科×妖・怪異事件譚
第22話
地蔵坂・頭地蔵事件簿【後編】
頭地蔵に囲まれてから、3分程が経過した頃……。
「見なければ攻撃をしてこないのはいいんだけどさ……
このままだと埒が明かないんじゃない?」
「そんなことは貴方に言われなくても分かっているわよ!
エセ巫女!」
「ふーん……
だったらさ、なんか妙案とか出したら?」
「それはこっちの台詞!
貴女が本当に神室の巫女だっていうなら、この程度のことサクッと解決してみなさいよ!」
「む、無茶言うな!
私を古乃破姉さんと一緒にするんじゃない!」
危機的な状況だというのに、言い争いを続ける早苗と花蓮。
その危機感の無さを目の当たりにし、茆妃が二人の会話に割って入った。
「ちょっと、二人ともいい加減にしなさい!
言い合っている暇があったら、この状況を打破する方法を考えなさいよね!」
「も……申し訳ありません」
「ははは、確かにこんなことをしている場合じゃなかったな……」
早苗と花蓮は心底反省したのか、素直に茆妃へと詫びる。
しかし、反省したからといって直ぐに状況が解決するわけでもなく……。
早苗、花蓮、茆妃の三人は頭を悩ませながら思案を続けた。
そんな中、茆妃が状況を少しでも把握しようとコンパクトサイズの鏡を取り出し、周囲の光景を鏡に映してみようと提案するが。
「鏡で周囲の状況を把握する……か」
「やっぱり、マズイかな?」
「どうだろう……
行動条件が直視なら危険はないが、確認できているわけではないからな
正直、断言はできないよ」
「やっぱり、そうなるよね
では名倉さんはどう思いますか?」
「そうね……私も断言はできないけど、伝承などで頭地蔵を鏡で見たという記述はないから、もしかしたら認識されない可能性もあるとは思うわ
ただ……」
「リスクはある……そういうことですね?」
「ええ、下手すると認識される可能性はありますし」
「でも、逆に認識されない可能性もあるということですよね?」
「私の見立てでは五分五分
そんなところでしょうか……」
「ならやってみる価値はあるんじゃないか?
どうせ、こうしててもいつかはやられるしな」
「意見は全員一致ということね」
茆妃は早苗、花蓮がこの方針に賛同するのを確認し……。
即座に小型の手鏡を鞄から取り出した。
こうして、周囲の光景を投影させた直後、鏡には自分たちの背後に佇む十体数体の頭地蔵の姿が……。
「ふう……
どうやら認識はされないかったみたいね……」
「し、心臓に悪いな?」
「ええ、決して気分の良いものではないですわ」
「しかし、ここからどうする?」
早苗が感想を述べると即座に、花蓮が次なる方針について二人に意見を求めた。
しかし……。
茆妃が不意に口を開く。
「名倉さん、花蓮
質問ですけど、例えば対象を見ずに攻撃というのは可能なのかしら?」
「私の場合は式神に指示して、対象を攻撃するから相手の位置が明確なら
攻撃自体は可能だぞ
ただし、頭地蔵を式神を目視した場合、頭地蔵の対象になる可能性はあるけどな」
「ふーん……
なら役に立たない可能性は十分にあるということね?」
「何だと!?
だったら、お前の方はどうなんだよ?」
「一緒にしないでいただけないかしら
攻撃範囲を限定すれば、私の術なら一掃可能よ」
「なるほど……
ならとりあえず名倉さんの術で背後の頭地蔵を一掃して、周囲を鏡で確認したのち
残りの頭地蔵を排除すれば何とかなるのではないですか?」
「確かに、それが一番の安全策だと思うわ
そうと決まれば術式を組みますけど、よろしいかしら?」
「ええ、お願いします」
「ああ、私も異論はない
やってくれ」
早苗が確認するために言った一言に、茆妃と花蓮が同意し頷く。
そして、二人が同意したのを確認した早苗は即座に術式を組み、自分たちの背後に熱気を生み出す。
「名倉流退魔炎陣・波紋演武……周囲の知れ者を焼き尽くせ!」
その瞬間、茆妃、早苗、花蓮のいる場所を中心に地面から炎が生じさせ……。
波紋の波が広がるように炎の壁が構築された。
こうして、十数体は居たであろう頭地蔵は一気に焼き尽くされ……。
その後に残ったものは無残な消し炭のみだった。
「これ……人が居たら大惨事じゃないかしら?」
「人がいても問題ありませんわ
この炎はあくまでも破魔のために生み出した炎ですから不浄の者にしか害をなしませんから」
「ん……ちょっと待ってくれ?
その話が本当なら最初にお前が放った炎を食らったとしても、私には害がなかったということじゃないのか?」
「それはどうでしょう?
エセ巫女は混ざりもので不浄ですから焼く尽くされても不思議ではありませんわ」
「それ、差別だからな?
私は不浄でもエセ巫女でもないし」
早苗のお陰で窮地を脱した手前、強く反論する訳にもいかず……。
花蓮は不本意そうな表情のまま、そう力なく告げる。
しかし……その直後。
「ちょっと、待って!
まだ、周囲を確認するのはマズいわ!」
「え……?
