両陣営のトップがどこか和やかに笑い合う。それを見てこの場の全員が困惑した。
「あのぉ……お父様? これは一体」
「ククク……ああ。言っていなかったなユーノ。実はコイツは昔馴染みなのだよ」
ユーノがおずおずと尋ねれば、バイマンさんはそんな爆弾発言を口にした。隣国同士の重要人物が友人とは色々問題な気がするのだけれど。……あとここに残った面子には素を晒して良いのだろうか?
「ここ数年は忙しくて顔を合わせていなかったが」
「今でも時々手紙のやり取りをする程度には親交がある。先ほどは村人とこちらの部下の手前ああいう態度を取ったがな。……しかし、それはそれとして」
そこでオーランドは真剣な表情に戻り、バイマンさんも姿勢を正す。
「
「オーランドさんっ!?」
「オーランドっ!?」
そこでオーランドは大きく頭を下げて一礼する。周りの人達どころか下げられているバイマンさんまで驚いている所を見ると、これは相当に珍しい事のようだ。
バイマンさんはそれを見て非常に険しい顔をし、そのまま目を閉じて少し考えると、
「…………ユーノ。お前はどうしたい?」
「えっ!?」
「父さん?」
「私は書状がある限り男爵としては動けん。そして勇者というものも良く分からん。だがお前がどうしても行きたくないというのなら、
その言葉にレットは立ち上がろうとするが、オーランドは何も言わず手で制す。
「ただ、少なくともそこのオーランドは信用の置ける男だ。何かあってもこいつを頼ればそう悪い事にはならない。それに聖都なら、もしかしたらお前の出生について何か分かるかもしれん」
「ヒヨリ。この流れどう思う?」
『微妙ですねぇ』
会談の最中、俺はふと肩に留まるヒヨリに話しかける。
『バイマンさんとオーランド氏はお知り合いの御様子。そしてあそこまで信頼されているのであれば、オーランド氏を頼りつつ聖都に行く事自体は選択肢として有りでしょう。問題は神族がどうでるか。出来ればユーノちゃんが勇者の力を制御して対抗できるまでここで見守りたかったのですが……こればかりは何とも。会うなら神族の機嫌が良い事を願うしかありませんね』
「となると……俺達もどうにか付き添えないかな?」
勇者の成長を見守るのが俺の仕事である。なのでユーノが聖都に行くというのであれば、俺も付いていく事になる。
話の流れ次第ではそういう風に俺達も立候補しようかと話し合っていた……その時、
「……分かりました。そのお話、お受けしようと思いますっ!」
「ユーノ……お前」
「いいのお父様。わたしではなく、多分もう一人のわたしがそうなんだと思います。だったら、行かなくちゃ。それに……お父様とあの人は友人なのでしょう? このままお二人が喧嘩になっては嫌ですから」
ユーノはそう言ってオーランドの方を向き、両手を組んでどこか祈るように膝を突く。
「わたしは勇者などではありませんが、わたしを連れていく事が神託だというのであれば、どうぞお連れくださいな」
「この身に代えても。……これで、此度の会談は終了と」
「待ったっ!?」
そこに、バイマンさんの後ろから声が響き渡る。今までずっと沈黙を保っていたライだ。
「……何かね?」
「ユーノが勇者だってのはどうでも良い。聖都に行くのもユーノが決めた事なら止めはしない。……けどさ。オレはユーノの兄貴だ。ユーノを必ず守るって約束したんだ。だからオレも連れて行ってくれ!」
「兄さんっ! ……お願いします。兄さんも一緒に」
「付き添いという事か? ……だが」
二人の嘆願に、オーランドは難しい顔をする。
「急な出発だったため、聖都への通行証が勇者様の分しか予備がないのだ。流石に通行証を新たに発行するまでここで待つわけにはいかないし、残念ながら付き添いは許可できない」
「そこを何とかっ!? 聖都でもオレがユーノを守らないと」
「守る守るとうるさいなぁ。そう吠えるなよ。勇者様のお兄さんとやら」
トンっと敢えて足音を鳴らし、レットと呼ばれていた少年が進み出る。
「レット。無礼だぞ」
「すみませんねオーランドさん。しかし今の発言には少しカチンと来ましたので。……黙って聞いていれば、まるで
そこでレットはニヤリと嗤い、ライに向けて挑発するように宣言する。
「一つ、勝負しようじゃないかお坊ちゃん。僕が負けたら僕の分の通行証を譲ってやる。だが僕が勝ったら……そのキャンキャンうるさい口を閉じて大人しくしてろ」