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接続話 見定める者達


 ◇◆◇◆◇◆


 それは、ゴブリンの村への襲撃当日。襲撃が一応の解決を迎えようという時、


「あ~あ。失敗しちゃったかぁ」


 その者は村から大分離れた所で、大きな岩に腰掛けながら一人ため息を吐いていた。


 黒いローブにフードを身に着けていて姿形は分からない。しかしその声は、どこか少女さの抜けきれない女性という風だった。


「かつての大戦の英雄。“赤獅子”バイマンを仕留めるのは元々失敗する可能性は高いって話だったけどさ、まさかあんなイレギュラーが居るなんて」


 その愚痴るような声は村の中、バイマンの屋敷で治療を受けている開斗に向けられていた。


「折角仕込んだ“暴食の因子”も芽吹いたと思ったら即消し飛ばされるし。貴重品だから一度戻って補充しなきゃいけないし……メンドクサイなぁ。もういっそ直接この手で潰しに行った方が早いかも」


 そう物騒な事を言いながら、よいしょっと女性が立ち上がろうとした時、


「待て」


 突如として女性の後ろの空間が歪み裂けたかと思うと、中から同じような黒フードの者が姿を見せる。こちらは声色からして男性のようだった。


「……何よ。止める気?」

「ああ。いかにお前とて、真正面からかの赤獅子を相手取っては分が悪い。暗殺にしても一度でも失敗すれば我らの事が露見する。……元々今回の計画は、森で生まれつつあった上位種をけしかける事で赤獅子の今の脅威度を見る事と、勇者の存在を確かめる事が主目的だ。赤獅子の殺害は最初から上手く行けば程度でしかない。……戻るぞ」


 そう男性に窘められて、女性の方は最後にちらりと村の方を見てからふんっと鼻を鳴らす。


「……分かったわよ。どのみち報告しなきゃいけないし戻るとするわ。……珍しいイレギュラーも見れたしね」


 女性は立ち上がりながら服の埃を払い、軽く笑って男性の開いた空間の穴にすたすたと歩み寄る。


「楽しむのも結構だが忘れるな。我らの目的は」

「“世界を蝕む神族達を打ち倒す。全てはこの世界の為に”……でしょ? 分かってるって」


 そう言って二人は空間の穴に入り、穴もまたすぐに消失した。そこにはまるで何もなかったかのように。





 ◇◆◇◆◇◆


 この世界に国は幾つかあるが、最も大きな、或いは重要な国と聞かれると大抵二つの国が挙げられる。


 一つは王国。平均平凡な人間型……通称ヒト種が人口の大半を占め、王族もまたヒト種であり、最も活気に溢れて国民も多い国。


 対してもう一つの国は、割合こそヒト種が多いものの人口自体は王国の半分以下。活気に溢れるというより穏やかで、商業や交易、農業と手広くやっているもののどれもトップとは言えない。


 しかし、口を揃えてヒトはここを重要な国だという。何故か? その理由は簡単だ。


 その国の名は聖国。ヒト全てに絶大な影響力を持つ神族が統治し、神族を信仰する七天教の総本山である。




『ほぉ。の兆しがあったがすぐに消えたと。……ククッ。面白い事を言うじゃないか。え~っと…………お前なんて名前だっけ?』




 それは聖国の中心である聖都。そのさらに中心にそびえる大神殿の一室。


 豪奢にして荘厳な部屋の中で、見た目だけなら神々しく絶世の美少年としか言いようのない人物が、クッションにもたれて見た目に合わない乱雑な口調で話しながら薄い笑みを浮かべていた。


「はっ! 枢機卿の一人ユリウスでございます。誠に申し訳ございません。当初担当の者があまりに短い反応から魔道具の誤作動と判断しましたが、一応までにご報告をと」


 やや低い段から跪いて報告するのは七天教の枢機卿の一人。全七天教徒の中でも数えるほどしかいない立場のユリウスであったが、目の前の少年からすれば枢機卿も見習い信徒も大差はなく、聞かされた名前すら覚え続けるか怪しいものだった。


「場所は王国と聖国の国境線であるスタトリア森林。そのやや王国寄りの辺りと思われます。可能性は低いかと思われますが、至急王国に点在する七天教徒で信用の置ける者に連絡を取りまして」

『クククっ…………ハハハハハ! 成程。成程ねぇ。やけに妙な反応があると思えばそれだったか!』


 突然何か面白い事でもあったかのように、先ほどまでの薄い笑みではなく大笑する少年に対し、ユリウスは何も言わずに少年が笑い終えるのを待つ。


 目の前の少年の思考を勝手に読み取ろうなど、困難極まる上に不敬も良い所である。なのでじっと跪いたまま待ち続け、


『ハハハ……はぁ。あ~笑った。久しぶりに笑ったぜ。……実はな、俺も丁度今日その辺りで、少し妙な反応を感じてよ。それが聞いて驚け。何と……なんだよ』

「何と勇者がっ!? では暴食の兆しがすぐに消失したのは」

『ああそうさ。さしずめ目覚めた暴食は育つ間もなくそいつが対処したんだろう。それだけならお勤めご苦労さんで済む話なんだが、勇者に限りなく近い何かってぇのが少々気にかかる。なのでだ』


 少年はゆらりと立ち上がってユリウスを見下ろし、にんまりと笑っていつものようにを下す。




『その勇者を見定めたい。俺の目の前に連れてきてくんねぇ? え~と……エリウス君?』

「ユリウスでございます。はっ! 全ては貴方様の御心のままに。七天主神ブライト様」




 一礼して静かに退出するユリウスを見送りながら、事実上ヒトの大半を支配・管理するは、またゆらりとクッションにもたれかかって待つ事にした。


 自分達に唯一物申す事が出来る、ヒト種の希望にして世界の均衡を守る者。


 場合によっては神族を相手取って武力行使する事も想定された、世界からのメッセンジャー。




『さて。どんな文句を言いに来たのやら。それとも想定外の勇者のそっくりさんか? まあどちらにせよ、暇つぶしにはなるだろうよ』



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