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閑話 ゴブリン討伐戦 決着


 ◇◆◇◆◇◆


 ホブゴブリンが倒れ、村に攻め入っていたゴブリン達の統制は完全に乱れた。


 ゴブリン種の厄介な所は、かなり早い繁殖力とそこそこ高い連携力にある。しかし指揮を執っていた上位種が消えた衝撃で一度それが乱れれば、一体一体は大した脅威ではない。


 ある者は兵士達によって倒され、またある者は捕獲され、そして……。


「ギギィ!?」

「ギギガァっ!?」


 今も村から逃げ延びた数体のゴブリンが、森の拠点に向けて駆けていた。


 騎乗していたマッドリザードはとうに倒れ、傷ついていない個体は誰も居ない。しかし、このゴブリン達は撤退こそ選んだもののヒトへの敵意、闘志はまだ消えていなかった。


 自分達にはまだ本隊が居る。上位種たるゴブリンジェネラルが居る。一度態勢を立て直し、再びヒトの村を襲うのだ。


 。上位種によって染められた感情に突き動かされ、ゴブリン達は休まず走り続ける。


 そして、辿り着いた先の拠点で見た物は、



「はああああっ!」

「グオオオオンっ!」



 ヒトの英雄バイマンゴブリンの将軍ジェネラルによる決闘。そしてヒトとゴブリンの激戦であった。





 それはいくさだった。


 周囲から襲い掛かるゴブリンの大群。数で言えば討伐隊の単純に8倍相当。即撤退も視野に入る圧倒的劣勢。だが、


「ギギャアっ! ギギィっ!」

「総員かかれっ! バイマン様の戦いに横槍を入れさせるなっ!」


 討伐隊は凄まじい奮戦を見せた。それもその筈。英雄とうたわれたバイマン男爵が自ら鍛え、厳選した100の精兵である。練度は王都の正規軍にも劣らない。その上、


「うおりゃああっ!」

「テリーっ!? 前に出過ぎ……ああもうっ!? アンタはそのまま派手に暴れなさいっ! こっちでサポートするから」


 戦線の一角を担うのは冒険者パーティー『鋼鉄の意志』。対モンスターの専門家達が、時には剣で時には魔法で、迫るゴブリン達の包囲に風穴を開けていく。そして、


「むううんっ!」

「ギガアアっ!」


 戦場のほぼ中心で互いの大将同士の武器がぶつかり合い、ガアアアンと壮絶な音が周囲に轟く。


 単純な膂力や武器の大きさだけで言えば、有利なのはゴブリンジェネラルである。ジェネラルの怪力は素手で簡単に木を叩き折り、それにより振るわれる戦斧はまさに暴力の嵐。常人なら受け止めるだけで剣を腕ごと持って行かれるだろう。


 だが、対するバイマンは決して常人などではない。元々卓越した剣技と鍛え上げた肉体を兼ね備えていたのに加え、スキル〈獅子の誇りライオンズプライド〉によって条件付きではあるが、さらに肉体性能に大幅なバフが掛かっていた。


 ジェネラルの戦斧を受け止めるだけでなくいなし続け、バイマンは斬り捨てる決定的な隙を伺う。


 そして、何合打ち合ったか両手の指で数えきれなくなった頃、一度仕切り直すべくどちらともなく少し距離を取る。すると、


「うむ。苦戦しているようだな。手助けは必要か?」


 軽く息を整えるバイマンの傍に、双剣を握ったままミアが進み出る。見ればその周囲には、急所のみを的確に切り裂かれてゴブリン達が数体倒れ伏していた。


「苦戦? ……はっ! 誰に言っている」


 流れ出る汗。互いの傷から飛んだ返り血。それらをまとめて腕で拭い、バイマンは獣のように獰猛な笑みを浮かべる。


「手助けはいらん。その気遣いは他の兵士達に回してやれ。……すまんな」

「構わないさ。久しぶりに村長でも男爵でもなく、戦士としてのお前の顔が見れたからな。やはりお前は机でふんぞり返るより、こっちの方が性に合っている」

「ふっ! 違いないが、そっちも俺のやるべき事なのでな。……待たせたな」


 互いに息も整ったのか、バイマンとジェネラルは再び武器を構えて向かい合う。そろそろ決着をつけるべく、バイマンが溢れ出る闘志を研ぎ澄ませた……次の瞬間、


「グオオオオオン!」

「ギギャギャっ!」

「ギギィっ!」


 ジェネラルの号令の下、数体のゴブリン達がバイマンに向けて飛び掛かった。そこから一拍置いてジェネラルは、戦斧を振り回しながらバイマンに向け突貫する。


 バイマンは落ち着いてまずゴブリン達から捌こうとした時、


「横槍とは少々不作法だな」


 ザンっ!


 それは一瞬の事。飛び掛かるゴブリン達が、数体まとめて四肢を切り裂かれて撃墜される。見ればミアが双剣を振るい、他の向かってこようとしているゴブリン達を睥睨していた。


「おっと。つい手助けをしてしまった。だがまあ露払い程度なら許せよ」

「……行ってくる」


 軽くウィンクするミアに見送られ、バイマンは迫って来るジェネラルを迎え撃つ。


「グオオオオンっ!」


 ジェネラルは戦斧を回転させながら近づき、その勢いを込めて敵を真っ二つにせんと横薙ぎに振るう。これを受け止めるのは流石のバイマンであっても不可能。なので、


「…………今っ!」


 バイマンは驚くべき行動に出た。、戦斧の真下を潜る様にスライディングしたのだ。


 強烈な風切り音の後、バイマンの赤毛が数本断ち切られて宙を舞う。しかしバイマンはそれを代償にジェネラルに肉薄し、


「うるあああっ!」

「グオオオっ!?」


 なんとバイマンは立ち上がる勢いも加え、その剛腕をアッパーカット気味にジェネラルの顎に叩きつけた。そのままかち上げられたジェネラルは一瞬だけ宙に浮き、数歩よろめいて後退る。


 しかし片手で戦斧を握り締めたまま、ジェネラルは内心しめたと嗤っていた。


 苦し紛れの攻撃を受けこそしたが、この通り素手では痛みこそあれ致命打にはならない。後はまた戦斧で攻め立ててやれば良いと。


 だがそこでふと気づくのだ。と。


 その答えはすぐ目の前にあった。剣は、丁度バイマンの高く突き上げた掌に落ちてきて、


 パシっ。


「俺の村に、そして俺の大切な子供達に手を出そうとしたのが運の尽きだったな。これで……終わりだああっ!」」


 それを掴み取りながらバイマンは力強く一閃。一拍置いてジェネラルの身体に一筋の線が走り、


「グアアアアアっ!?」


 次の瞬間、その身体はキレイに両断され大地に倒れ伏した。


「ゴブリンジェネラル。討ち取ったりっ!」


 バイマンの雄叫びが周囲に響き渡り、上位種を失って敗北を悟ったゴブリン達は次々に力なく武器を取り落としていく。


「「うおおおおっ!」」


 ゴブリン達の戦意が薄れていくのを見て、討伐隊の面々も勝鬨を上げる。


 そう。この長い一日。上位種発生という一大事件は、こうして幕を下ろしたのだった。


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