「せやあっ!」
「くっ!?」
ユーノと襲撃者の戦いは白熱していた。時にユーノが上段から振るった剣を襲撃者が双短剣で受け止め、時に片手で振るわれた短剣をユーノは身のこなしのみで回避する。
打ち合う度互いの剣に纏わせた光と闇が散っていき、黒白の光が乱舞する。
戦局は実力で言えばユーノの有利。襲撃者の振るう刃は全て余裕を持って対処され、その身体どころか鎧にすら傷一つ入っていない。
しかし少しずつ身体が透けてブレていく様子は、明らかに時間がない事が見て取れた。決着が刻一刻と近づく中、
ダダダダっ!
『……ふぅ。良い所だったんだがここまでか』
勝負を観戦していたブライトがそう呟くのと同時に、市民達の誘導を終えた聖護騎士団数人を始め神官達。そして、
「ユーノっ! 無事かっ!?」
「ユーノ様っ! 今お助けしますっ!」
見守っていたライとレットも駆け付けてユーノを庇うように立つ。流石にここまで多くてはブライトも制止しようとは思わず、人込みを嫌ってふわりとバルコニーの外側へと浮き上がる。
『さ~てどこぞの暗殺者さんよ。中々の見世物だったしさっきの技も少し興味があって面白れぇ。だからおとなしく投降すれば、三食昼寝付きのそこそこ良い待遇で取り調べてやるけど……どうだい?』
公衆の面前で勇者及び神族へ不敬を働いたのは大罪である。しかしブライト的にはそれなりの温情を持って接しようという相談だったのだが、襲撃者は何も言わず双短剣を構え直して戦意を失う事もない。
『おとなしくする気はないか。なら仕方ない』
ブライトがやれやれとばかりに肩をすくめると、代わりに襲撃者を取り囲むよう騎士達が進み出る。
神族や勇者にはまるで及ばずとも、この聖都内ではかなりの精鋭達。それも多勢に無勢では襲撃者もここまで。そうこの場に居る者達が思った時だった。
ズンっ!
「「「…………っ!?」」」
突然その場を凄まじい圧が襲った。以前ブライトが夕食会で見せたような、客人相手に加減したものではない。ヒトであれば誰であれ影響を受けるレベルのものだ。
「うぐっ!?」
「これはっ!?」
たまらずその場の大半は倒れ、一部のさらに上澄みでさえ膝を突く。ライは地面に押し付けられ、レットも剣を支えに立ち上がろうとするも叶わない。そしてブライトは険しい顔であらぬ方向を見つめていた。
バルコニーの上で圧にしっかりと耐えられているのは、ユーノと襲撃者の二人だけ。そこへ、
『さあ。お行きなさい
どこからともなくそんな声が響いたかと思うと、襲撃者は倒れ伏す者達をすり抜けユーノへと突貫する。双短剣が纏う闇は濃密に深まり、この一撃で決めるつもりだと誰が見ても明らかだった。
対するユーノも剣に纏わせる光が強まり、極光となって周囲を照らす。
「ユー……ノっ」
地に伏したまま息も絶え絶えに声を漏らすライに、ユーノはフッと安心させるように軽く笑みを浮かべ、迫る襲撃者の刃に対して儀礼剣を振るう。
バキイィン!
二人が激突した瞬間、凄まじい轟音と共に何かが砕ける音がした。
それは襲撃者の双短剣が砕けた音。握り以外の刀身は粉々に破砕され、纏わせた闇も霧散する。当然必殺の一撃を放った反動で、その動きには濃い消耗の色が見える。
だが、ユーノの側もただでは済まなかった。剣は砕けてこそいないがひび割れ、纏わせた光も相手同様霧散。そして、
「……あ……れ?」
いつの間にかユーノはヒトとしての姿に戻っていた。状況が分からず、目を白黒させながら周囲を見渡し、
「……まだっ!」
襲撃者は先ほどユーノに投擲して弾かれた短剣。床に転がっていた一本を咄嗟に拾いあげ、くるりと回転しながら身体ごとユーノの胸に向けて突き出す。
勇者からヒトへと切り替わる一瞬。状況把握のため一瞬だが完全な無防備になる。短剣の速度は先ほどに比べて見る影もなかったが、今のユーノにはどうしようもなかった。
バルコニーには正体不明の誰かの圧が今もかかり続け、二人以外は全員膝を突くか地に伏して身動きが取れず、ブライトもここではないどこかに向けて険しい視線を向けるのみ。ユーノを救えるものは誰もいない。
だからこそ、
バキィっ!
「……はぁ…………はぁ。だ、大丈夫かユーノ?」
強烈な圧の中で立ち上がり、ライが木剣でユーノを守れたのは、ちょっとした奇跡と言えるだろう。