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燃え滓の男 思わぬ相手に懐かれる


 村への襲撃から今日で十日。どうにか外出許可が出た俺は、怪我のリハビリを兼ねて村の中を歩き回っていた。


 付き添ってくれるのは、前と同じく俺の肩の上でくつろいでいるヒヨリと、すっかり体調が良くなったライとユーノ……なのだが、


「ユーノ……そんなにくっつくなよ。歩きにくいじゃないか」

「だって兄さん。わたし達は家族なんでしょ? ならもっと一緒に居なくっちゃ! ……うふふっ!」

「え~……まあ良いけどさ」


 これまではユーノがどこか一歩引くような形で、そこをライが強引に引っ張っていく感じだったのだが、ここ数日見ての通りユーノの側からベッタリだ。しばらく俺は部屋に籠り切りの内に何かあったのだろうか?


『おやまぁ。とんでもなく大きな悩みが追加されたかと思いきや、別の悩みが一つ解消されたようで何よりですよぉ。……代わりに別の意味でライ君の負担が跳ね上がりましたが』

「ヒヨリ。やけに二人が仲良くなっているが、何か知っているのか?」

『それは何とも。ただ……もしかしたらちょっぴり愛の形が背徳的な物になるかもってお話ですよ。キャ~! 昼ドラ展開ですかね!」


 羽で自分を包み込むようにしながら体をくねらせて悶えるヒヨリ。何をやっているんだろうか? ……しかし、



「そこっ! 壁が壊れてるから気を付けてな」

「誰かっ!? 手を貸してくれっ!? そこの瓦礫を退かさなきゃならん」

「アイタタタ。まだ痛みが引かねえ。あのゴブリン共め」



「分かってはいたけど、直に見ると酷いものだな」


 村への襲撃の傷跡は、まだあちこちに散見された。特にゴブリン達が入ってきた入口とその近くの家々は酷い有り様だった。


 事前に村人の大半は避難できていたとはいえ、留守となった家にゴブリン達が侵入してやりたい放題。食料を盗み食いされる程度なら軽い方で、酷い所だと壁や部屋が破壊されている所まであった。


 また、ゴブリンの襲撃を阻止しようとした兵士達にも少なくない被害が出ていた。重傷者こそ少ないものの軽傷者は多数。死者が出なかったのが唯一の救いだが、それはホブゴブリンが人間の殺傷ではなく侵入と食料の奪取が主目的だったからだ。


「ひっでぇよな。片付けも一日作業だし、その間寝泊まりする場所は父さんが用意してるけど……やっぱ元の家が良いってヒトが大半なんだ」

「怪我人も多くて、復興作業に回せる人手もそう多くないんです。わたしも早速明日から回復魔法で怪我した人達の治療にあたる予定なんですよ。わたし頑張るから見ててね兄さんっ!」

「オレも訓練代わりに瓦礫の撤去作業を手伝うんで一緒には……分かった分かったっ!? なるべく早く終わらせて応援に行くからそんな顔するなってっ!?」


 うん。二人はますます仲が良いようで結構な話だ。しかし、俺も何か手伝える事はないだろうか?


 一応外出は今日で許可されたのだが、まだ力仕事や長時間の運動は避けるように言われている。それにやけにバイマンさんの屋敷の人も村人達も、俺に対して気を遣ってくれるというか。


 そんな事を思いながら、ひとまずバイマンさんの屋敷に戻ろうとした……その時だった。



「ギギィ……ギギィっ!」



 この声はまさかっ!? 聞き覚えのある奇声に身を竦め、嫌な予感と共にそちらの方を振り返る。すると、


「ギイっ!」

「ギギギギャ!」

「うおっ!? 何でまだゴブリンがっ!?」


 なんと以前散々戦ったゴブリン達が、十体ほどの群れを成していたのだ。


 それも周囲の村人を襲うでもなく、それどころか一頭のマッドリザードと共に瓦礫撤去に勤しんでいた。あれは何だ?


「へっへ~。驚いた先生? オレやユーノは一足先に聞いてたけどびっくりだよなぁ」

『そうですよねぇ。ワタクシも最初に見た時は驚きました』

「……お前達。これはどういう事だ?」


 一人だけ聞かされていなかった事にショックを受けながらも尋ねてみると、どうやらあのゴブリン達はホブゴブリンとの戦いで俺が逃がした奴ららしいのだ。


『粗方のゴブリン達はホブゴブリンが倒れて森へ逃げたようですが、こいつらは半分以上が怪我人。そしてそれを支えていた個体もようなのです』


 確かに、あの時は勇者のユーノとホブゴブリンの戦いの巻き添えで、大半のゴブリンが腕や足に傷を負っていた。その場を離れるだけならまだしも、それなりに距離のある森へ逃げ帰るのは難しかったのだろう。


「最初は兵士達も止めを刺そうかと思ったらしいけど、何故かすっかり戦意も敵意も無くなっているし、やっている事と言ったら固まって互いの怪我を治療しながら座り込むだけ。そんな調子だから見張りだけ置いていたら、その内勝手に瓦礫を片付けるのを手伝い始めたんだって」


 ゴブリンが働いているのを気味悪がる村人も居たけれど、人手が必要なのは事実だし敵意も感じられない。ただ村人の食事時に時折腹を鳴らして物欲しそうに見るので、仕方なく食事を少し分けるとすぐに平らげてまた片付けに戻るのだという。


 これだけ聞くと、事の発端がゴブリンなのは置いておいて、普通に食事の代わりに働いているだけだ。これまでの奴らが全て敵対的だっただけにどうにも違和感が拭えない。


 そんな事を話していると、ゴブリンの一体がこちらの方を向き、


「「「ギギィっ!」」」

「…………へっ!?」


 突然片付けていた瓦礫をその場に置き、こちらを指差すや奇声と共に群れを成してこちらへ駆けてきた。


 マズいっ!? ライは村の散策がメインだから丸腰。俺も激しい動きは止められている。しかしこんな村中でゴブリン達に暴れられたらまた被害が拡大してしまう。


 どうにか思考伝達で追い払おうとしたその時、


 ザザザっ!


 まだ何も言っていないのにも拘らず、ゴブリン達は何故か俺の目前で一斉に頭を下げて座り込んだのだ。これには俺もライ達も、そして周囲の村人達も困惑を隠せない。


『……もしや開斗様? また何かやっちゃいましたか? 思考伝達で変な命令でもしたとか』

「それがまるで覚えがない。最後に命じたのもホブゴブリン戦でその場から離れさせた時で、それ以上特に何かしろとは……まさかっ!?」


 ヒヨリがじと~っとした表情でこちらを見る中、そこで俺はハッとしてその身で隠すようにしながら予言板を展開した。すると一番新しい所に、



 “予言回避による勇者の生存。及び使の撃退を確認。試練踏破ポイントが一定値を超えたため、予言システム及びスキル『思考伝達(対モンスター用)』が成長します”



 という一文がまた記載されていた。……そういう事はアラームか何かで知らせてくれないものだろうか?


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