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燃え滓の男 屋敷での会談に立ち会う


 さて。バイマンさんが来た事で屋敷での会談に持ち込めた訳だが、


(空気が……重いっ!?)


 応接間には非常に重たい雰囲気が立ち込めていた。


 まず屋敷の主人にして村長のバイマンさん。次にライとユーノ。そして立会人として呼ばれた俺とヒヨリ。


 以上四人と一匹に加え、聖都からやってきたという一団のリーダーオーランドとレットと呼ばれていた少年。そして二人向こうから法衣を着た男達が加わり計四人。合わせて八人と一匹がこの会談のメンバーとなる。


 当初一人と一匹だけ浮いている俺とヒヨリに相手側が妙な目を向けていたのだが、何故かバイマンさんが俺達も同席させると言ったのでこの形となったのだ。


「さて。まずはお目通りいただき感謝する」

「いや。他国の使者に対して当然の事だ。早速で悪いが要件を伺いたい」


 口火を切ったのはオーランドだった。それに対しバイマンさんがいきなり切り出す。普段より少し落ち着きがないのは、やはりユーノ達が関わっているからだろうか。


「ああ。……本日我々がこの地に来たのは、神託によりこの地に勇者が存在すると判明し、その方を聖都に連れ帰るよう命を受けたためだ。そしてその勇者こそが」


 そこでオーランドはちらりとユーノに視線を向ける。ユーノはその視線に身を強張らせ、ライが庇うようにすっと立ち位置を移動させる。


「待った。まず勇者とは何か?」

「……良いだろう。説明しよう」

「オーランド様っ!? それは我々聖都でも限られた者だけの機密で」

「この男は勇者様の身内だぞ。先ほどは状況が状況で手荒になりかけたが、お連れするにしてもそれなりの礼儀というものがある。それが会談の場なら尚更だ」


 一団の男達の言葉を遮り、オーランドは会話を続ける。


「勇者とは、およそ百年の周期で現れる世界の調和を保つ者にして、世界の加護を受けし者。その力は凄まじく、覚醒した勇者は一人で万軍に匹敵するとも言われている。そして、偉大なる神族に物申せる存在とも」

「何とも眉唾な話だ。我が娘がそんな胡散臭い者だとでも?」

「その通りだ。この魔道具が先ほどこちらの方に反応を示した。それも予備に持ってきたもう一つも含めてだ。誤作動というのはあり得ない」


 そこでオーランドが取り出した宝玉のような物は、ユーノの方に向けると明らかに輝きを増した。確かに反応してるな。


「……良いだろう。仮にユーノがその勇者だったとしよう。それで? お前達はユーノを連れて行ってどうしようと?」

「そこまでは分からない。我らが命じられたのは、ただ勇者を探し出して聖都、そして我らが主神であるブライト様の御前にお連れする事。その後に関しては聞かされていない。……ただ、仮にも伝説にうたわれる勇者様だ。悪い様にはされぬだろう」


 そこで一度会話は途切れる。


 バイマンさんからすれば、急に娘が伝説の人物なので連れて行くと言われてはたまらないだろう。ライも同じだ。


 これに関しては俺が事前に説明できれば良かったのだが、ヒヨリから勇者についての事を口止めされていた。ユーノ自身がもう少し成長するか、バイマンさんかライが自力で勇者関係に行きつくまではと。


 下手に教えてもどうしようもないからと先延ばしにしていたが、それがこんな形で裏目に出てしまったのだ。


 そして、これはユーノの一生に関わる。考える必要があるのは当然だろう。だが、


「何を迷う必要があるのか? 即刻勇者様を引き渡していただきたい」


 そこで沈黙を破ったのは、聖都からの一団の一人だった。


「勇者様もこんな王国でも辺境の地ではなく、輝かしい我らが聖都での暮らしの方が良いに決まっている。聖都に住まう選ばれた者には飢えも苦しみもない。こことは比べるべくもない暮らしが出来るのだ。それに偉大なる神族様からの呼びかけに応えないなど不敬にも程があろう。ここは栄誉を咽び泣きながら受け入れ速やかに聖都に来ていただきたい」

『……な~んか腹立ちますね。あの言い方』

「まあな」


 ヒヨリは明らかに気分を害しているがもっともだ。奴からは言葉の端々から聖都の優生思想が見えてくる。まあそれだけなら個人の主義なので構わないが、


「あのっ……わたし」

「悩むまでもない事ですっ! さあっ!」


 そこで男はテンションが高まってきたのか、勝手に席を立ってユーノの下に近寄っていく。これはいくら何でも止めなくてはと立ち上がろうとして、


「勇者様。こんなモンスターが平然とうろつきまわる汚らわしい村など捨て、早く我らと共に聖都に」



「「黙れっ!!」」



 その言葉に、バイマンさんと何故かオーランドが同時に一喝した。その威圧感は凄まじく、横で聞いていただけの俺やライやヒヨリにまで震えがくるほど。それを直接浴びせられた男は、ぶわっと顔中冷や汗塗れになって口をパクパクしている。


「我が娘の運命が掛かっているのだっ! そう軽々しく口を挟むなっ! 引っ込んでいろ下郎っ!」

「誰が発言どころか勇者様に触れようとするまで許可したかっ! ここにお前を連れてきたのは会談の際の単なる人数合わせに過ぎない。……おいっ! さっさとこの阿呆を退席させろっ!」


 その男はもう一人の法衣の人物に連れられ、震えながらよたよたと部屋を出て行った。外には屋敷の使用人も待機しているし、速やかかつ丁重に追い出されるだろう。その様子を見てバイマンさんは大きくため息を吐き、



「……あんなのを連れて来るとは、お前の部下も質が落ちたのではないか? オーランド」

「村での騒動も含め、度々部下が失礼したなバイマン。言い訳をさせてもらえば、今回は急な任務で人格面での人選に不備があったようだ。重ねて謝罪する」

「……本当に、互いに宮仕えは苦労するな。クククっ」

「ああ。ははっ!」



 なんと、互いに少し砕けた口調で軽く笑いだした。

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