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異世界予言システム。勇者に迫る死亡ルートを回避せよ!
黒月天星
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年07月11日
公開日
59,557文字
連載中
『おめでとうございま〜す! 貴方様は厳正な抽選の結果、見事他の世界への転生権を獲得いたしました!』
 
 事故で死にかけた男“灰谷開斗”。彼は死に際にヒヨリと名乗る超越者に魂を掬い上げられる。このまま行けば昨今流行りの異世界転生。望んだチートを手に入れて、約束されたバラ色の来世間違いなし……の筈だったのだが。
 
「チートはいらない。今のまま生き返らせてほしい」
『そうですか……では、楽して無双するベリーイージーの来世を捨てる代わりに、現世に戻るためだけに難易度ベリーハードのご依頼を受ける覚悟、ございますか?』
 
 それは、世界を救う勇者の物語……ではなく、自分が救われるために勇者を救う物語。
 
 頼りになるのは己の身体と、自らと勇者に迫る危険な未来を大雑把に知らせる予言システム。そして相棒のお喋りな白いコウモリ(に化けた超越者)のみ。
 
 迫るは無数のデッドエンドとバッドエンド。時には避けつつ時には払い、生存ルートを掴み取れ!
 

燃え滓の男は来世を蹴る

『おめでとうございま~す! 灰谷開斗はいたにかいと様。貴方様は……えっと、そう! 厳正な抽選の結果、見事他の世界への転生権を獲得いたしました! これで来世はバラ色間違いなし! よっ! 大統領! イエ~イっ!』

「…………はあ」


 俺は目の前で喋る妙にハイテンションの光の球に、そう静かに返事を返した。


『ありゃ? 予想外に気のない返事。おっかしいなぁ。まだ三十路前という年齢的に、もっとこう嬉しがる反応を期待していたんですけどねぇ』

「嬉しがるも何も、こんな状態でそんな話をされても気が気ではないんだけどな」


 そう。今の俺はどうやら意識だけのようだった。


 世界は今停止している。人も虫も風すらも止まり、動いているのは目の前の光球ぐらい。


 眼前には血まみれで倒れている俺の身体。崩れる廃屋の瓦礫から子供を庇って頭に直撃した結果だ。


 離れた場所には、突き飛ばした子供が膝を擦りむいた形で固まっていた。軽い怪我をさせてしまったが、瓦礫が当たるよりマシだと許してほしい。


『おっと失敬。先達に倣って時間停止をやってみたんですがお気に召さない? ならやはり、ここはテンプレをなぞりましょうか!』


 次の瞬間、俺達は周囲に何もない真っ白な空間に居た。これが天国かと言われれば、殺風景ではあるが納得しそうではある。


『では改めまして……コホン。ようこそ転生の間に。ワタクシこういう者です』


 その言葉と共にふわりと飛んできた名刺には、ただ一言『ヒヨリ』とだけ記されていた。


「これはどうもご丁寧に。ヒヨリ……さん?」

『何ならもっと気軽にヒヨちゃんと呼んでくれても構いませんよぉ。堅っ苦しいの苦手でして』

 そうコロコロと笑う光球……ヒヨリだが、愛想は良いし口調も軽やかなのに胡散臭さが拭えない。

「話の流れから察するに、俺は死んだのかな?」

『あ~いえ。正確には死ぬ直前ですね。なにせ完全な死者の魂は死神の領分でして、こうしてワタクシが干渉できるのは死にかけの僅かな時間のみなんですよねこれが』


 なるほど。だからさっき時間が止まっていた訳か。


 目の前の光球がそういう超常的な存在であるという事が分かり、ほんの僅かに警戒度を上げる。と言っても警戒して何が出来るという話だが。


『それでですね。開斗様には他の世界への転生権がございます。……時にそういう本やアニメを嗜んだ事は御有りで?』


 私は少し考えて頷く。数冊程度だが、以前友人に押し付けられてそういった物を読んだ事がある。


『ならば話が早い。もし開斗様がお望みであれば、なるべくご要望に合ったチート等を持たせて送り出すという事も出来ますが……いかがなさいます? 何かしらの願いを叶えるという形でもよろしいですよ』


 確か異世界転生のお約束という奴だったか? 俺が読んだ話では、全員が何かしらの転生特典を持っていた。


 ある者は強靭な肉体を。ある者は異性を魅了する美貌を。ある者は万物を創造する力を。


 それは得難い才能だろう。そんな物をなんでも一つ貰えるというのであれば、多少の資質の関係はあれど人生バラ色というヒヨリの言も間違いではない。だが、


「…………いや。特に思いつかない。強いて言うなら今のまま生き返らせてほしいというのが願いかな」

『ほう。約束されたバラ色の来世には興味がないと。……はは~ん! するとアレですかね。開斗様は今の人生に未練アリアリだと? どなたか良いお人でも居ましたか?』


 どこか下世話な態度でそう尋ねてくるヒヨリに、私は首を横に振る。


「両親とは早くに死に別れたし、親戚も大半が疎遠で恋人も居ない。ただ……人との繋がりぐらいはある」


 すべき事もやりたい事もなくなったが、それでも少しでも楽しめる事はないかと色々押し付けてくるお節介な友人が居た。


 やりたい事が見つかるまでウチで働かないかと誘ってくれた、行きつけの店の店長も居た。


 ついに就職が決まったと、笑いながら個人的に連絡してきた昔の教え子も居た。


「こんな俺だが、返すべき恩も礼も筋も残っている。なら、生きるのを止めるのはまだ早いだろう?」

『……ウソは言ってなさそうですね。躊躇いなく自分の身を挺して子供を助けた時から薄々感じていましたがこれは珍しい。降って湧いた力に溺れて壊れる人は多いですが、元から少し壊れていましたか』


 そう少々失礼な事をしれっと言い、ヒヨリは少しだけ黙考する。そして、


『大変申し訳ないのですが、誰かを魂ごと生き返らす系は基本NGでして。それを軽々しくOKしちゃうと死神関係に真っ向からケンカ売る事になっちゃうんで』

「……そうか」


 言いたい事は分かる。要するに縄張りの問題なのだろう。神と名が付こうと実情は世知辛いものだ。


 しかし困った。生き返る以外に願いはないし、欲しい能力も思いつかない。これはしばらく待ってもらおうと口を開き、


『とまあここまでがお行儀の良い建前の話。でも実際は、何であれちょっと危なかったりおっかなかったりする裏道というのがございまして』


 突如として、ヒヨリの雰囲気が変わる。言葉尻は同じでも少しだけ真面目に。或いは少しだけ愉し気に。


『楽して無双するベリーイージーの来世を捨てる代わりに、現世に戻るためだけに難易度ベリーハードのご依頼を受ける覚悟、ございますか?』

「ご依頼?」

『ええ。……ちょっと命を懸けて、世界を救うだけの簡単なお仕事ですよ!』

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