登場人物
〇主人公:神室花蓮 (かむろ・かれん)19歳。
神社の跡取りであり、強力な霊力の持ち主、陰陽術にも詳しい。
花蓮の母親は外国人に犯されて花蓮を生んでから
自暴自棄となり、神社の近くにある林で共に無理心中しようとしていたが
出来ずに自害した。
近くの神社を取り仕切っている神室夫妻に拾われて義理の娘として育てられる。
努力家でありながらクールな性格。
容姿や生まれに対する後ろめたさから
不器用な性格で本心で接することが出来ずにいる。
クールさに反して正義感が強く、邪悪な存在と対峙した際は
後先考えずに弱者をかばう気性。
外国人の血が混じっているため、容姿端麗なのだが、
外国人に対する偏見などが根強く、軽視されることもあるが
(銀髪のため不吉な存在として見られることもある)
それらの意見は幾度も実力で黙らせてきた。
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〇
茆妃の兄であるが九条家の姓を名乗らず
父親の姓を名乗っている。
茆妃の事を溺愛しているシスコン気質のある九条家三男。
長男次男たちからは九条家の恥と見下されているが妹の茆妃とは仲がよく
茆妃のよき理解者である。
茆妃の知識欲を理解しており、使わない教科書はすべて妹に与え、
半人前ながらも彼女の教師的な立場にある。
かつてはイギリスに留学していたが
警察官として働いており、茆妃と花蓮が出会うきっかけとなる事件の担当者。
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〇
進の上司にして先輩にして
叩き上げで実力ではなく、九条家のコネで飛び級昇進した
進のことを良く思っていない。
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〇
九条家長男にして政治家
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〇
九条家次男にして商業関係の会社を営む若き社長
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〇
蓮の義理の姉。強力な術の使い手にして古流武術の達人
神室家当主にして現神主でもある
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〇
花蓮の義父にして古乃破の実父。
神室家前当主にして、超一流の退魔師。
古乃破、花蓮の古流武術の師でもある。
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〇
花蓮の義母にして古乃破の実母。
破浄や古乃破を上回る超一流の退魔術の使い手で、
古乃破、花蓮の退魔術の師匠。
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科×妖・怪異事件譚
第1話
疱瘡の怪【前編】
「進兄様、おめでとうございます」
「ははは…ありがとう茆妃
でも、伝手で警察勤めになって
コネで警部補に異例の昇進をしただけだからね」
進は茆妃の言葉に苦笑しながら、何とも言えない表情で言う。
「それでもです
進兄様なら必ずや役職以上のお勤めを成されると思いますし」
黒い瞳を輝かせながらショートカットの少女、
茆妃は確信に満ちた表情で微笑む。
「流石に過大評価が過ぎるでしょ
明日が初出勤なんだからプレッシャーをかけるのは止めてほしいな……」
しかし、進の言葉などお構いなしに茆妃は続けざまに言った。
「進兄様は自己評価が低すぎます
何より清兄様や実兄様が進兄様のことを軽視なさってますけど、
私は知っていますよ
進兄様のことを」
「ありがとう……流石が我が妹だ
お陰で自信が出てきたよ」
「当然です
なんたって私は進兄様の生徒なんですから」
「うん、確かにその通りだ!
というわけで今後、何かあったら僕が助けてあげるから
遠慮しないで言ってくれよ」
「はい、進兄様」
そして、そんなやり取りをした後、茆妃は進の部屋を後にする。
(いやいや、まさか茆妃に励まされることになるとはね
兄として、これ以上は情けない姿を見せられないな)
進はそんな事を思いつつ、出勤の準備を終えた後、
自室で眠りについた。
しかし、その翌日……。
「え~、本日から警部に就任することとなりました
一色進です
皆さん、よろしくお願いします」
自己紹介を終え、初出勤となったっ進だったが、
何やら署内の雰囲気が悪い。
警察官として何の実績もなく警察官としての
経験が全くない人間が上司になったのだから
良い印象が無いのは当然の事だった。
(とはいえ、まさかここまで酷いとは……)
進は現状を周囲の重たい空気に気圧され、思わず生唾を飲む。
そして、何とか今日一日、乗り切らなければなどと思った瞬間……。
「おい、警部補殿
あんた一色って言ったか?」
「はい、そうです
えーと、それであなたは?」
「俺は近藤三郎
巡査部長だ」
(うーん、なんか難しそうな人だな~)
「近藤巡査部長
これから、よろしくお願いします」
進が握手をしようと手を差し出すと、その手を払いのけながら
三郎が言った。
「ここはボンボンの遊び場じゃねえ
