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第4話 幽鬼奇譚【中編】

科×妖・怪異事件譚


第4話 


幽鬼奇譚【中編】


「話すだけ無駄でしょ

 素人に話したって、どうせ分からないし」


「花蓮ちゃん

意地悪は駄目ですよ」


「は、はい!」


古乃破から一喝された花蓮は落ち着かない様子で、茆妃に状況の説明を始める。


その内容を要約すると……。


強い心残りを残した幽鬼が磁石のように様々な念を集めて取り込むことにより、力を増し妖に近い存在になるというものだった。


具体的には噂が広まることにより、人々が幽鬼に恐怖を抱くことで、その恐怖の念が幽鬼に集まるのだという。


こうして、幽鬼はより強大な怨念存在となって、人々を害する存在と化していく。


それが、この事件で目撃されている赤い女の正体だというのが、

古乃破や花蓮の見解だった。


「とまあ、理屈はこんな感じかな」


「つまり、時間が経過すれば経過するほど、この事件の犯人は

 凶悪になっていくってこと?」


「その認識で間違いないよ

信じるか信じないかは、あんたの勝手だけどね」


「あんたじゃなくて、茆妃」


「はいはい

それで茆妃は私に何をしろと?」


「進兄様と街の人たちの為に、この事件解決に協力してほしいのよ」


「でも、私は奇術師なんでしょ?

だったら幽霊退治なんて、できないと思いますけどねえ?」


「うう……そんなふうに言わなくても

私が悪かったわよ

確かに本職の人相手に、失礼なことを言ってしまったことは謝るわ

幽霊とかは信じてはいないけどね」


「だったら何で協力してくれとか言えるわけ!?」


茆妃の放った余計な一言に激高しながら花蓮はテーブルを叩いた。


だが、その直後、古乃破が花蓮の右肩を軽く叩きながら言う。


「まあまあ、色々な考えな人がいるわけですし、

修行にもなるから協力してあげたらいいじゃない

そ・れ・よ・り・テーブルは大切に扱いましょうね?」


「は、はい……ごめんなさい」


花蓮は古乃破の笑顔の内から放たれる何とも言えない圧力に屈し結局、茆妃に協力することした。

というより、実質的に選択肢は存在していなかったのだが……。


そして、調査するべく境内から出ようとした直後、石階段を上ってくる人物が二人が茆妃と花蓮の前に現れる。


(誰だろう?)


茆妃が、その二人の方をマジマジと見ると、その40年代ほどの男女は神職らしき恰好をしていた。


そして、目があった瞬間、その二人は花蓮に対して、声をかけてくる。


「珍しいわね、花蓮

ご友人とお出かけかしら」


「うむ、まさか人見知りの花蓮が友達を、連れてくる日が来るとはな今日は赤飯を炊かねばなるまい」


「へ、変なこと言わないで!

茆妃は友達じゃないから!」


「じゃあ、何なのかしら?」


「く、腐れ縁よ、腐れ縁!」


「ははは、恥ずかしがり屋だな

花蓮は」


「だから違うってば!」


そう言うなり、花蓮は顔を真っ赤にしながら足早に、その場から走り出す。


慌てて、花蓮の背中に追いながら茆妃は質問した。


「もしかして、お父さんとお母さんかな?」


「そうよ

父は神室家の元当主で名前は破浄

母の名前は御世

はい、家族紹介は終り!

質問はもういいでしょ?」


「そんなに素っ気なく言わなくてもいいでしょ?」


それ以降、花蓮が言葉を発することはなく、茆妃は花蓮の後を追いながら山を降りた。


そして、街に降りて最初に行った場所、それは……。


「うん、小此木屋の甘味は、噂通り最高!

