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燃え滓の男、知らないスキルが生える


 俺はユーノを連れ、事前に決められていた避難経路で避難所に向かっていた。


 その道中、幾度もゴブリンや泥塗れのトカゲ……後で知ったがマッドリザードというらしいモノに出くわしたのだが、


「コホン。……ギギィ! ギィ~っ!」

「ギギィっ!? ギギィ!」


 最初こそこちらに襲い掛かろうとしていたが、俺が一言二言話すと慌てて去っていく。


 その度にユーノは不思議そうな顔をするのだが、流石に今はじっくり話す時間もないので深く聞かないでいてくれた。


 ……正直助かっている。何故ならこの能力は、俺自身まだよく分かっていないのだから。


 何でこんな事になったのか。それは少し前、森の近くの入口でヒヨリの報告を聞いた時に遡る。




 ◇◆◇◆◇◆


『ここから真反対の所にある村の入口。そちら側からかなりの数のゴブリンが迫りつつあります。このままだと防ぎきれずに村に雪崩れ込まれますね。対処するならお急ぎを』


 そうヒヨリが報告した時、周囲は一気に騒めいた。


「ここから反対側っ!? 確かなのですかそこのサンライトバットっ!?」

『ちょっとぉ。ヒヨリさんとお呼びくださいなそこの兵士長様。えぇ確かですとも。ざっと見た限りではゴブリンが約200前後。それが何かのトカゲ型モンスターに騎乗し、このままだとあと数分で入口に到達するでしょうねぇ』

「悠長に言ってる場合かっ!?」


 マズい。これは非常にマズい。


 バイマンさんは確かに村に備えを残した。防衛用に兵を残し、非常用の村人の避難経路も準備した。


 しかし森から直接ゴブリンが攻めて来るのはまだしも、わざわざ大回りして反対側から攻めてくる事は想定外。そちらの防備も普段より厚いが、村の入口の中では一番薄い。


「……くっ!? 仕方ない。至急村に連絡をっ! 予備戦力をそちらに向かわせなさい。それと急ぎこちらも隊の再編成を。ここの防備に支障が出ない程度に残し、村に侵入したゴブリンの撃退と村人の避難に当たらせます」

「向こうの入口って……あぁっ!? マズいっ!?」


 兵士長が急いで指示を飛ばしに走る中、急に慌てた様子でライが叫んだ。


「どうしたんだライ?」

「大変なんだっ!? 向こうの入口の近くに丁度今ユーノが行っているかもしれないんだ」


 どういう事かと尋ねてみれば、その辺りにはユーノのお気に入りの場所があるらしい。


「いつも心を落ち着けたい時にあそこに行くのがユーノの癖でさ。今日父さんを見送る時もなんか様子がおかしかったし。もしかしたら今頃そこに」

『……開斗様。これは少々マズいんじゃないでしょうか?』


 ヒヨリの言う通りだ。このままだと大変な事になる。ならば、


「分かった。俺とヒヨリで急いで迎えに行こう。ライは」

「当然オレも行くっ! ユーノを助けなきゃ」

「ダメだ。バイマンさんに約束したんだろう? 村の皆を守ると。ライは先に避難所に走って皆の安全を守ってくれ。……大丈夫。ユーノは必ず俺達が連れて帰るから」

『ここはワタクシ達にお任せですよライ君。それとも何です? ライ君はご自分の先生が信じられないと?』


 まあこれは方便だ。こうでも言わないとライは自分からゴブリンの群れに突撃しかねないからな。未来の勇者を危険な目には遭わせられない。


 ライは悔しそうに歯噛みし、ヒヨリに窘められてどうにか納得する。


「…………分かった。先生。ヒヨリ。ユーノを頼むぜ。オレは先生達が戻るまで、何が何でも皆を守るからな!」





 そうして俺はヒヨリの先導の下、ユーノを迎えに走る事になった……のだが、


「くっ!? こんな所にまでゴブリン達が」


 そこに近づけば近づくほど、あちらこちらにゴブリン達が入り込んでいた。ヒヨリがいくら気を付けて先導しても、中々全てを避けて通るのは難しいほどに。そして、


「ギギィっ!」


 遂に隠れ進むのも限界を迎え、ゴブリンに見つかってしまう。


 相手は2体。前戦った時と同じなら勝てなくはない。しかしどう見ても前より狂暴化していて、下手をしたら危ういかもしれない。


 だがここで止まっている訳にもいかない。なので、


「こっちは今忙しいんだ。お前らと戦っている暇はない。だからさっさとギギィっギギィどこかに行け! ……えっ!?」


 途中、自分の声に違和感を感じた。まるで普段とは違った言葉を喋ったような。すると、


「ギイっ!? ……ギギィ」


 何故かゴブリン達は一転凶暴さが鳴りを潜め、襲ってくるどころかそのまま反転して去っていった。


「何だ……今の?」

『おやおや。これは驚きました。開斗様ったらいつの間にゴブリン語なんて習得したんです? それもを』

「ゴブリン語? いや別にそんなものは」


 ヒヨリが『そんな隠し玉いつ準備したんですかこのこの~!』と突っついてくるのだが、俺には全く身に覚えがない。


 ゴブリンを追い払えたのは良いが、知らない内に変な力が身についているというのもそれはそれで不気味だ。


 もしやヒヨリの仕込みかと思ったが、この反応を見る限りそれもない。


『えっ!? 本当に身に覚えがないんです? となると…………ちょっとそのまま動かないでくださいな』


 すると、どこか真剣な表情でヒヨリが俺を見つめ、少しして大きなため息を吐いて頭に手を当てる。


『……はあぁぁ。まったく余計な事を。これではいくら何でも公平さを欠くというもの。……いや失礼。開斗様。実は開斗様が急にゴブリン語を話せるようになった理由が判明いたしまして。お手数ですが予言板を出していただけますか? 百聞は一見に如かずと申しますし』


 よく分からないが、俺は言われた通りに予言板を展開する。するとこれまでの予言のすぐ下に、



 “予言改変。及びポイントが一定値を超えました。スキル『思考伝達対モンスター用』を付与します”



 という一文が追加されていた。……何だこりゃ?



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