「なぜまだ生きている!?」
化け物は罵声の中で目を覚ませた。
「やはり、破滅の運命は変えられないのか……」
そうだ……人々は破滅の運命を変えるために彼をこの祭壇に連れて、「神の幹」と呼ばれる柱に縛った。
「ああ恐ろしい、この世界は極悪の鬼に滅ぼされる……」
そう、彼はこの世界を滅ぼす鬼だから。
いつから鬼になったのか彼はもう覚えていない。
生まれてからだろう……
少なくとも、人間だった記憶はない。
「そんなことない!滅世の鬼なんて所詮伝説だ!我々人間の運命は我々が決める!」
それは正しい。
彼が「鬼」としてこの世に現れたのは、この世界の人間が決めたこと。
彼の元の名は「
人々は善良でいれば、彼も純白で美しい姿でいる。
人々は良心を失い、世が邪悪に満ちた時、彼は滅世の鬼と化し、世界を滅ぼす。
――そういう伝説だったが、いつの間にか、
「極悪の鬼が現れ、世界を滅ぼす」という都合のよい部分だけが残された。
「死ね!死ね!」
「お願いだから早く死んで!!」
「早く死ね!」
「お前が死ねば世界は助かる!!」
「みんなのために死ね!!!」
激怒のせいか恐怖のせいか、震える声で必死に叫ぶ人がいる。
小石が次々飛んでくるが、彼が縛られた高さにほとんど届かなかった。
人々が狂犬みたいに吠えるのは無理もない。
人間は彼をこの神の幹に縛られてから、もう1000日も超えた。
断食、火刑、斬殺、毒殺、雷撃、溺死......あらゆる処刑法を試されても、彼を殺せなかった。
しかしその一方、
地震が頻繁になっていく
洪水の高さが増していく
火山の噴火が猛烈になっていく
乾季が続き、戦争が勃発し、疫病が広まる……
全ての災厄は、極悪の鬼を殺せなかったことによる天罰だと人間は信じている。
天良鬼は密かに笑った。
人間の悪意が増える度に、彼の悪鬼化が進む。
肌が暴龍のように固くなり、鋼よりも頑丈な角がまた新しく生える。
長くて鋭いつま先から毒の霧が滲み出る出る。
喉から出たのは吐息ではなく、烈火だ。
翼が起こした風は千の刃となり、大地に傷跡を刻む。
間もなく、彼は身も心も悪鬼になる。
この世を滅ぼす。
それは彼が生まれた唯一の意義だと、何処かからの声がそう言っている。
悪鬼の力が満ちた瞬間、一人の少年は祭壇を登り、柱の元まできた。
少年はゆっくりと鬼を見上げる。
「僕のお姉ちゃんが殺された。お姉ちゃんの友達は、お姉ちゃんが今日稼いだ饅頭を奪うために、お姉ちゃんを河に突き落とした」
「みんな、鬼のせいだと言っているけど、僕はそう思ない」
「悪いのは、彼じゃないかも」
「何を言っている!伝説はそう伝わってる!」
さっそく、反論する声があった。
「伝説は間違っていたら?」
「神託はそう言ってた!」
「神はもうこの世界を捨てたって、みんないつも言っているよ」
「神を信じないとは!あんた、鬼の子なのか!」
少年は鬼を庇うように両手を広げる。
祭壇の下にいるすべての人に向けて、大声で叫んだ。
「彼より、みんなのほうが怖いよ!みんなのほうが鬼だよ!!」
その時、少年の体から一粒の白い光が浮かべ、鬼の胸に飛び込んだ。
(なるほど、この世界の最後の良心ってことか……)
鬼は苦笑した。
(しかし、もう遅いわぁ……)
鬼はもう完全に目覚めた。
たくましい四肢を広げ、腰を伸ばす。
枯れた声の雄叫びとともに、彼の全身から黒色の稲妻が炸裂し、神の幹を一瞬にして粉々にした。
祭壇を飛び出す前に、鬼は一瞬少年の真上に止まり、柱の残骸を飛ばした。
そして、少年の瞳に見つめながら、世界を滅ぼした。
すべてが静寂に帰す前に、鬼は一点の純白の光を胸に抱きしめて、新しく生まれた天地へ旅立った。