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第23話 悪気の縄事件【前編】

科×妖・怪異事件譚


第23話 


悪気の縄事件【前編】


「いや~、本当に大変だったな」


「ええ、本当に死ぬかと思ったわ

気がついたら終わってたけど……」


「ああ、まさか鏡界があんなヤバい能力を持っているとは私も思わなかったぞ」


「ん、どういうことかしら?」


「い、いや……実は月長に鏡の視界を付与しただけの式神になるはずだったんだが、早苗の霊力の影響か良くわからん能力まで追加されてな

なんか体に映し出された妖すべてを焼き尽くすような規格外の式神になってしまったんだよ」


「そ、そうなんだ~

とういことはキチガイに刃物ってことだよね、花蓮?」


「ああ……って、それを言うなら鬼に金棒だっての!

絶対にワザと間違えただろ!?」


「ご、ごめんなふぁい~」


花蓮に頬をつねられ、茆妃は涙目になりながら必死に許しを請う。


「許してほしいのか?」


「ふぁい……許してほしいれす」


「仕方がないな

ほら……」


花蓮は茆妃の頬から素直に手を放す。


こうして、何とか頭地蔵事件の一件から無事に生還した二人は神室家正門前で別れ、それぞれ帰路につくのだった。


それから2日後。


「また、来たのか……

今回はやたらと早くないか?」


「また来たのかとは、ご挨拶ね

事件は待ってくれないんだから仕方がないでしょ?」


「事件は待ってくれないって……別に警察じゃないんだからさ

ワザワザ好き好んで首を突っ込まなくても良くないか?」


「うーん、そう言われても進兄様のことを考えるとそうもいかなのよ

それに頭地蔵の事件も犯人が捕まっていないから未解決事件扱いだし

警察も色々と大変だしね」


「そりゃあ、まあ……犯人が妖なんだから犯人なんて捕まえようがないわな

逆に今まで犯人候補が、あんな簡単にポンポンと見つかっていたことの方が正直、おかしかった訳だし?」


「そんなに簡単な話じゃないわよ

あれは総力を上げて関係者を洗い出して、何とか出せた結果なんだからね」


「こじ付けに全力を上げてるわけか警察は

あの変態は証拠隠滅に長けてるみたいだし、犯人候補なんてまず見つからないだろうな……ご愁傷様」


「ご愁傷様って、その言い方はあんまりじゃない?

まあいいわ、この際、過ぎたことは

それより、警察の威信を保つために力を借してよ、花蓮!」


「まあ、どうせ断っても巻き込まれるから聞いてやるよ

で、今回はどんな事件なんだ?」


「よくぞ聞いてくれました!

今回は連続首吊り事件よ!」


「え……いや……

どういうことだ?」


「だから連続首吊り事件よ!」


「いや、それは分かったけどさ……

それは普通に、ただの自殺じゃないのか?」


「いえ、それがそうとも限らないのよね」


「何故そう言い切れる?」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!

実は、この事件ね、首吊りには違いないんだけど首吊りに使われたはずの縄が一切、見つかっていないのよ」


「結局、絞殺の線もあり得るということか?」


「そうなるわね」


「だとすると通り魔的な犯行の線もあるってことになるんだろうが……

それだと目撃者が居そうなものだよな?」


「そう!

まさにそこなのよ!」


茆妃は花蓮の言葉で熱くなり目の前のテーブルを勢いよく叩く。


「分かった!

分かったから、そう熱くなるなって!

