目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第21話 地蔵坂・頭地蔵事件簿【中編の下】

科×妖・怪異事件譚


第21話 


地蔵坂・頭地蔵事件簿【中編の下】



「え~と

何で、こうなったのかな~?」


「仕方がないだろ

もたもたしてたら頭地蔵を、あの放火魔女に横取りされるんだからさ!」


「え……いや、でもね

別に私たちが無理して倒さなければいけないって話ではないよね?

頭地蔵と遭遇したら危険も多いわけだし……」


「まさか怖気づいたのか?」


「だ・か・ら・そういう話じゃなくて~

花蓮だってなるべく、危険なことをしないようにしたいみたいなことを言ってたじゃない?

それに報告もしないで頭地蔵を退治したとしても謝礼とか出ないけど?」


「あ……まあ、確かにタダ働きは割に合わないか

でもさ、あの放火魔女に出し抜かれる事だけは、どうしても我慢ならないんだよ!」


「ははは……

本当に名倉さんとは仲悪いんだね

それより、本当に大丈夫?」


「何が?」


「古乃破さんに報告しなくて……」


「なんで、ここで古乃破姉さんの話が出てくるんだよ?」


「えーと……

少し落ち着いた方が良いと思うよ

巨大餓鬼玉の一件でも古乃破さんに怒られたばかりでしょ?」


「あ……

確かに……」


茆妃から告げられた一言で我に返り……。


花蓮は徐に歩みを止める。


そして、暫し悩んだのち……花蓮は一匹の黒曜を古乃破の元へと向かわせた。


「よし、これで事後報告にはならないぞ

万事解決だ!」


「いや……本当に、それ解決になっているの?」


「安心しろ

事情が事情だし、きっと大丈夫だ!」


(なんか前回の二の舞にしかならないような気がするのだけど……

そんな状態で一体なにを、どうしたら安心できるかしら?)


そんな一末の不安を抱きつつも、対抗心に燃えた花蓮を止められるはずもなく……。


茆妃は花蓮と共に袋町の地蔵坂を目指すのだった。


そして、それから4時間後……。


「乗り物を使って尚、この時間か

袋町の地蔵坂というのは結構、距離があるな?」


「迷ったのも原因だけどね」


「そんなに迷ったかな~?」


「は~……まあ、いいわ

それより、頭地蔵については何か対策とかあるのかしら

名倉さんたちは頭地蔵の特性とか知っている口ぶりだったけど……?」


「勿論、それなりに考えはあるさ」


「具体的には?」


「気配を感じても振り返るな

それだけだ……」


「それ……何の対策になるの?」


「退治は出来ないが少なくとも身は守れる

十分だろ?