実績のない奴なんて認めねえぞ、俺は!」
(うっわ~
初日から険悪ムード全開だよ)
こうして、進の初勤務は険悪な状態で始まりを迎える。
だが、本当に大変なのはここからだった。
1890年5月20日。
それは進が赴任してより約3ヶ月目のことだった。
突然、東京で天然痘が流行し、死者が続出。
東京に住む者たちは恐怖で震えあがることになった。
だが、それだけならば医者の領分ということで話が終わるのだが、
この話には続きがある。
その天然痘にかかり亡くなった者たちの墓が次々と荒らされ、
遺体が盗まれるという事件が多発したのだ。
そして、よりにもよって、この事件を受け持つことになったのが
進だったのである。
こうして、犯人逮捕のために行動を開始した進だったが
天然痘で亡くなった人間の数は甚大。
それらの確認作業を終えたところで、天然痘で亡くなった者の
墓は100や200じゃきかない。
調査は難航し、何も進展がないまま、3ヶ月の時が流れた。
そんな中、父・正治から早く事件を解決しろとの圧力がかかり、
上司からも警察の威信にかけて早く解決しろとのプレッシャーが。
進の心は、もはや限界を向かえつつあった。
そのような時、茆妃が進のことを心配して進の部屋を訪れる。
「進兄様……
最近、ご多忙のようですね」
「あ、茆妃。ははは、そうなんだよ
実は天然痘で亡くなった人の遺体が次々と盗まれているんだけど……
その犯人探しに苦戦していてさ……」
「そうだったのですね
ところで進兄様……最近、あまり眠れていないようですが?」
「あ、すまない。なに言ってるんだか僕は……
部外者の君に、こんなことを言ってしまうなんて……
すまない、忘れてくれ」
(このままだと、進兄様が身体を壊して倒れてしまうわ
私が進兄様のために、どうにかしなくては……)
茆妃はそう心に決意し、進の部屋を後にした。
そして、その日の深夜。
茆妃は進の助けとなるために、コッソリと屋敷を抜け出し、
調査を開始した。
しかし、警察が総力をあげて調査を行っても未だに手がかりが1つ掴めていない事件なのだから、そう簡単に事件に繋がる何かを掴めるはずもなく……。
何の成果もあげられないまま、ただただ、無駄に3日間の時が過ぎ去ってしまう。
(このまま、墓の監視をしていたところで何も掴めなさそうだわ
警察を同じことをしていても駄目なのかも……)
かといって何かを妙案を思いつくでもなく、ひとまず
地道に聞き込み調査を行うことにしたのだった。
その甲斐もあり墓荒らしがあった場所に住む者の1人から、
ある目撃証言を得ることに成功したのだが……。
「俺、見たんだ!
老婆の妖が墓を漁っていたんだよ!」
(お酒でも飲んでいたのかな?
こんな科学が発展している時代に妖なんて……)
とても正気の者の発言だとは思えず、茆妃は顔をしかめる。
しかし、貴重な証言であることは間違いなく、茆妃はあくまでも
噂話として聞いたということにして進に、その証言のことを伝えることにした。
「ありがとう
全く進展がないから噂だけども助かるよ」
「いえ、この程度の事しか出来ずに申し訳ありません」
こうして、情報を伝えてはみたものの進のことが心配となり、
その翌日、進に見つからないように尾行を開始したのだが……。
茆妃は衝撃を受けることになった。
(なんで進兄様が1人で調査をしているの?)
1人で調査を行っている進の姿を目にし、茆妃は胸を締め付けられるような
思いに駆られる。
正直、見るに堪えなかった。
しかし、その直後……。
「きゃあ!?」
「いったぃ~……」
家の塀の曲がり角を曲がろうとした瞬間、茆妃は誰かとぶつかり
尻もちをついた。
そして、顔を上げると、そこには銀髪の女性の顔が……。
外国人かしら?
一瞬そんなことを思った茆妃だったが、よく見れば衣服は神職者が纏う、それ……。
いわゆる巫女服だということに気付き、茆妃の頭の中が混乱する。
端正な顔立ちで、絶世の美女といった感じなのに彼女の銀髪と衣服があまりにも
ミスマッチし過ぎていて、もう訳が分からなくなっていた。
そんな時、その女性が少し怒り気味な口調で、茆妃に向けて言う。
「ちゃんと前を見て歩いて!
危ないでしょ?」
「ご、ごめんなさい
確かに私の不注意だったわ」
勢いに押され思わず、謝ってしまった茆妃だったが、
その直後、それがお互い様だったということに気付き、急激に怒りが込み上げてくる。
何より彼女とぶつかったことで進のことを見失ってしまったのだから
もはや、その怒りを押さえようがなかった。
「ちょっと!それはお互い様でしょ!?
あなたのお陰で、見失ってしまったじゃないの!」
「それは此方のセリフよ!
私だって怪しい気配を追って、ここまで来たのにアンタとぶつかって
見失ってしまったわ!」
「え……?
どういうこと?」
銀髪の女性の言葉を聞き、茆妃は思わず問い返す。
「ふ~。まあ、素人のアンタにこんなことを言っても
分からないでしょうけど私が追っているのは天然痘をバラ撒いている元凶
を追っていたの」
「え、妖?? 元凶ってなに言ってるの?
天然痘って病なんだから誰かがバラ撒くとか、そんなことできるわけないでしょ?」
茆妃がキョトンとした表情で聞き返した直後、
銀髪の女性・花蓮は不敵に微笑みながら言った。
「それができるのよ
だって犯人は妖なんだから」