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森から一番近い村の入口にて。
「ですから、間もなく村にゴブリンが攻めて来るんですっ!? 至急警戒を」
「分かっています。討伐隊の討ち漏らしがやってくるという事でしょう? ですがこの通り森には目を光らせていますし、たとえ数匹程度来たとしても何の問題も」
「だから数匹程度ではなくてですねっ!?」
俺は急遽設営された簡易的な兵舎で、兵士長と言い争いをしていた。何故こんな事になったのか、話は少し遡る。
「な、何なんだこれは!?」
時刻は昼過ぎ。昼食と訓練も終えてライと別れた俺だが、バイマンさん達が戦っている事を思うとどうにも落ち着かず、何かやる事はないかと村を歩いていた。
すると突然警告音と共に予言板が出現。これまでの内容が僅かに変更された事に気が付いた。だが、
「あと三十分っ!? それにこの内容は一体?」
『はは~ん。これはアレですね。多分討伐隊がゴブリン達とぶつかったのは良いものの、上位種だけ取り逃がしてそれが分隊を率いて村に迫っているか、或いは最初から上位種が何体も居て別動隊として動いていたか』
「冷静に言っている場合かっ!? 早くこの事を伝えなくては」
バイマンさんは村にもかなりの備えを残していた。なのにこの予言が出るという事は、突然の奇襲を受けるか相手が余程の数という事になる。
只の奇襲なら今から伝えれば間に合うと、俺とヒヨリは早速森から一番近い入口に向かい、現在に至る。だが、
「ですから、大量のゴブリンがやってくる恐れがあるのです! 至急警戒を!」
「いくらバイマン様のお客人でも、いきなりそんな事を言われてはいそうですかとは言えません」
ここを指揮する兵士長は、信じられないと首を横に振る。それはそうだ。俺は急に村に現れた流れ者。バイマンさんの客人扱いというだけで、それ以外に対して信用も何もない。
しかしその時は確実に近づいている。もし予言が外れても、俺が周囲から白い目で見られるだけならここで動かない理由にはならない。
俺はもう一度説得しようと口を開け、
「あれっ!? 先生も来てたんだ?」
「ライ? 何で君がこんな所に?」
そこにひょっこりとライが顔を出した。軽装だがちゃんとした革鎧と兵士用の剣を身に着けている。
「オレも村を守るんだ! だからこうしていつゴブリンが来ても良いように待機してるんだぜ!」
ライまで戦闘に参加させる気かと目で問いかければ、兵士長は首を大きく横に振る。どうやら勝手に来て止めきれないだけらしい。
「隊長さん。どうか先生をちょっとで良いから信じてあげてよ。先生はこんな時に嘘を吐くような人じゃないんだ。だからお願いだよ」
「ライっ!?」
「ライ坊ちゃんっ!? 頭をお上げくださいっ!?」
ライが手を合わせて頭を下げるのを見て、兵士長も他の兵士達も俺も大慌て。分かった信じるっ!? 信じますからと説得されて、ゆっくりと笑いながら頭を上げる。……ライもまっすぐなだけでなく腹芸も出来るようになっていて何よりだ。
「……コホン。ライ坊ちゃんもこう仰っているし、貴方の言う事を多少は信じても良いでしょう」
「だってさ! どうよ先生!」
「ありがとう兵士長さん。それにライも。ただ貴族が下手に頭を下げると色々問題になるから、無闇にではなく下げるべき時にだけ下げるんだよ」
「分かってるって!」
ドヤ顔のライに礼を言いつつ一応窘めて、もう一度兵士長さんを説得する流れとなったのだが、
「しかしそう言われましてもこの通り。森からの襲撃の予兆は今の所ありません」
兵士長さんの言うように、予言の時間まであと僅かなのにゴブリンは見当たらない。そもそも森から村まで大勢で動けばすぐに分かる。奇襲も無理筋だ。
だがこうして予言された以上、何かしら起こりうる要因がある事になる。だとすれば……。
『は~い。開斗様~。ヒヨリさんがただいま戻りましたよ~』
そこに、念のため空から辺りを探ってもらっていたヒヨリが戻ってきた。『早く飛ぶのも高く飛ぶのも苦手なんですけどねぇ』と言いながらも、しっかり仕事をするのは流石だ。
「ヒヨリ。どうだった?」
『それがですねぇ。割と一大事っぽい事になりつつあります。ここで報告してもよろしいですか?』
周囲にライや兵士長や他の兵士達も居るのを見て、話を広めても良いのかと暗に尋ねるヒヨリだが、俺は時間がないので構わないと告げる。すると、
『では報告します。空から見た所、近くの森からこちらへ雪崩れ込もうとするゴブリンの気配はありません。おそらくバイマン様達の奮闘の賜物でしょうね。ただ……』
そこでヒヨリは一拍置き、とんでもない事を口走った。
『ここから真反対の所にある村の入口。そちら側からかなりの数のゴブリンが迫りつつあります。このままだと防ぎきれずに村に雪崩れ込まれますね。対処するならお急ぎを』
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ドドドドド。
それは、もはや隠そうともしない疾走だった。
わざわざ森から大きく迂回し、村から視認できないよう遮蔽物に隠れつつ走る事一時間。いよいよ限界ギリギリの場所から一気に飛び出し、ゴブリン達は進撃を開始する。
いや、正確には疾走するのはゴブリンではない。
「シャァァ」
ゴブリン達はそれぞれ何体かで、トカゲのようなモンスターに騎乗していた。通称マッドリザード。肌から特殊な液を出して土や砂を纏い、鎧のようにするトカゲ型モンスターである。
マッドリザードは背に跨る
「ギギィ……ギギィっ!」
先頭に立つは先日森にて冒険者達が出くわした上位種ホブゴブリン。深い緑の肌で筋骨隆々のその姿は、もはや小鬼などと呼べる類ではない。そして、
「「「ギギィっ!」」」
上位種の影響を受けて獰猛さを増し、後ろに付き従うゴブリン達。その数なんと約200体。
それが土煙を上げながら、怒涛のように村へ押し寄せようとしていた。