目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第9話

全てを淡々と感情を込めずに話し終えた沈楽清の隣で、玄肖は両手で顔を覆うと大きなため息をついた。

「・・・ごめん。やっぱり信じられないよね・・・」

申し訳なさそうに謝る沈楽清に首を横に振った玄肖は絞り出すような声を出す。

「・・・逆やで、宗主。」

「逆?」

「あんたのその説明であれば矛盾はありません。彼らの行動も理にかなっとります。陸承があんたを殺して宗主の地位を手に入れようとする理由も、その上であんたにすることも、洛寒軒の殺し方も・・・彼なら確かにそうするやろな。」

「陸承と洛寒軒が、俺にあんなことをするのが『理にかなう』の?あんなひどいことをするのに理にかなっているってどういう事?」

「宗主。この仙界には道侶ゆうものがあります。仙人同士が生涯ともに修行をするゆう意味やけど、その中には双修も含まれます。」

「双修?」

「異性か同姓かは置いておいて、『男女の交わり』と言えばわかりますか?まぁ、仙人同士は子は成せないので、やっていることはお互いの気の交換やけど。」

あまりに純粋な目で自分を見つめる沈楽清に、そう口にして少し気まずげに視線をそらした玄肖の横で、少し経ってようやくその意味が分かった沈楽清は顔を真っ赤にしてコクコクと首振り人形のように何度も頷いた。

「その上で役割。具体的には・・・」

「ごめん!双修の説明は割愛でいいから!結論だけ教えて!・・・あんまり、そういう話、得意じゃないんだ・・・子供っぽくてごめん・・・」

真っ赤になった顔を両手で覆った沈楽清に、ブフッと盛大に吹き出した玄肖はお腹を抱えて笑い始める。

「くっくっく・・あ、あかん。ちょっと待って。あんた、18の男やろ。ふっ・・ふふっ、こんな説明で、そんなん・・・フフフッ」

「仕方ないだろ!苦手なものは苦手なんだよ!」

「う、うん。フフッ、わ、わかった。ごめんて。ハハッ、ほんまに・・・」

顔をゆでだこのように赤くしてむくれる沈楽清に対して、ひとしきり笑い終えて涙を拭った玄肖は、はぁと息を大きく吐くと真顔になり話を戻した。

「陸承と宗主の場合、おのずと陸承が夫になるやろな。あいつの方が年上やし、体格や性格全て考慮するとおそらくな。双修をした後は夫側は妻側を自由にできるんや。この説明で、陸承があんたにすることの意味がわかってもらえるか?」

「・・・何をしても、たとえ命を奪っても許されるって解釈で合ってる?」

「正解や。本来は道侶殺しなんてありえへん話やけど、逆手に取ると誰も行為に口を出されへんゆう意味ではそれも可能になる。今なら自由に口を出せる夏宗主も、双修の後ならもう口を出されへん。」

(すごいな、話が後宮ドラマの話みたいになってる・・・)

従姉の母親と従姉がはまって見ていたドラマで、後宮の女たちが王様の寵愛を得ようと互いに騙し合うドラマを思い出した沈楽清は、その中で、王が命令するとすぐに女が消されていたなぁと思い、自身がその扱いをされそうになっていることに、引きつった笑いを浮かべた。

「ほんで、洛寒軒。あいつのそれは・・・拷問行為の一つやな。」

何かを思い出したように、少し遠い目をした玄肖に、その言葉に驚きを隠せない沈楽清はくってかかる。

「拷問?殴る蹴るならともかく、あんな行為が拷問?!」

「そういう環境で育ったんや。しゃあない。普段はそんなことはせんけど、あんたは天清神仙。興味がわいたんやろな。あんたがどんなもんか。」

「・・・玄肖は、妖王のこと、ずいぶん詳しいんだね。」

「前宗主が間者として妖界に潜った5年間。その報告を受けて仙界へ伝えとったのは私ですから。」

玄肖の説明に少し違和感を覚えながらも、とりあえず自分がなぜ彼らにひどい目に遭わされるのかがようやく分かった沈楽清は小さく頷いた。

「ねぇ、玄肖。もし彼らが来た場合、玄肖と俺で対抗できるの?」

「無理です。」

きっぱりと言いきった玄肖に沈楽清は目を白黒させる。

自分が無理というのはわかるが、この鬼みたいに強い男でも無理だとは。

「正確には、陸承であれば私一人で余裕です。ただ洛寒軒。かの妖王を一人で倒せるのは天帝くらいやろ。なにせ彼は仙界で一、二を争う武人やった前宗主を瞬殺した男やから。」

「そんなに強いの!?」

(ちくしょう、美玲姉!闇の属性ばっかり高くするんじゃない!)

妖界びいきの原作者に心の中で文句を言いつつ、話をしている感じでは、どうも玄肖が自分を信じてくれたらしいと沈楽清は少しほっとした。

誰からも信じてもらえないうちに死んでいくのは嫌だし、何よりこれからが怖すぎる。

「俺、あんな目に遭って死にたくない。助かるにはどうしたらいいかなぁ?返り討ちに出来ないとすると、もうあの二人が出会って仲良くなるのを止めるくらいしか・・・」

「そうやね。それが一番手っ取り早そうや。」

「ただ、どこで会うのかは分からないんだよね。書いてあったのは、清明節の夜に、陸承が洛寒軒を人を使って襲わせて、わざと自分が助けるって・・・」

腕を組んでうんうん唸る沈楽清にきょとんとした様子の玄肖が尋ねる。

「ん?ちょっと待って?清明節?そらほんまですか?」

「うん。」

「今日です。」

「は?」

「今日ですよ、清明節は!」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?