科×妖・怪異事件譚
第27話
悪食の縄事件【中編上】
「しかし、どうやったら、こんな状況になるんだかな?」
「さあ、専門家の花蓮に分からないのものが、私に分かるわけないでしょ?」
「そりゃ、そうか…なら質問する相手を変えるか
放火魔…一応、聞いてあげるけど、お前は悪気の縄が、
どんな方向に進化したと考えてる?」
「放火魔って呼ぶんじゃない!
何度も誤解されるでしょうが!?
でも、答えてあげるわ
この惨状を見る限り、広範囲の人間の命を奪うことに重点をおいた
進化しをしたように思えるわね…」
「私も同意見だ
やっぱり、そう考えるしかないよな?」
「同じようなこと思っていたなら聞く前に自分の意見を言いなさいよ!?」
「まあまあ、小さいことは気にするって
あんまり、怒ると老化が早まるぞ?」
早苗はムッとした表情で声を荒げるが、花蓮の方はというと飄々と不真面目な態度で軽くあしらう。
「こ、この…エセ巫女がぁ!!!」
そんな不遜な態度を目の当たりにし、早苗は激高しながら花蓮の襟首を掴みにかかる。
「まったく、そうやって直ぐに暴力か……
気の短いヤツだ
そんなことだから放火魔に間違われるんだぞ」
「間違われたとなんてないわよ!
言わせておけば、アンタねぇ……
本当に状況が分かってるの!?
もう、沢山の人たちが犠牲になってるんだから!
ふざけている場合じゃないでしょ!?」
「そっちこそ、少し落ち着けたほうがいいと思うぞ?
頭に血を上らせていると益々、状況が見えなくなってくるからな
ほら、よーく……周囲を見てみろ?」
「いったい、何を言って……?」
花蓮から、そう告げられ早苗は言われるがまま……
視線を移動させた。
そして、その先に起こりし、ある異変に気付く。
その異変とは……。
「なっ……!?
これはいったい……
何で死体が動いているのよ!?」
「ええ、こんなの見せられて驚かない人なんていないわよね
で、これは、どういう理屈なの……花蓮?」
「それは知らん
餓鬼とかの類ではなさそうだけど……」
「知らんって相変わらずの反応……
で、これ……どうするつもり?」
「どうするって鎮静化するしかないんじゃないだろ」
「どうやって?」
「うーん、まぁ……
それはやっぱり、武力制圧しかないかな~?」
「結局、それしかないのね……」
「逆に良かったじゃないか、茆妃
得意分野の肉体労働で沢山、暴れられるぞ?」
「暴れ牛みたいに言わないでくれるかな……
それと亡くなった人達の遺体をハッ倒すとか、
いくらなんでも、そんな非情なことできないわ」
花蓮の決断に対し、不満そうに言う茆妃。
しかし、そんな茆妃に花蓮が非情なる現実を突きる。
「まぁ、気持ちは分からんでもないけどさ~
そんな事を言ってる場合じゃないんじゃないのか?
このままだと私たちも奴らの仲間入りだぞ
それに、あそこ……」
「生存者いたのねって……
あの人、襲われてるよ!」
「確かにマズいね……
あのままだと確実に動く死体の仲間入りだよ」
その直後、少し困ったような表情で由羅が呟く。
しかし……。
その冷静過ぎる反応を見て茆妃は動揺しながら花蓮と由羅に告げる。
「なに冷静に構えてるのよ!?
早く助けないと!」
「誤解しないでほしい……
別に何もしてないわけじゃないから
実はさっきから死体から伸びている影を通じて、影滅針による攻撃を仕掛けいるんだけど、奇妙なことに全く効果がないんだよ」
「なるほど……効果がないってことは、死体は操られているだけで妖になったわけではないってことか
となると物理的な方法でしか、アレは止められそうにないな
というわけだ、茆妃
後は分かるだろ?」
「うう……
つまり、結局は物理的な方法で遺体を動けないように傷つけないといけないってこと……?」
「そんな控えめな方法で済めばいいがな?