要するに犯人の目撃情報がなくて手詰まりってことなんだろ!?」


「うん、まあ……

確かに捜査的には手詰まりだけど、問題はそこじゃないの」


「どういうことだ?」


「実は目撃者は居たんだけど……

その内容というのが、ちょっとね……」


「どんな目撃情報なんだよ?」


「うん、ある女性の話で突然、目の前を歩いていた男性の前に黒い縄が現れて、その男性が吸い込まれるように、その縄に近付き首を吊ったらしいの

それなのに、その縄はいくら探しても見つからなかったそうよ」


「その女性が嘘をついている可能性もあるんじゃないのか?」


「多分ないと思う

そもそも被害者との接点がないし、もし万が一接点があったとしても

他の首吊り事件への関与は認められていないもの

つまり、この男性の首吊りには関係あったとしても他の首吊りには関係ないってことになるのよ」


「なるほど……

その話が確かなら茆妃の言う通り、自殺でも他殺でもないことになる」


「そう、この状況なら妖の仕業と考える方が自然でしょ?」

「まあ……それなら筋は通るが、この事件を本当に妖絡みという形で片付けて大丈夫なのか?」


「どうして、そんなこと聞くの?」


「冷静に考えてみてくれ

この事件も解決したところで犯人が妖である以上、捕まえようがないだろ?」


「ええ、確かにそうね

でも、警察全体としては威信や立場を重んじているけど、進兄様の考えは違うわ

進兄様は警察の面子より、妖の犠牲になる人を一人でも減らしたい……

そう思っているのよ」


「それは殊勝な心掛けだな

個人的には、そういうの嫌いじゃない……」


茆妃の言葉に頷いた後、花蓮は徐に立ち上がった。


そして、身支度を整えながら茆妃に告げる。


「いくぞ、茆妃」と……。


こうして、神室家を出発してより、30分程が経過したころ……。


歩き続ける花蓮が不意に口を開いた。


「なあ……私たちは一体どこに向かっているんだ?」


「うーん……

当然、昼時だからお食事処だけど?」


「なぁ、私は茆妃のお兄さんの思いに心打たれて、意気込んで来たんだぞ?

私のこの熱意を返せ!」


「ふーん、そんなこと言っちゃうんだ~?

じゃあ、お昼食べないのね

いらないなら、私一人で食べにいくわよ?」


「くっ……

た、食べないとは言ってないだろ!

当然の権利として食べる決まっている!」


「当然の権利なんだ……

まあ、別にいいんだけどね……」


「武士は食わねど高楊枝と言うけど、腹が減っては戦はできぬとも言うからな!

さっそく燃料補給にいくぞ、茆妃!」


「え、ええ……いきましょうか」


そんな花蓮の変わり身の早さに茆妃は一瞬、気圧されたあと思わず苦笑した。


こうして、更に歩き続けること数分後……。


花蓮と茆妃は美味しそうな香りに誘われるがまま、ある店に入店を果たす。


その店の名は洋食屋領国『りょうごく』という名の店。


洋食に重きを置いた料理店である。


「むむむ……ま、迷うな?」


「分かるわ

どれもこれも美味しそうだものね」


「そうなんだよ……

あのお客さんが食べてる衣のついた肉みたいなヤツも興味深いな?」


「あれはトンカツね

あと、オムライスも美味しそうだわ」


「ん……?

あの濃い茶色の煮込みものは何だ?」


「あれはブラウンソースを使ったシチューよ

頼んでみる?」


「ああ、頂こう!」


悩みに悩んだ末、漸く注文決定の意志を固め、花蓮は難敵の訪れに備えるべく態勢を備える。


そして待つこと20分後……。


花蓮と茆妃と眼前にシチューが運ばれてくる。


「こ、これがシチューというものか

お……おいちそう……」


「なんか、言葉がたどたどしくなってるけど、大丈夫?」


「も、問題ない!

私はいつ、いかなる時も油断なく挑む覚悟を決めているからな!」


(うう……食事に対する気迫が凄まじ過ぎる!

もしかして、これは妖と対峙する時以上なのでは……?)


こうして花蓮は燃え盛る気迫とともに、スプーンを手にし……。


シチューを口に運んだ。


その刹那。


(な、ななな!?

なんという濃厚で旨味なんだぁぁぁ!!)


「旨い!

旨すぎるぞぉぉぉ!!」


花蓮の口に濃厚な旨味が広がり、芳醇な香りが鼻孔を突き抜ける。


それは落雷の如く……。


全身に衝撃を走らせる。


まさにカルチャーショック。


前代未聞の何とやら。


そんな良く分からない表現の嵐が脳裏を駆け巡り、花蓮は後方に仰け反る。


「ちょ、ちょっと突然どうしたのよ、花蓮!?」


「お、おいちかった……

ご飯もたびたい……」


(恐るべし、シチューの破壊力!?

