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第7話

急に気を失った沈楽清を慌てて抱きかかえると、その身体を玄肖の誘導で寝室に運んだ夏炎輝は、顔色が蒼白になった沈楽清をぼんやりと見つめたまま、同じくらい青い顔をしている玄肖の肩を軽くゆすった。

「玄肖、しっかりしろ!お前までそんな顔をしてどうする。」

「あ・・・すんません。夏宗主。ここのところずっと宗主が元気やったんで、つい身体が弱いことを失念しとったんや。それでついめっちゃ修行をさせてしまっていて、そやから・・・」

「そうだとしても、それは阿清が望んでやっていたんだろう?お前のせいではない。」

「ありがとうございます。」

力強く励ます夏炎輝にわずかな笑みを浮かべた玄肖は、沈楽清が寝ている寝台に浅く腰かけると寝やすいようにと沈楽清から剣や装飾品を一つ一つ丁寧に外していく。

最後に頭の冠を取ると、その豊かな鳶色の髪がばさりと広がった。

少しだけその頭を起こして髪を整えると、そっとその場に再び優しく寝かせる。

「・・・玄肖。正直に教えてくれ。」

「何やねん?夏宗主。そんな改まって。」

真剣な夏炎輝の睨むような表情に少し気圧された玄肖はごくりと小さく唾を飲み込む。

何を夏炎輝から言われるのかと、少しの顔をそらして目を伏せた玄肖に夏炎輝は重々しく口を開いた。

「お前と阿清は付き合っているのか?」

「はぁあ?一体何をどないしたら、そんな突拍子もないことを?!」

「いや、あまりにも仲がいいから、そうなのかと・・・」

すまない、と極まりが悪そうに頬を掻く夏炎輝に、大きなため息をついた玄肖は彼をたしなめ始める。

「貴方の目に、私がそんな邪な心で宗主に近づく愚か者に映っとったなんて嘆かわしい限りやで、夏宗主。それとも5年前に東嬴から来た私を、あんたが取り立てた理由は陸承から宗主を奪うためだとでも?貴方が陸承を嫌ぉてるんは知っとりますが、私を巻き込まんとってください。今は前宗主が死んで内部がごたごたしとる上に、現宗主は身体が弱くて宗主の仕事ができへん。確かに今は毎日一緒におるが、そら宗主が一か月前に倒れとったからや。もう少しして、もう大丈夫と判断したら、私は元の仕事に戻ります。」

「・・・お前たちは、阿清をまた、こんな寂しい場所でたった一人にするのか?なぜ玄冬宮で一緒に暮らさない。しかも、もう18になるんだ。そろそろ陸承との道侶の件も正式にしなくてはいけないだろう?・・・ただ、正直あいつでは阿清を幸せにできると思えないけれどな。」

「陸承との件は、もう少し先でええかと。幸いにして、彼は宗主に興味がないようやし。」

「そんなことはない!あいつが、阿清が12の時にここで何をしようとしたと思う?私が来たから良かったようなものの、そうでなければ!」

「・・・それやったらそれで、ずっと一人にならんと済んだのかもしれませんが?」

「玄肖!」

どこか冷めた目をして淡々と話す玄肖の肩をぐっと掴むと、夏炎輝は彼の身体を自分の方に向かせる。

「玄肖、お前も分かっているはず!今の阿清ならば梦幻宮に出仕させてもいいだろう?確かに以前は身体も気も弱くて、すぐに熱を出すし、栄仁と私以外には一切懐かない子だった。でも、今はいつの間にかお前に懐いているし、少しの間お前たちの修行を見ていたが、剣技も体術も素晴らしかった。もともと仙術は誰よりも秀でていたし、阿清は十分栄仁の代わりが務まるだろう?最初から陸承が宗主代理をしていることに納得がいっていない者は多い。栄仁が残した天清沈派のためにも、本来の宗主にその責を負ってもらった方がいい。私も必ず力になるから!」

「・・・夏宗主、お心遣い感謝します。やけど、それは当家の問題です。どうかそれ以上は。それに貴方こそきちんと奥方に迎えなくてはいけないのでは?・・・栄仁様は・・・もう二度と戻らんのやから。」

「貴様っ!」

「う・・・」

夏炎輝が玄肖の服をつかんだ瞬間、タイミングよく小さな声を漏らした沈楽清に気づき、それまで険悪な雰囲気だった2人は言い争いを辞めると沈楽清の側に近寄る。

「宗主!」

「阿清!」

「ん・・・?ごめん、俺また倒れたの?本当にごめんなさい。身体が弱いから、玄肖に毎日迷惑をかけちゃって。炎輝兄様もごめんなさい。せっかく来てもらったのに。」

弱弱しい声を出しながら、しゅんと落ち込む沈楽清に、夏炎輝は微笑むとその頭を優しく撫でた。

「いいんだ、阿清。少しの間留守にするから、その前にお前の顔を見に来ただけだ。」

「・・・また来てくれますか?」

「もちろんだ。」

沈楽清は控えめにふわりと微笑むと安心したようにその目を閉じた。

再び眠ってしまった沈楽清を見て、フッと笑った夏炎輝は立ち上がると、部屋から出ていく。

「一か月ほど戻らない予定だ。玄肖、あとは頼んだぞ。」

「はい、夏宗主。」

深々と一礼して夏炎輝を見送った玄肖は、彼の姿が見えなくなったところで、寝たふりをしている沈楽清の鼻をむぎゅっと掴んだ。

「助け船をありがとうございました。思ったより策士やったんやね、あんた。いつから気がついとってん?」

「しゃいしょからひゃよ!ぷはっ、玄肖。それにしても、あの言葉は禁句だろ?死んでからまだ半年しか経ってない恋人を忘れてさっさと妻を娶れって鬼じゃないか。こっちでは一生独身貫く人も少なくないぞ?」

「あんたの世界ではそうかもしれませんが、こちらではそういう訳にもいかないねん。天帝と違ぉて仙人は老けんし長寿やけど不老不死やない。そやから天帝をお守りするために次代を残さなあかんのや。ましてや彼は最も権威ある華南夏派の宗主。年齢ももう27やし、本来であればもう何人も子どもがいてもおかしくないのに。」

「それだけ栄仁兄様が好きだったんだろ?」

「・・・そうやね。ええ加減にしてもらいたいもんやね。」

自分との関係を邪推されたことによほど腹が立ったのか、胸の辺りを握りしめ、いつもより顔が険しく物言いも辛辣な玄肖に、お茶でも入れてこようと沈楽清は起き上がる。

「お茶淹れてくるよ、待ってて。」

「いえ、宗主。それなら私が・・・」

「ちょっと冷静になりなよ。今、自分がどんな顔してるか鏡でも見てきたら?」

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