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第50話

閉まった扉の方へゆっくりと後ずさる沈栄仁から視線を外さず、洛大覚はゆったりと寝台へ腰かけた。

じりじりと下がる沈栄仁を、口元には愉快そうに、でもとても冷めた瞳で洛大覚は睨み続ける。

そんな洛大覚から逃れようとして、ドンと扉にその背がぶつかった沈栄仁は後ろ手で扉の取っ手を探った。

「・・・妖王。本日の客人は、一体どなただったんですか?」

「なぜそんなことを聞く?藍鬼。」

「それは仙界の宝器。おいそれと持ち出せるものではありませんので。」

なんとか退路を確保しようと時間稼ぎをする沈栄仁に、低く嗤った洛大覚は、ぽんっと金聯を沈栄仁に投げてよこした。

天帝の持ち物を投げられて、さすがに落とすわけにはいかない沈栄仁は、それを両手で受け止める。

次の瞬間、洛大覚はわずかに手を振り、沈栄仁の腹部に思いきり妖力の塊をぶつけた。

「っ!」

なんとか金聯を落とさず、その手にしっかりと抱えた沈栄仁は、そのままその場に片膝をつく。

「忠義者だな、藍鬼。さすがは仙界の宗主。天帝が何より大切らしい。」

「・・・仰っている意味がよく・・・」

口の中に血が上がってきたのを感じた沈栄仁は、それを吐き出さないよう何とか耐えた。

「それはお前に返そう、藍鬼。いや、天清沈派の沈栄仁。」

(ああ、やはり・・・)

洛大覚に金聯を見せられた時から、自分の正体がバレていることを覚悟していた沈栄仁は、同時にこれを持ってきた相手に見当がついてしまい、ぐっと悔しそうに奥歯を噛みしめた。

「・・・仕返しとは、くだらない・・・」

「何か言ったか?」

いつの間にか蹲る沈栄仁の側に来ていた洛大覚は、沈栄仁の前髪をぐっと掴むと、強引にその上体を持ち上げた。

「沈栄仁。今まで俺をだましていたことへの申し開きはあるか?」

「・・・どうせ、全て聞いたのでしょう?その客人の話の通りですよ。」

「いい度胸だ。」

こめかみに青筋を立てた洛大覚は、沈栄仁の頭をそのまま床に打ち付けた。

「うっ・・・」

どこか切れたのか、沈栄仁の頭から一筋、血が顔へ向かって流れてくる。

「お前の弟は本当に可愛いな。どう可愛がってやろうかと考えるだけで楽しくなってくる。今からここへ閉じ込めるのが楽しみだ。」

「あの子に手を出したら、誰であろうと殺します。」

頭から血を流してもなお気丈に言い返す沈栄仁に、洛大覚は再度「いい度胸だ。」と大声で笑い始める。

そして、もう一度沈栄仁の頭を床に叩きつけた。

「寒軒はどこまで知っている?あいつも裏切り者なのか?」

「寒軒は、何も知りません・・・」

会話中、一言話すたびに床に叩きつけられた沈栄仁は、頭への強い衝撃で気が遠くなりそうになりながらも、血が出るほど強く下唇を噛むことで、気を失うのと声をもらすことを必死で堪えた。

「白々しい。いや、ふてぶてしいと言うべきか?仙人は本当に可愛げがない。この前寒軒が連れて来た奴らも、さっきの男も、最後までひどく抵抗していたな。まぁ、その分、堕ちていくさまが愉快といえばそうなんだが。」

「・・・さっきの男とは?一体誰なんです?」

洛大覚に仙人を献上したともなれば、さすがにそれが誰であれ、その罪は重い。

(わざわざ献上したくらいだから、おそらく価値がある人物のはず。いくらこの男でも、いつもと違い一回で殺しはしない。相手が自害しない限りは・・・)

一か月前、夏炎輝達がここへ攻め込んだ際、捕まえた何人かのうちの一人は早々に自害した。

そのせいで、後に残った人間が、これ以上ない責め苦を味あわされて殺されていったのを見ているしか出来なかった沈栄仁は、洛大覚という人物は相手が価値のあるものであれば、一度の行為では殺さないと踏んでいる。