少なくとも遺体を行動不能になるまで破壊するくらいしないと
止められないんじゃないか?」
「うん、そうだね
最低限、頭部と四肢は破壊しておかないと無力化できないかも」
「それ……あの変態が得意そうなやつじゃない……」
花蓮と由羅の言葉に茆妃は思わず青ざめる。
「あと、破妖刀浄波の模造刀も持ってるから、ぶった切るという手段もあるぞ
思い立ったら吉日というし、覚悟を決めろ!」
「うう……
ぶった切るって、そんな殺生な……」
花蓮の容赦ない一言を受けて、茆妃は涙目になる。
しかし、目の前にある冷酷なる現実。
生きるために戦わない者に待ち受けるのは、死の運命のみだ。
そして、今まさに死体の群れに襲われ、死を迎えんとしている女性を助ける術は悲しいことに、それしか存在しない。
ならば……。
「分かった……選んでられないものね
もういいよ」
追い詰められすぎて耐えられなくなった茆妃は……。
即座に覚悟を決め、異形の群がる地獄に向けて駆け出す。
いや、実際のところ、覚悟を決めたのではなく考えるのを止めただけなのだが……。
怪我の功名というべきか、その結果、茆妃の動きに迷いはなかった。
また、その前方で何とか炎の術式で動く死体を討伐せんと早苗が奮闘する。
しかし、相手は妖ではない、ただの操られた死体。
結局、その攻撃は何の効果も得られず……。
早苗は悔し気な表情を浮かべながら後ずさる。
それ故に花蓮にしても由羅にしても、対策を見出せぬまま、行動できずにいた。
当然、それは茆妃にしても同様で、対処法も見出せぬまま……。
特攻を仕掛ける。
無論、それは完全なる無策。
襲われている中年女性を助けて、その場から離脱を図ろうという考えに基づいたものに過ぎない。
だが……。
(このまま遺体を切り伏せるしか、あの人を救う方法はない……!
でも、そんなこと私にできるの……?
くっ、迷うな私!そうすると決めたでしょ!?)
いくら自分の心を律し、鞭を打とうと動く死体を目の当たりにして、内なる迷いが再燃する。
だからといって手を手を拱いているわけにもいかず……。
迷いを抱えながらも、とにかく行動を起こそうと茆妃は特攻を続けた。
だが、その直後、茆妃はある違和感に気付く。
(ん……?何なの、胸の中央から浮き上がる黒い蛇のような影は?)
遺体の胸部から浮き上がる蛇のように蠢く影。
それを目にし茆妃は一瞬、我が目を疑う。
しかし、何度、見直しても状況に変化はなかった。
(見間違いかと思ったけど、どうやらそういうわけでもないみたいね
だとすると、もしかして……)
それは直感というよりは、ある種の確信。
その浮き上がる影にこそ、死人が動く原因があるに違いない。
茆妃はそこに死体が動く秘密があると感じ、思案の間も挟まずに浄波レプリカの切っ先を動く死体の胸元へと向ける。
当然、それは実証や根拠からなるものではない。
しかし、それでも茆妃は目の前に生じる異変を断つことが、この状況に変化をもたらすと信じて疑わなかった。
そして……。
「今、助けます!」
勢いをそのままに前方の動く死体に向けて精密かつ、素早い刺突を放つ。
次の瞬間、鋭き刺突は動く死体の胸元に巣食う蠢く影を見事に貫いた。
その刹那……。
「ぐぎいぃぃぃぃぃぃぃ!?」
絶叫が響き渡り、地面に向けて蠢く黒い縄が落下する。
「うわっ……何よ、これ……?」
地面でのた打ち回るのは、全身に無数の目玉が生えた黒い縄のような何か。
三つ目の異形の縄らしきものが、蛇のように苦し気に、のた打ち回る……。
しかし、それは瞬きする程度の短い時間のことに過ぎず……。
瞬く間、蒸発し煙のように消失していった。
それと、ほぼ同時……。
三体の動く死体は、糸の切れた人形のように崩れ落ち、ただの動かぬ骸へと戻る。
「一体、何が起こったのよ……?」
その様子を少し離れた位置から見守っていた早苗が状況を理解できずに呆気にとられた表情のまま呟く。
「分からないが、どうやら死体が動く秘密は体内に潜む何かが原因らしいな」
「どうやら、そうみたいだね」
更に、そのやや後方で様子を伺っていた花蓮と由羅が口を開く。
そして、花蓮、由羅、早苗の三人は襲われていた女性を守るべく、茆妃の元へと駆け寄った。
「大丈夫か、茆妃?」
「本当に無事で良かったよ」
「ええ、何とか助けられたわ……って、動くの遅すぎ!