まさか、美味しさの暴力で花蓮を幼児退行させてしまうなんて……!?)


その後、シチューの暴力的な旨さにハマった花蓮は幾度となく御代わりを重ね……。


店を出るまでライスを7杯、シチューを10杯も平らげたのだった。

そして、至福の時が終わりを告げ……。


花蓮と茆妃の二人は再び、目的の地を目指して歩き出す。


しかし……。


「う、うう……あんまり……走らないで……」


「そんな状態になるんだったら何で、あんなに食べたのよ?」


「だって……美味しかったかったんだもん……」


「いくら美味しかったからって流石に、あの量は食べすぎだよ?」


「腹が減っては戦はできぬ……」


「だからって食べ過ぎて動けなくなったら結局、戦はできないと思うんだけど?」


「うん……なんていうか

反省してます、心の底から……」


「よろしい

それはそうと、この首吊りさせる縄は港区三田方面で目撃情報があってね

港区三田方面で推定7人の犠牲者が出ているの」


「推定?

ということは確証はないってことか?」


「ええ、証拠がないから断定ができないのよ」


「なら、前の目撃談の話みたいに前提条件は絞殺状態ではあるが、

首吊りに使った縄が見つからなかったといった感じか?」


「ご名答、その通り」


「だとしたら、その連続首吊り事件に便乗した他殺などもあるかもしれないな?」


「可能性は無いとは言わないけど、そういったことは無いと心の底から信じたいわ」


「そうだな……

あの変態のような人間もいないとは言わないが実際、あそこまでの狂人は稀だからな?」


「あんなのそうそうお目にかかれないわよ

そもそも、あのような変質者が大量生産されるようなら、この世はまさに地獄じゃない」


「酷いですね~、酷い物言いですね~

いくら何でも酷すぎませんか?

私に対する認識が?」


「え……?

今、何か聞き覚えのある声が……?」


「あ、ああ、間違いないぞ!

今の声は!」


聞き覚えのある声に反応し、花蓮と茆妃は即座に振り向く。


その眼前に佇むのは神田勝功こと、通称ドクターS……。


狂人にして変質者、その人であった。


「な……なんで貴方がここに居るのよ……?」


「気をつけろ……

何をしてくるか、分からないぞ?」


花蓮と茆妃は緊張した面持ちで、八神田の出方を伺う。


だが、八神田は薄気味悪い笑顔を浮かべながら徐に口を開いた。


「まあまあ、落ち着いてください御二方

私には、ま~ったく敵意はありませんよ」


「それを信じろというのか?」


「はい、信じる者は救われます」


「この前、殺されかけているのに、その言葉を信じろと言われてもね……

少しも説得力がないんですけど?」


「むう、ごもっともな意見ですね

だけど、これは紛れもない真実ですよ

それに今更、貴女方を葬っても意味ないがないですしねぇ……」


「意味がないって、どういうことよ?」


「言葉通りです

私の素性はどうせ既に割れてしまっているでしょうから、もう危害を加える気などありませんよ

もっとも貴女方が私を害するのであれば、その限りではありませんがねぇ?」


八神田がそう言い終わるのとほぼ同時。


周囲の空気が一瞬、凍りつく。


(くっ……相変わらず、威圧感だ……)


花蓮はその圧力に気圧され……僅かにたじろぐが、茆妃はその圧力を跳ね除け、僅かに前に出る。


「おお、素晴らしい! 

ブラボーぉぉ!

いいですね、本当にいいですね~

どうです、やっぱり私の助手になりませんか?」


「それは前に断っているはずよ!

それより、今回は何しに来たのかしら?」


「うむ、それなのですが……

実はこの辺で悪気の縄という妖が出たとの噂を聞きつけましてね~

その研究のために、この地を訪れた次第なのですよ~」


八神田は茆妃の問いにそう答えると……。


怪しげな笑みを浮かべた。


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