「ああ、この前の赤髪の一人だ。15だと客人が言っていたか。愛らしい顔に似合わず、ずいぶんと威勢が良かったが、痛めつけて無理やり突っこんでやったら大人しくなった。ただ、あんまり「痛い、痛い」とうるさかったから、今、慣れさせるために他の奴らに貸してやっている。一度に十人以上相手にしてるんだ。さすがにもう慣れた頃か?兄のせいでこんな目に遭うなんて可哀そうに。」

「お前!まさか、蒼摩様を?!」

クククっと卑しく思い出し笑いをする洛大覚に、大事な人の弟を汚されたと知った沈栄仁は、いつもの冷静さを失って激昂する。

怒りに任せて、髪を掴まれたままにも関わらず、右手で剣を抜くと、洛大覚めがけて切りかかった。

しかし、何度も痛めつけられた身体は、もうほんのわずかしか力が残っておらず、その剣を持つ手を易々と洛大覚に捕まれ、そのまま思いきりへし折られる。

ボキンっという鈍い音とひどい痛みに、沈栄仁は奥歯を噛みしめると、声を上げずに何とか耐えた。

剣がカランと音を立てて落ち、沈栄仁の身体も崩れ落ちる。

「・・・お前も我慢強いな。」

「蒼摩様を、仙界へ帰してください、妖王。もしも、彼を殺せば、華南夏派が黙っていません。特に、宗主の夏炎輝は、絶対に、貴方を許さない。」

自分の大切な道侶の性格を良く分かっている沈栄仁は、顔だけ上げて洛大覚を睨みつけると、脅す様に低い声を出した。

「あの小僧に何ができる。ああ、それとも、お前の命で償うか?天清沈派の沈栄仁。仙界一の美貌と実力を持つと言われるお前がここで死ぬのなら、あのガキは仙界へ帰してやる。」

「・・・それは、本気ですか?妖王。」

「仮面を外して本当の顔を見せろ。お前が本当に評判通りなのであれば、これ以上、赤髪のガキとお前の弟には手を出さないでおいてやる・・・さぁ、どうする?」

「・・・仰せのままに。」

沈栄仁は、身体を引きずってなんとかその場に座ると、覚悟を決めて仮面を外した。

初めに見せたあの醜い姿からは想像もつかないほどの清らかな美貌が顕わになり、いつもは年若い者にしか興味を示さない洛大覚ですら、そのあまりの美しさに小さく息を呑む。

一切の抵抗を止め、大人しく目を閉じた沈栄仁をまじまじと見つめた洛大覚は、好色そうな笑みを浮かべるとその身体へと手を伸ばした。

「仙界一の美貌。噂に違わず、本当に美しいな。」

「っ?!」

てっきり高級食材扱いされると思っていた沈栄仁は、洛大覚の生温かい手の感触を首筋に感じ、背筋が一気に寒くなるのを感じた。

「・・・ご冗談を、妖王。私はもう20を超えています。貴方は、私に興味なんて・・・」

それまで何があっても気丈にふるまっていた沈栄仁の目に、初めてくっきりと恐怖が浮かぶ。

その怯えた表情に、愉しくなった洛大覚はその場に沈栄仁を押し倒した。

抵抗しようとした沈栄仁だったが、洛大覚に沈楽清と夏蒼摩の名前を出され、その動きをぴたりと止める。

「そんなに弟が大切なのか?確かに可愛いが、お前ほど価値があるとは思えないが?」

そんな沈栄仁をせせら笑いながら、洛大覚はその唇を奪う。

(気持ち悪い・・・でも、蒼摩様・・・阿清・・・)