頭地蔵という妖の性質は自分を見た者を頭から食べることだからな」


「でも、それだと何もできないんじゃない

対策としては微妙だと思うのだけど?」


積極的なのか消極的なのか……。


その判断に迷いながら茆妃は、花蓮を問い詰める。


だが、花蓮は落ち着いた口調で茆妃に告げた。


「先ほど頭地蔵の分体を仕留めたのは由羅だったが……

一体どうやって仕留めたのか想像つくか?」


「正直、想像は出来ないわね

ただ、素早い身のこなしだったし……

隙を突いて背後から回り込んでとかじゃないかな?」


「不正解だ」


「え……違うの?」


「ああ、頭地蔵の特性は見た時点で、妖としての力が発動するもの

つまり、どんな力を持っていようと見た時点で頭地蔵に喰われてしまうということだ

だから放火魔女には対処するのが難しいんだろうな」


「放火魔女じゃなくて、名倉早苗さんね

ところで影月由羅さん、彼女はどうやって頭地蔵を退治したのかしら?」


「由羅は暗影術を使えるから恐らくは……

影を使って頭地蔵に悟らせないように意識外から攻撃したんじゃないかな?」


「うーん、見ないようしなきゃいけないとかまるで、ギリシア神話のメドゥーサね」


「なんだよ、メドゥーサって?」


「ギリシアって国の神話に出てくる見た者を石に変える怪物よ」


「ふーん、そうなんだ

まあ、それはさておき問題はどうやって頭地蔵を倒すかだな」


「そこなのよね~」


何の方針も見出せず、頭を悩ます花蓮と茆妃。


だが、結局、何の方針も思いつかず、気がつけば袋町の地蔵坂に到着していたのだった。


しかし、そこにはまだ由羅と早苗の姿は無く……。


どころか、そこには人っ子一人いなかった。


「流石は殺人事件が起こった場所

誰一人いないな?」


「ええ、警察が交通規制をかけている当然でしょうね

でも何で名倉さんと影月さんは居ないのかしら

先に来ていると思ったのに?」


「どうせ、私たちには倒せないとか思って余裕こいてるんだろ

確かに私の式神と頭地蔵の相性は、あまり良くはないからな」


「でも、それは名倉さんだって同じじゃない?」


「いや、自分が手傷を負う前提で周囲に火を生み出せば……

あの放火魔女なら多分、頭地蔵を退治できるだろうな

ただ、そこまでやる気があるか、どうかは別の話だろうが」


「なるほどね

それより、これからどうするかだけど……」


「そうだな

まずは血痕があった場所にでも行ってみるか」


そう花蓮から提案され、茆妃は素直に頷く。


そして、血痕があったとされる場所に到着し、周囲を確認していくと周囲の木々の間に古びた社が……。


「どうやら廃棄状態の社みたいだな?」


「ええ、他には何もないみたいね……

ところで頭地蔵に襲われて助かった人と、そうじゃない人の違いって何だったのかしら?」


「うーん、理由は分からないんだけどさ

どうやら喰われてしまっても念仏を唱え続けると、何もなかったことになる……

確かそんな話があったな

地蔵の妖だから仏教と何かしら縁があっても不思議ではないが……」


「そうなの

ところで、花蓮?」


「なんだ?」


「この事件が関与している妖なんだけど

最初の段階では頭地蔵だとは、気付いていなかったんじゃない?」


「気付いていなかったというより、確信がなかっただけだ

地蔵の妖と言っても沢山いるからな」


「へ~、そうなんだ~?」


「その感じ、私の言葉を信じてないだろ?」


「そんなことないわよ~」


花蓮から放たれる鋭いツッコミ。


それを受け流さんと、茆妃は惚けた口調でそう告げる。


だが、その時。


「あ~ら、あらあら?

もしかして、まだ頭地蔵を見つけられていないの?

流石は格好だけの巫女崩れ

本当に役立たずよね?」


「く……

もう来たのか、放火魔女……」


「誰が放火魔ですって!?

私はどこにも放火してないわよ!」


「どうだかな?」


調査中に突然現れた早苗の一言で、犬猿の仲の早苗と花蓮は言い争いを始める。


しかし、次の瞬間。


突然、周囲の空気が変わり、重々しい気配が……。


「どうやら……お出ましのようだな?」


「ええ、エセ巫女でもそこまで鈍くはないみたいね?」


「その言葉、そのまま返すぞ」


相変わらず、早苗と花蓮はしょうもない言い合いを開始したものの、両者には先ほどまでの余裕はなかった。


何故なら……。


「でも、どういうことなのよ

これは?」


「確かにおかしいな

この気配は一体だけのものじゃないぞ……」


早苗の一言に花蓮が素直に頷く。


「ええ、大勢いるみたいだわ

気配からして多分10体くらいは……」


「ああ、マズいな

それで問題は、ここからどうするかだが……」


「だったら一旦、食べらながら念仏を唱えて、

この場から逃れて仕切り直すのはどうかしら?」


悩んでいる花蓮に対し茆妃が、そんな提案をするが……。


「そうしたいのは山々だが、その案には大きな欠点がある」


「どんな欠点よ?」


「私は念仏がどんなものであるかを知らないんだよ

で、茆妃は知っているのか?」


「あ……

言われてみれば私も知らないわね……」


「なら、その案は却下だ」


「あの……名倉さんは、もしかして念仏知ってたりします」


「知っているわけないでしょ?

そもそも系統も違うし」


「じゃあ、何かこの状況を打開する良い方法とかに心当たりありますか?」


「残念ながら無いわね

一体や二体くらいならともかく、この数は由羅でも無理だと思わよ

とにかく今は顔を上げたり、振り向いては駄目

そうしないと確実に喰われて終わるからね」


「ですよね~」


こうして突然、想定外の窮地に立たされた三人は……。


愕然としながらも対策を練り続けるのであった。












コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?