「……はい。熱も大分下がったようですね。この調子ならもう数日安静にしていれば包帯も取れて歩き回れるようになりますよ」
「ありがとうございます」
俺はベッドで横になりながら、診察してくれた医師に礼を言う。
ゴブリンの大群による村への襲撃から今日で七日。俺はこの通り、身体への無理が祟ってベッドと友達になる日々だった。
ホブゴブリンを無事ユーノが仕留めたのは良いのだが、その後が問題だったのだ。
ユーノはそのまま勇者から元の姿に戻って意識を失い、残ったのは怪我と疲労でいっぱいいっぱいの俺とライ。そして一体だけまだまだ元気なヒヨリのみ。
幸いゴブリン達は、皆最後の俺の思考伝達によりどこかへ行ってしまったようで近くに危険はない。しかしこの状態ではユーノを担いで避難所に駆け込むのは難しく、そのままそこで救助を待つしかなかった。
そして、まだ戦意を持って暴れるゴブリン達を蹴散らしながら応援の兵士達が駆け付けたのを確認して……俺も意識を失った。
ここからは後で知らされた話だが、俺の背中の怪我は実は相当の深手だったらしい。それなのに、いくらヒヨリが応急処置をしたとは言え、そのままホブゴブリンを投げ飛ばした上反撃を受けて吹き飛ばされた結果傷が悪化。最悪失血死してもおかしくない状態だったとか。
それをいわゆる火事場の馬鹿力で耐えていたものの、ライ達の迎えが来た事で安心して一気に限界を迎えたという。
そして俺が意識を取り戻したのが
それからは毎日治療の日々だった。患部に村の回復術師が手から光を当て、薬を塗った湿布のような物を貼って包帯を巻く。怪我の影響で熱が出て朦朧としているのを解熱剤で和らげ、病人用に用意された果物を摩り下ろした粥のような物を平らげる。
こうして手厚い看護を受け続け、今日ようやく熱が下がるまでになったという訳だ。
「いえいえ。お礼を言うのはこちらの方です。貴方がそうやって身を挺して坊ちゃん達を助けてくださらなければ今頃は……とにかく。我らブレイズ家にお仕えする者で貴方に感謝していない者はおりません。今はゆっくりとご養生くださいませ」
そう。ここは村にある医療施設ではなく、バイマンさんの屋敷の一室だ。俺の怪我が予想以上に重傷だった事と、ライ達を助けた事で怪我をしたという事から何故か感謝されてしまい、こうして個室による特別待遇を受けさせてもらっている。子供を助けるのは俺の中では当然の事なのだけど、実際個室というのはありがたい。
最後に医師は一礼すると、何かあれば遠慮なく呼んでほしいと部屋に備え付けられたベルを指差して静かに部屋を出て行った。と言ってもこれで呼んだのは起きた最初の日だけで、それ以外は特に使った事はないのだが。
俺はふぅ~と大きく息を吐き、そのまま再びベッドに背を預ける。そして、
「そろそろ出てきても良いぞ」
『もう良いですか? これでも診察の邪魔になっちゃいけないと気を遣っていたんですよ』
窓の外に声を掛けると、そこからヒヨリが羽をパタパタと羽ばたかせて入ってくる。たった今まで食べていたのか、半分ほど齧られた果物らしき物を両手で持って。それをじっと見つめていると、
『あっ!? これですか。いや~ホントはお見舞い代わりに渡す予定だったんですが、診察が長くて隠れて待っている間につい……申し訳ありません』
「良いよ。どうせまだ本調子ではないし、全部食べてしまってくれ」
『そういう事でしたら……あ~んっ!』
そう言うと喜んでガジガジと齧りつくヒヨリ。意外と鋭い歯でどんどん削り取り、遂には芯らしき物まで食べ尽くすと穏やかな顔で膨らんだ腹の部分を擦る。
「食べ終わった所でだ……今までどこに居たんだヒヨリ? 俺が目を覚ましてからまるで姿を見かけなかったが」
『そりゃあ大怪我をした開斗様に余計な負担を掛けたくなかったからですよ。対外的にはワタクシ開斗様の使い魔扱いですからね。主人を慮るのは当然の事なのですエッヘン! それにこれでもこのキュートなボディで、村でもマスコット的立ち位置を獲得しつつあるヒヨリちゃんですからね。情報収集もお手の物って事で! ……まあもう半分は』
「……ユーノの事か?」
俺がそう尋ねると、ヒヨリは少し真面目な顔をしてこくりと頷く。
ユーノが目を覚ましたのはつい一昨日の事。特に外傷もないのに俺より長い五日間も眠っていたというのだから、勇者としての覚醒がどれだけ負担だったか想像に難くない。
そこからぽつりぽつりと話し出したのは、普段のヒヨリより幾分真面目で、どこか超然としていて、そして……ほんの少しだけ悲し気なネタばらし。そう。
「これでもユーノちゃんに