唇を離した洛大覚はニヤニヤと笑いながら、自分を睨む沈栄仁の頬を思いきり引っ叩いた。

沈栄仁の白い頬が、あっという間に真っ赤に染まり、鋭い爪で切れたのか一筋血が流れ落ちていく。

それをベロリと舐めた洛大覚は「・・・やっぱりまずいか」とぺっと唾と共に吐き出した。

「確かにお前になど、本当は興味はない・・・ただ、あの生意気な赤髪の宗主には興味がある。道侶のお前が死んだら、あの男はどうなるんだろうな。」

「私は、彼の道侶ではありません。」

式を挙げる直前に妖界へ来た沈栄仁からすれば、この発言は決して嘘ではない。

しかし、沈栄仁が嘘をついていると思いこんだ洛大覚はクックックと笑い始め、もう一度、今度は拳で彼の顔を殴りつけた。

「どっちでもいい。どうせ身体の関係はあるんだろう?」

「・・・あなたに関係がありますか?」

感情を込めない冷めた目で洛大覚を見る沈栄仁の身体を、洛大覚は服越しに無遠慮にまさぐった。

「んっ・・・」

「ありそうだな。さっきのガキとはずいぶん反応が違う。」

敏感な部分を執拗に触られ、ビクンと身体が跳ねた沈栄仁を見た洛大覚は、ますますニタニタ笑うと、今度は沈栄仁の腹部を思いきり殴った。

「ぐぅっ」

妖力を込めた一撃で、今度は口から血をゴホッと吐いた沈栄仁は、そのまま左手でお腹を押さえて、何度も咳き込んだ。

「なぁ、藍鬼。大事なお前が汚され殺されたと知ったら、あの男はどうするだろうな?」

「・・・華南夏派の宗主が、その程度の事に動じるとでも?」

満身創痍でありながら、なおも洛大覚に歯向かおうとする沈栄仁に、洛大覚は満足げに笑う。

「本当に大した男だな。安心しろ。お前のその美しさに免じて、そして今までお前が仕えてくれた礼として、あの男がお前の身体を検めた時に、俺に何をされたかよくわかるよう、どこも喰わずに、出来るだけ五体満足で返してやる。」

そう笑いながら沈栄仁の服に手をかけたことで、洛大覚が本気であると悟った沈栄仁は、それ以上強がることが出来なくなり、何とか洛大覚から逃れようともがき始めた。

そんな沈栄仁の上に、馬乗りになった洛大覚は、愉快そうに笑いながら彼の無事な左手を押さえつける。

(炎輝、ごめんなさい・・・でも、辱めを受けるくらいなら・・・)

「おっと。」

舌を噛み切ろうとした沈栄仁を思いきり殴った洛大覚は、その抵抗が緩んだ口の中に、近くにあった布を押し込んで彼が自害するのを防いだ。

「この前、遊んでいる最中に、一人舌を噛んだからな。お前たちはそう教えられているのか?」

死ぬのを阻まれても、なお片手で激しく抵抗を続ける沈栄仁を、洛大覚は笑いながら何度も殴りつけた。

「せっかくの美しい顔が台無しだな。お前の顔は、寒軒の次に好きだったんだが。」

何度も何度も殴られたせいで、沈栄仁の顔や身体があっと言う間に赤黒く腫れあがる。

しかし、その間も沈栄仁は呻き声一つ上げず、わずかに残る力でなお抵抗し続けた。

もともと残虐な性格をしている洛大覚は、いつまでも心が折れない沈栄仁をいたぶるのがすっかり楽しくなってしまい、今度は沈栄仁の左腕を力任せにへし折った。

「っ!!」

「まだ声を出さないか。ああ、そういえば、お前の寒軒は、最後はこれでいつも泣いて懇願していたな・・・お前はどうだ?」

懐から剣を取り出した洛大覚は、自分の小刀で沈栄仁の右足を、沈栄仁の剣で左足を突き刺し、その場に縫い留める。

あまりの痛みに失神しそうになりながらも、沈栄仁は洛大覚を睨み続けた。

「まぁ、そう睨むな。ちゃんと約束は守ってやる。」

洛大覚はゆっくりと服を脱ぐと、痛みで苦しそうに呻く沈栄仁の服を乱暴に引きちぎるように脱がしていく。

ひんやりとした空気を肌に直接感じ、沈栄仁の身体はこれから起こることへのあまりの恐怖から小刻みに震え出した。

(嫌だ・・・助けて、炎輝・・・)

もう抵抗することが出来なくなった沈栄仁は、最愛の人の姿を思い浮かべながら、せめてその目から涙をこぼさないようにと、ぎゅっとその目をきつく閉じた。

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