目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報
五 顔で人を判断すると破目になる

修良を部屋まで送り、彼から任務の内容を聞き終わって、幸一はまた頂上に登った。

修良の代わりに、師匠に任務の報告をするために。

しかし、九天玄女のいる謁見の間に入ったら、意外な人物を見た。

「二郎さん……?」

不確かな口調で、幸一はその人の名前を呼んだ。

「お坊ちゃま!」

九天玄女にお礼をする途中だが、朱二郎が幸一を見た途端に、泣きそうな顔で大声を上げた。

「お坊ちゃま……ご無沙汰しております!お元気のようで、なによりです!」

「やっぱり二郎さんだ!どうしてここに?」

幸一は感慨深い。

六年前の兄のような親切な少年は、もうたくましい青年に成長した。

幸一が家出してから、朱執事親子は彼を探していた。

幸一が玄天派に入ると言い出したから、朱執事はすぐに九香宮に尋ねた。

幸一がいるとの答えをもらったが、ずっと顔合わせをさせてもらえたかった――もちろん、修良の独断で。

あれから、朱執事は毎年も幸一の父の名義で贈り物を送る。

送り主は父ではないことが、幸一はずっと知っている。

「幸一、半年の休暇を許可する。家のことを処理してきなさい」

「!?」

九天玄女の言葉で、幸一はよくない予感がした。

挨拶を交わす暇もなく、急いで二郎の話を催促した。

「どうした、二郎さん、一体何があった?」

「……旦那様は、おなくなりました!」

「!?」

幸一は驚いた。

家を離れたる頃に、父はまだピンピンしているのに……

「病死、か?それとも……」

病死以外の可能性が高いと幸一は思った。

「自殺、です……」

「!!嘘だろ……?上京を丸ごと買うのを目指してたお父様が、自殺!?」

病死よりも信じがたい事実だ。

二郎はため息をしながら、幸一に事情を話した。

「実は、お坊ちゃまがお家を離れてから、旦那様の商売が躓いた。大きな商談は次々と交渉決裂し、競合相手が現れ、昔からの商売もだんだんうまく行かなくなった。取引先に契約を破られたこともあり、騙されたことも何回あった。それでもすぐに景気を取り戻せると旦那様は信じて、どんどん新し事業の開拓に手を出して……一年前から、銭荘ぜんそう(*中国古代の銀行)からお金を貸してもらえなくなり、とうとう、今年明けに倒産しました……旦那様はその衝撃で倒れて、本家からも見放されて、つい先日に、ご自分の命を……」

「ありえない、あのお父様は……経営失敗で倒産?」

呆れた幸一に、二郎は爆弾を投げ続ける。

「でも、それよりもっと大事なことがあります!!」

「!?」

父の自殺よりも大事なこと!?更に信じられない!

「奥様は、奥様は負債を返還するために、お坊ちゃまを売ってしまったのです!」

「俺を、売ってしまったぁ!?」

幸一の目が飛ぶ出そう。

「一体、どういうこと!!!??」

「旦那様の負債はとんでもない巨額です。土地、家具、使用人、妾まで……奥様は売れるものを全部売っています。お坊ちゃまの戸籍文書までに手を出しました」

「俺の戸籍文書が!?」

戸籍文書、政府が国に住む人に発行する身分証明書のこと。

奴隷になる時以外に、本人かその保護者が所持する。

そして、仙道を修行する人にとってさらに重要な「意味」を持っている。

もちろん、六年前の幸一はその意味を知らなくて、家出の時にそれを持ち出さなかった。

仙道の「意味」はともかく、一般人としても、今はかなりやばい状況だ。

戸籍文書が売られたということは、幸一は奴隷として誰かに売られたことだ。

「誰に売った!?」

幸一は二郎の肩を掴んで、話を催促した。

「わ、分かりません!多すぎで、分かりません!」

二郎は申し訳なさそうに頭を横に振った。

「多すぎって?」

「お坊ちゃまは幼いころからたくさんの人に憧れられているから、奥様はお坊ちゃまの戸籍文書を偽造して、お坊ちゃまに意のある人たちに売りまくったのです!」

「!!!」

「そして、先日に、それが買い手たちにバレて、奥様は逃げました」

「……」

この混乱な状況に、幸一は言葉も出ない。

継母に好かれていないのが分かるけど、ここまでやられるとはさすが理解の限界を超えた。

「お坊ちゃま、奥様が捕まるまでに家に帰ってはいけません。旦那様のことは俺たちなんとかするから。お坊ちゃまはこの九香宮にいる限り、買い手たちは手を出せません!」

幸一に状況を伝え終わり、二郎は九天玄女に訴えた。

「九天玄女様、お願いします!どうかお坊ちゃまを魔の手から守っていください!!」

九天玄女が返事をする前に、幸一はパタッと二郎の肩に手をかけた。

「二郎さん、俺は今、師匠から半年の休暇を許可してくれた。やはり、自分のことは自分自身で解決するんだ」

「で、でも……買い手の中でかなり凶暴で欲深い人間がいます!この間、用心棒を連れて、お坊ちゃまの居場所を問い詰めにくる人は何組もいました!彼たちが混戦してるうちに、わたしは逃げ出して、お坊ちゃまに知らせに来たのです。とても危険です!」