美味しい~」


「あの~、幽鬼の事件に関する調査するはずだったよね?」


ホットケーキを美味しそうに食べ続ける花蓮を呆然と見つめながら茆妃は、そんな当然の疑問を投げかけた。


「もぐもぐ、そんなの後よ後

腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ?」


「まあ、確かに、そうかもしれないけど……」


「それに奢りとなれば食べない手はないわ」


「いや、ご馳走するとは……

まあ、協力してもらってるんだからご馳走するくらいは、いいのだけど……」


茆妃は諦めたように、ため息をつきながら花蓮がホットケーキを

食べ終わるのを待ち続けた。


「うん、美味しかった

やっぱり、甘いものって最高♪」


「それは何よりだわ

そろそろ、打ち合わせの方いいかな?」


「ええ、勿論よ

それで、どの辺で目撃されているとかの情報はあるの?」


「まあ、一応は

主に水辺で確認されているらしいの

詳しくは進兄様に聞かないと分からないのだけど」


「そうなんだ

なら会いにいかないと駄目?」


「直接は厳しいかな……

後で進兄様と待ち合わせする形になると思うわ」


「そう……

正直、面倒だから早々に片付けられたら会わなくてもいいでしょ?」


「まあ、確かに、そうなんだけどね」


茆妃は花蓮の言葉に苦笑しつつ、取りあえず頷く。


そして、茆妃は花蓮は目撃証言のあった日本橋付近で張り込みすることにした。


しかし、そんな都合よく現れるものだろうか?


茆妃はそんな疑問を抱きながらも夕方から張り込みを続ける。


だが、夜も暮れ周辺が真っ暗になった頃、茆妃の心配を嘲笑うように突如として異変が発生した。


「え……?

あれ、火の玉だよね?」


「そう、あれは多分、鬼火の類よ」


「鬼火って何?

人魂と違うの?」


「大差はないけど一般には人間や動物の死体から生じた霊もしくは人間の怨念が火の形を形成したものなの」


「つまり、怨念に満ちた人魂ってことね?」


「まあ、そんなところかな」


茆妃の言葉を肯定するように花蓮が頷く。


だが、その直後、周辺に一人の男性の姿が……。


「あれ、危険なんじゃ?」


「ええ、マズいかもね」


花蓮は茆妃の言葉を肯定した後、即座に走り出す。


その最中、フラフラとした足取りの男性の後方で鬼火が赤い女の姿を形成していった。


「うん、なんだ~?」


その時……。


男性が後方の気配に気付き、慌てて振り向く。


(これは危険かも)


現状に危機感を感じた花蓮が即座に式符を放った。


「行け、黒曜!」


放たれた式符は黒いカラスの姿に変わり、赤い衣服を纏った女を

貫くが、その瞬間、女は霧散して跡形もなく消える。


「ひいぃ……!?

何だ……何なんだ!!?」


その最中、男は驚いて尻もちをつきながら後ずさりした。


そして、男性がギリギリのところで窮地を脱したことに安堵し

茆妃は思わず、ため息をついたのだが……。


花蓮は険しい表情のまま、茆妃を一喝した。


「なに安心しているの?

まだ、何も終わっていないわよ」


「え……

でも、さっきカラスが赤い女をやっつけてたよね?」


「そうじゃない

あれには全く手応えがなかった

それに彼は赤い女の顔を見てしまったから再び狙われるはず」


「そう……なの

なら進兄様に保護を頼むしかないわね」


「警察に守り切れるならいいんだけどね

でも、その前に彼に詳細を聞かないと……」


そして、時は過ぎ、その翌日の昼、進と茆妃が神室神社を訪れる。


「すみません

花蓮さんはいらっしゃいますか?」


「九条さん、また来てくださったのですね

申し訳ありません

花蓮ちゃん、まだ寝てまして

今、起こしてきますから」


「あ、はい

あの、出来ればお手柔らかに……」


こうして、客室で待つこと数分後……。


前回と同じように襟元を掴まれて花蓮が、引きずられた状態で到着。


そのまま、今後の方針について話し合われることとなる。


「あ~……眠い~」


「弛んでるわよ花蓮ちゃん」


「ご、ごめんなさい……」


「まあまあ、昨日はお手数をおかけしたとのことですから

穏便にお願いします

ははは……」


花蓮を庇うように、そう言いながら進は花蓮に向けて頭を下げた。


「この前は命を助けて頂き、ありがとうございました」


「え、いや……あの

たまたま、助けることになっただけだから頭なんか下げなくても……」


突然のことに花蓮は慌てながら答える。


「どうしたのよ花蓮?

もしかして、照れてるのかな?」


「そんなわけないでしょ!

早く対策について話し合うよ、茆妃!」


茆妃の確信を突いた一言をウヤムヤにするように花蓮は無理やり、今後の対策に関する話を始めるのだった。

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