目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報
第15話 坑道調査




 ようやくたどり着いた坑道の入り口を見て、ゾランは額の汗をぬぐった。剥き出しの岸壁に、人の手で掘られた大穴がぽっかりと口を開けている。坑道は深く奥まで続いているため、入り口からは奥まで見通すことは出来ない。暗い坑内はどこか不気味で、ゾランはブルっと肩を震わせた。


「まずは周辺を警戒する。記者たちはあまり動き回らないでくれ」


 そう言って、ガウリロたちは入り口の周囲を念入りに探索し始める。ゾランはその様子を、一枚パチリと写真に収めた。冒険者たちは足跡や糞など、外での活動の痕跡を探しているようだ。カシャロ社の記者たちも、場所を決めて撮影の準備に入っている。大手出版社だけあって、機材はゾランたちが持っているものよりもずっと立派なものだった。


 そんな記者たちを横目に、冒険者たちは坑道の入り口付近の様子を丹念に調べ始める。ガウリロたちは地面を這うようにして手で土を弄ったり、匂いを嗅いだりしている。


「どうやら、定期的に外に出て活動しているようだな。坑道内にそれほど餌になるものがないのかも知れない」


 ガウリロの説明に、ゾランはメモをしながら首を傾げる。


「そうなると、今後の作戦にも影響が?」


「ああ。奴らのねぐらはそれほど深い場所にないのかもしれないな。だが奥に逃げられると厄介だ。坑道は枝分かれしているうえに、あちこち崩落している」


「普通の洞窟なら良かったんだがなァ」


 弓使いのヒネクが面倒そうに溜め息を吐く。ゴブリンの住処は大抵、小さな穴倉や木のうろなど、狭い場所が多い。


「洞窟だったら、どういう作戦になったんですか?」


「穴の奥に追い込んで、入り口で焚火を燃やすのが一般的だな。あぶりだされたゴブリンを一掃する。出てこない奴が中でくたばるのさ」


「なるほど……」


 メモを取るゾランに、ホンザは「そんなもんメモするのか?」と疑問の様子だが、冒険者と違って一般人には解らないことばかりだ。


「おーい、こっち来てくれ」


「ん? ああ!」


 他のチームに呼ばれ、ガウリロがそちらに向かう。エセラインと目を見合わせ、ゾランたちもそちらに向かった。近づいてみれば、どうやら数メートルだけ入ってみようということになったらしい。本格的な探索道具がないため、深くは潜らないようだ。


「『赤鹿の心臓』が先行する。その後に続いてくれ。記者たちはその後だ」


 ぞろぞろと動き始める一団に、ゾランもその後に続く。ヒネクの後ろに続こうとしたところ、横からカシャロ社の記者が割り込んできた。肘を間に入れられ、強引に入ってくる。


「わっ」


「ふん」


「ちょっと!」


「ゾラン。作戦に支障が出る。静かに」


 エセラインに窘められ、唇を閉ざす。文句を言ってやりたかったが、今はそんな場合じゃないようだ。大人しくカシャロ社の後ろについていく。


(大手って偉そうなんだな)


(仕方ない。実際、部数じゃ絶対に勝てない)


(まあ、そりゃそうだけど)


 コソコソとエセラインと喋りながら、着いていく。ゾランはカメラを構えながら、エセラインは周囲を警戒しながらだ。


(……食器が落ちてる……)


 ゴブリンが持ち込んだのだろうか。ゴブリンは道具は作らないが、使うことが出来るらしい。坑道内には古い食器が散乱していた。坑道内に『何か』がいる気配に、背筋が寒くなる。ゾランはごくりと喉を鳴らし、カメラを目の前に構えた。坑道内は薄暗く、足音が残響する。


「こっちの横道には居ないな。逃げ込まないよう、バリケード設置だ」


 先頭を行く冒険者の指示に、工作担当だった男がバリケードを設置し始める。なるべく横道を塞ぎ、ゴブリンの逃げ道を塞ぐ作戦のようだ。土嚢のようなものを積み上げ、入り口を封鎖していく。ゾランはその様子をパチリと撮影した。地味な画像だからか、カシャロ社の方は鼻を鳴らすだけでカメラを構える様子はない。


「ゾラン、今日の作業は終わりだそうだ」


「そっか。そろそろ暗くなるしな」


「俺たちも撤収しよう」


 坑道の外の光が、薄暗くなってきた気がする。夜になれば山は危険だ。暗くなる前に下山するため、ゾランたちは坑道を後にした。






コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?