私がやられたら、どうする気だったのよ!?」
「いや、まあ……その時は、ご愁傷様ですって、ご冥福を祈ってたかな……」
「どうやら少し、痛い目に遭いたいようね、花蓮?
薄情者には制裁こそお似合いだわ!」
「ちょっと、待て!ただの冗談だって!」
「言っていい冗談と悪い冗談があるでしょうが!?」
「頼むから少し、落ち着こうか、茆妃!
実はだな、破妖刀浄波の力を見ておきたかったんだよ!
模造品といっても、これを作ったのは古乃破姉さんだからさ」
「古乃破さんが、これを?」
「ああ、だから模造刀といえど侮れないんだよ
実際、強力な破邪の力をか発揮してくれたみたいだしな?」
「確かに、そうね
そこは否定しようもないわ……」
花蓮の言葉に納得し、茆妃は素直に頷く。
「ところで茆妃さん、どうやって動く死体の弱点を見破ったんだい?」
更に話のタイミングを見計らっていた由羅が、茆妃へと問いを発した。
「えーと、それなんだけど……
実は何か死体の胸元から黒い影ようなものが見えたのよ
それで、あ……多分これが死体を動かしている原因かな~と思って……
刀で突いてみたの」
「つまり、思い切ってぶっ刺してみたわけか
焼き鳥の串みたいに?」
「焼き鳥って……お腹でも減ったの花蓮?」
「いや、そういうわけじゃないけど何となく……な」
しかし、その瞬間。
周囲に盛大にグゥゥゥ~という、空腹音が鳴り響く。
「お腹は正直ね?」
「いや、違うぞ!
今のは私じゃないからな!?」
「嘘おしゃい!
意地汚い花蓮以外に誰がお腹なんて鳴らすのよ!?」
多くのうっぷんを溜め込んでいた茆妃はここぞとばかりに花蓮を責め立てるように捲し立てる。
だが……。
「ご、ごめん……それ僕のお腹の音……」
その刹那、とてつもなく申し訳なさそうに由羅が手を上げた。
しかも、少し涙目になりながら……。
「ご、ごご、ごめんなさい!
そんなつもりじゃ……」
「人を傷つけるようなことを言っちゃ駄目だぞ、茆妃~?」
(くうぅ……
コイツはぁぁぁ~……!!)
右こぶしを激しく握り締めながら必死に怒りを堪える茆妃。
だが、そんなホンワカしたやり取りもつかの間。
早苗がもの凄い形相で怒号を放つ。
「ちょっと、あなた達!
こんなところで油を売っている場合じゃないでしょ!?
早く、その人を退避させないと!」
「た、確かに、その通りですよね
すみません……」
「ご、ごめん……早苗」
「ムカつくが確かに、その通りだ……
今回は認めてやる……」
こうして三者三様、それぞれが早苗に対して詫びた後……。
四人は周辺を警戒しながら歩く死体の方へと視線を移した。