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燃え滓の男、見知らぬ少年少女を助ける

 見た所、襲われている少年も少女も12、3歳ほど。それぞれどこか仕立ての良い服を着ているが、折角のそれも泥や土塗れ。さらに言えば、少年の方は所々破れて血も出ている。


「ギヒヒヒ」


 対するはどこか緑色っぽい肌の小人……というより小鬼だろうか。少年達より少し小柄だが、かなり俊敏そうなわし鼻の怪物5体。それが手に手に棍棒を持ち、どこか嗤うような鳴き声を上げながら血走った目で子供達を取り囲んでいる。


 さらにその足元には、頭を痛打されたのか大きなこぶを作った小鬼が2体のびていた。


『ほうほう。あの歳で女の子を庇いながらゴブリンを2体倒すとは中々やりますね』

「そんな悠長な事を言っている場合じゃない。早く助けないと」

『ちょっと待ってください』


 俺は急いで飛び出そうとしたが、ヒヨリは慌てて制止する。


『ワタクシの用意したその身体は、基本的には元の開斗様の肉体準拠。多少頑丈で疲れにくくはありますが、それ以外はほぼ変わらないのでございます。開斗様が多少武術等を嗜んでいる事を加味しても、5体まとめて相手取るのは少々微妙な所。何かもう一押しの策はございますか?』

「特に思いつかない。だけど」


 俺はもう一度茂みの向こうを覗く。


 少年の方は気丈にも木剣を構えたままだが、息は荒くふらついている。少女の方は少年を心配して近寄ろうとしているが、怯えているのか足が震えている。


 じりじりと狭まる小鬼ヒヨリ曰くゴブリン達の包囲。このままでは予言にあった通り、あと数分で少年も少女も袋叩きで最悪死ぬだろう。予言の信憑性はまだ不明だが、可能性が高いのは確かだ。


「このまま子供を見殺しにしたんじゃ、たとえ生き返れても自分で自分が許せなくなる。だから行く」

『……はぁ。薄々分かってはいた事ですが、そういう方向性の壊れ方でしたね。そもそも一番最初も子供を庇って死にかけてましたし。……良いでしょう』


 ヒヨリは大きくため息を吐いたかと思うと、ちょっとだけ悪い顔をしてこう言った。


『あまり干渉し過ぎるのは良くないのですが、こう序盤も序盤で危険に出くわすのはこちらも予想外。なので……このボディの出来る範囲で手助けをするといたしましょうか!』




 ◇◆◇◆◇◆


「……はぁ……はぁ」

(目が霞む。腕も……少しずつ力が入らなくなってきた)


 息を荒げながら、少年……ライは必死に木剣を構えていた。


「に、兄さんっ!?」

「ダメだっ! ユーノは下がっていろっ!?」


 自分を心配して妹が前に出ようとするのを、ライは必死に振り向かずに声だけで制する。


 なにせその目の前には、今にも襲い掛からんばかりのゴブリンが5体。目を逸らして気を抜いた瞬間、こいつらは一気に襲い掛かってくるだろう。


 幸い初撃の際にライが2体打ち倒したのが効いていて、ゴブリン達も迂闊に近寄ってはこない。しかしそれも時間の問題。消耗が激しいのはライの方であり、妹という護るべき対象が近くに居るのもここではマイナスに働く。どうしてもそちらも注意しなくてはならない。


 このままではいずれ体力が尽き、先に隙を晒すのはライの方。そうなればあとはゴブリン達にどんな目に遭わされるか考えるまでもない。だが、


(オレが、何が何でも守んなきゃ。兄貴なんだから)


 大切な妹をどうやって守るか。ライの頭にあるのは、自分がどうなるかよりもまずその一点だった。


 しかしいくら考えても打開案は思いつかず、時間だけが過ぎていく。いよいよライも剣を持っているのが辛くなり、ゴブリン達もそれを見越してか息を合わせて襲い掛かろうとした時、


 キイイイインっ!


「何……この音?」


 一番早く気が付いたのはユーノだった。耳を澄ますと微かに聞こえるのは、まるで金属同士をぶつけ合わせたような高い音。


 次いでライも気づくがそれどころではなかった。何故なら、


「ギイイっ!? ギィアアアっ!?」

(こいつら……何かに苦しんでいる?)


 突如として、ゴブリン達が一斉に耳を押さえて顔を歪めたのだ。そして脂汗を流しながらきょろきょろと周囲を見渡し始める。すると次の瞬間、


「うおおおおっ!」

「ギギッ!?」


 近くの茂みから一人の男が叫びながら飛び出して、ゴブリンの一体に体当たりを食らわせたのだ。そのままゴロゴロと転がると、そのゴブリンの腕をしっかりと極めて棍棒を奪い取りながら叫ぶ。


「今だっ!」


 ライには何が何だか分からなかったがただ一つ、これは好機だとは分かった。なので、


「ぜやあああっ!」


 ダンっと地を蹴って苦しんでいたゴブリンの1体に肉薄。そのまま木剣を頭部に叩きつけて沈黙させると、返す刀で近くに居たもう1体の腕を打ち据える。


 棍棒を取り落として悲鳴らしきものを上げるゴブリン。その個体を蹴り飛ばし、反動でユーノの近くまで一気に下がると、ライは力を振り絞って剣をしっかりと構え直し一言。


「まだ……やるか?」

(来るな……来るなよ)


 もう体力はとっくに限界ギリギリ。正直疲れで剣を取り落とさないだけでやっと。しかしそんな素振りはまるで見せないように、ライはゴブリン達を見据える。


「…………ギッ!」


 少し思案した後、ゴブリン達は憎々しげにライ達を睨むと、まだ動ける個体と共に森の奥に消えて行った。残されたのは倒れ伏すゴブリン達と、ライとユーノの兄妹。そして、


「……ふぅ。何とか追い払えたか。大丈夫かい?」


 突然乱入し、さりげなく今もゴブリンをがっちりと拘束している男のみだった。

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