまったくトキメキが無いと言った。


りおは、

「私も女の子が好きだよ」

と言った。りおも再度打ち明けることができた。決して長くない時間ながら、心と心を寄り添わせてきたことの必然とみなせる、きっかけをものにして。

あやは、りおの心がまた開いた瞬間に居合わせることが出来たのだった。

一つひとつの言葉が、予感を連れてきて、拒むことを知らないかのように、受け入れられていく。気がつけば、それをお互いが繰り返している。悪ふざけのような、真剣な恋愛のような、不思議な感覚の中で、心の扉を開くのは、同性ということもあるが、お互いの同性愛者というプロフィールに依るものだろう。二人は、異性愛を基軸とする現実世界で、二人きりの時間の刹那に導かれていく。


あやは、りおがどれくらい自分に好意を寄せているのか、天秤や物差しで測ることができたら良いのにと思った。自分は容姿が優れていて、知的な優しいりおを選んだという感覚から、どこか遠慮も無かった。そこで、芸能界にいた頃の話を少し打ち明けてみたのだった。知ってもらうのが、良いのではないかと。


「女の子が好きな女の子」を女性同性愛者と呼ぶとして、その詳細は様々だ。友情の延長のプレイだという者。性的趣向に過ぎないという者。肉体が女性で、心が男性だから、女性を求める者。肉体も心も女性であり、そのうえで女性を求める者。トランスジェンダーの者。また男性のパートナーを持つ者、そのうちバイセクシャルに区分される者。それに対して女性のパートナーしか受け入れられない者。


二人の周囲は、その内部構造の詳細に立ち入る事無く『禁断の交わり』と冗談めかしてみても、不当な介入を一切せず見守っていた。同性愛に居場所があるべきだと、長空北高校の生徒達は思うのだった。

二人は、女性のパートナーしか受け入れられない女性同性愛者だが、それを、自分自身の真実として知ることができるとは限らないし、相手の真実を信じることは更に難しいのである。

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