どういうことですか?」
突然、茆妃が早苗と花蓮に慌てて、そう告げる。
その一言に対し思わず首を傾げた早苗だったが……。
茆妃から手渡された鏡を覗き込んだ瞬間。
顔から一気に血の気が引く。
何故なら鏡に映し出されたもの……それは遠方に、佇む多数の頭地蔵だったからである。
しかも、それは先程、早苗が消し炭にしたものと同一個体。
数は優に、二十体を超えている。
まさに一難去ってまた一難というべき状況だった。
「こ……こんなバカなことが……?
一体、何がどうなって……??」
この現状に戸惑う早苗。
しかし、茆妃と花蓮の方は早苗と異なり至って冷静だった。
何故なら……。
「なあ、茆妃……」
「何かしら花蓮?」
「これは多分、あの変態の仕業だと思うんだけど、どう思う?」
「私もいま同じことを考えていたわ
本当にハタ迷惑な話よね」
「まあ、それが分かったところで、どうしようもないんだけどな」
「確かに既存の方法じゃ打つ手がないんでしょうね
ただ、式神が直視しても反応が無い場合は打つ手があるでしょうけど……」
「なるほど、一応試してみるか?」
そう言うなり、花蓮は二枚の式符を上空に放った。
その瞬間、のっぺりとした人型が目の前に降り立つ。
「いけ、月長『げっちょう』!」
こうして、花蓮に使役された目も鼻も口もない、その存在はゆっくりとした
足取りで、頭地蔵の方に向けて歩き出す。
「ねえ、花蓮」
「なんだ?」
「さっきの式神、目も鼻も口もなくて可愛げがないけど、あれで周囲の状況って把握できるものなの?」
「甘く見てもらっては困るな
月長は空気の淀みや熱で状況を把握する式神
目で見る式神ではないから頭地蔵に認識される可能性は低いはずだ」
「それならもしかしたら……」
花蓮のその一言に納得し、茆妃は月長に一縷の望みを託す。
しかし、頭地蔵と数メートル程の距離に近付いた瞬間。
月長の前方に佇んでいた頭地蔵たちの頭が突然、巨大化する。
そして、月長は頭地蔵たちに四肢を咀嚼され、瞬く間に姿を消した。
「あの……何もできずに食べられちゃったんですけど?」
「た、食べられちゃったな……」
「は~……やっぱりエセ巫女の術なんて役に立ちませんわね?」
「黙れ、放火魔!
ならお前は何とかできるのか?」
「そ……それは……正直、現段階では難しいですわ
もう一度、波紋演武を使っても近付かないと効果はありませんし……」
花蓮にそう一喝され、早苗は思わず口ごもる。
「だろ?
文句を言う暇があったら、まずは対策を考えろよ」
「それは花蓮もでしょ?」
「う……
ま、まあ……そうだな」
「そんなことより、何か他に策はないかしら?」
「いま考え中……」
「私もまだ対策は思案中ですわ
頭地蔵を見ないで倒さなければいけないという状況も変わってはいませんから
何よりまず、あの増殖する現象を止めなくては……」
「うーん……鏡による間接的な認識なら反応しなかったのにね」
「あっ!それだ!」
「何か、思いついたの?」
「ああ、要するに直接的な認識でなければ頭地蔵には認識されないってことだろ?
なら鏡に映った風景で周囲を認識する式神を作ればいいんだよ!」
「できるの
そんなこと?」
「できるぞ
媒体さえあればな……」
「媒体って何が必要なの?」
「そうだな……まずはその鏡かな」
「わかったわ……」
花蓮は茆妃から鏡を受け取り、鏡に式符を纏わせる。
しかし、術式を組んでいる最中、花蓮は少し困ったような表情を浮かべ早苗の方に視線を移す。
「すまないんだが、手伝ってくれないか?
ちょいと人造式神を作るのに少し霊力が不足しているようなんだよ」
「あらあら、情けないわね」
「まあ、抑制をしている霊力を解放していいのなら何とかなるけど、その後のことは責任持てないんだよな
それでもいいか?」
「う……協力させていただきますわ……」
その後、脅迫に屈した早苗は花蓮に言われるまま素直に協力し、鏡に霊力を注ぎ込んだ。
そして……。
「よし、完成したぞ、人造式神が
その名も鏡界『きょうかい』だ!」
「えーと……
なんか月長の鏡版という印象しかないんだけど?」
「いいんだよ、そこは
あくまでも機能重視なんだから」
「いえ、私も九条さんの言う通り、見た目は大事だと思いますけど?」
「呑気すぎだろ、お前らは……?」
茆妃と早苗の発言に呆れ返る花蓮だったが、そんなことをしている場合ではないと思い直し即座に鏡界へと命令を下す。
その刹那、花蓮から命を受けた鏡界が頭地蔵たちの方へと走り出す。
こうして、とんでもない早さで鏡界は一気に距離を縮め、頭地蔵たちの姿が鏡界の鏡体へと映り込んだ瞬間……。
頭地蔵たちが次々と発火し炎上始めた。
その力は圧倒的かつ超常的で、鏡界は頭地蔵の本体も分体も分け隔てなく平等に焼き尽くす。
まさに切り札に相応しい力だった。
しかし……。
(あ~……なんだろ、これ~
まさか、こんな、とんでもないモノが誕生するとは夢にも思わなかったよ……
もう、どっちが化け物か分かんないし
でもまあ……結果が良ければ全て良しっていうし、うん……
気にしたら負けだな!)
発案者にして制作者である花蓮にとって鏡界の能力はまさに想定外だったことは言うまでもなく……。
こうして、なんかよく分からないうちに頭地蔵事件は終焉を迎えたのだった。