二郎は今の幸一の実力を知らずに、慌てて止めようとした。

相手の腐った性質が分かった以上、幸一の口元に不敵な笑顔が浮かんだ。

「そんなに俺に会いたいなら、会わせてやろうじゃないか」

*********

「こ、これはお坊ちゃまの術ですか!?」

幸一が召喚した巨大な蒼鳥を目にして、二郎は驚嘆をあげた。

「さあ、乗って!善は急ぐんだ!」

幸一は誇らしそうに二郎を引っ張って、鳥の背中に乗った。

「え、えええ!!」

二郎の叫びの中で、蒼鳥は九香宮の広場から羽ばたき、幸一の実家へと向かった。

あっという間に幸一の家についたが、鳥はすぐ降りなかった。

幸一は上の空から下の状況を観察する。

三十人ほどが実家の正門の前に詰まっている。

裏扉のほうにも十数人がいる。

二郎は地上に一目をやったら、ひどいめまいがして、前に座る幸一の腰をもっときつく抱きしめた。

「ど、どうします、お坊ちゃま。まず敷地内に降りて、父と対策を相談しましょうか?」

「敷地内だと奴らが分からないだろ」

幸一は一回鼻で笑って、サッと立ち上がった。

「えっ!お坊ちゃま、何を――」

質問の間を与えずに、幸一は二郎を腋の下に抱え、空から飛び降りた。

「ああああああ!」

二郎の悲鳴の中で、幸一は鳥のようにふわっと正門の上に着陸した。

巨大な蒼鳥は小さくなり、一枚の羽となって、シュッと幸一の袖の中に飛び込んだ。

「な、なんだ!?」

取り立てに集中していた人たちはやっと外来者の存在に気づいた。

「お前たちが会いたがっている玄幸一だ!」

幸一は堂々と名乗った。

人込みの戸惑いは数秒だけ。

すぐに、とある中年の男は幸一に指さして、大声で宣言した。

「その顔、間違いはずがない!あいつは我が弟と妹を弄んだの妖の美貌と魔の心を持つ玄幸一だ!」

「っ、お前は誰だよ!」

いきなり投げられた罪状にびっくりして、幸一は危うく正門の上から落ちた。

「それに、俺は人間だ。お前の弟と妹なんか……」

幸一は男に反論しようとしたら、ほかの人もどんどん声を上げた。

「本当に玄幸一なら、逃しては行かん!うちの主人は彼のために黄金の部屋を作ったんだ!必ず彼をそこに入れてやる!」

「偽物の戸籍文書を持ったくせによく言うね!彼はわらわの十三番目の妾になるのが運命なのよ!」

「なんだと!?お前が持っている物こそ偽物だ!」

「俺が先だ!こんな美しい奴隷、俺の夢見る完璧なおもちゃなんだ!」

「庶民どもは黙っていろ!このような別品は陛下の後宮に献上すべきだ!」

「たとえ陛下でも民間からお宝を奪っちゃだめだぞ!こんな美しい人は、うちの店で花魁になり、より多くの人々に奉仕するこそがふさわしい」

「……!!!」

聞けば聞くほど、幸一の怒りが燃え上がる。

継母はこの人たちの変態さを知った上で自分を売ったのか!?

幸一が爆発の臨界点に来る瞬間、人込みから誰かが出た。

背の低いあの影が、人々の足の間の隙を利用して、列の一番前まできて、幸一に手を上げた。

「!!?」

その影の姿を見ると、騒いだ人込みが静かになった。

あれは、明らかに人間じゃない。

丸ピッカな頭に尖った口、手足が極めて細く、全身の肌が緑色の――

「わし、川西に住んでいる河童じゃ。その子、わしの花嫁なんじゃぞ…ぎゃあああああ!!」

話が終わっていないうちに、河童は一陣の強い風に飛ばされ、四つの白い羽に百メートル外の木に釘された。

「お前らが持っている戸籍文書を全部出せ……でないと、あの河童の今は、お前らの結末だ」

幸一は河童に指さして、最後の警告を発した。

しかし、彼の美貌に狂った買い手たちは撤収するつもりはない。

「くらい払ったと思うんだ?契約を破させるもんか!」

「舐めやがったな!河童と一緒にするな!」

「ちょっとだけ術を使えたところで意気になるなよ!こちだって強い用心棒連れだ!」

「気が強いやつこそ調教の価値がある。わらわは直々に手解いてやるわ」

「……」

相手たちの意志を確認出来た幸一は、一度深呼吸をして、いさぎよく地上に飛び降りた。

そして、一番たくましく見える用心棒っぽい大男に手を伸ばした――

「ぎゃああ!!」

「がああ!!」

「助けて!!!」

「ああああ!!!」

玄家の正門前で悲鳴の交響曲が奏でられた。

二郎は壁の上で、呆然と幸一の疾風迅雷の腕を見ていた。

*********

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?