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第107話 激おこお兄ちゃんズ


 湊の発言を聞いて涙が溢れた尚弥。掌にポタポタ落ちてゆく涙を見て『何これ····』と戸惑う。

 尚弥の涙に驚いた秋紘は、わたわたと慌てて声を掛ける。


「うぇっ!? ナオ? どした?」

「······はは。湊はさ、初めて会った時から変わんないね」


 尚弥は袖で涙を拭った。そして、キョトンとしている3人に、湊と出会った時の話をする。



 尚弥と湊が出会ったのはオーディションの日だった。強引な姉に引きずられて会場へ放り込まれた尚弥は、はちゃめちゃに緊張している湊の隣で無気力なまま座っていた。

 ザワつく会場の雰囲気に耐えきれず、だんだん縮こまっていく尚弥。ついにはパイプ椅子の上で膝を抱えた尚弥へ、湊は震える声で話し掛けた。


「あの、えっと、もしかして、どっかしんどい?」

「····ううん、大丈夫」

「そっか、よかった! 元気なかったみたいだし、丸まっちゃったから体調悪いのかと思って」


 息が詰まるほど緊張しているにも拘わらず、尚弥を心配していた湊。その時に見せた湊の笑顔が、心を閉ざしていた尚弥にはとても眩しく見えた。


 当時、誰の言葉も疎ましく耳に入らなかった尚弥には、既に湊がアイドルとしての輝きを放っているように思えた。そして、その背中を少しだけ追いたいと感じさせていたのだ。

 だから、今自分がここに居続けられているのは、湊のおかげなのだという。


 あの頃と変わらず、湊は自分よりも他人を案じてしまうお人好しのまま。それこそが尚弥の心を開いた湊の姿なのだと、尚弥は語った。



「で、アキくんはボクの為に何してくれるの?」


 スッキリした顔で、いつもの悪態が戻った尚弥。床にしゃがみ込んでいる秋紘を見下ろし、高圧的に言い放った。


「オレぇ? オレつったらアレしかないでしょ」


 したり顔で言う秋紘。レッスンが終わると、ヘトヘトの3人を連れ、いざゲリラ生配信をと事務所へ向かった。



「はーいやっほ~。今日はこの後、サルバテラ全員集合しまーす」


 騒動後、一発目の配信とあって視聴者数はグングン伸びた。ある程度人が集まるまで、夕陽とくだらない話題で時間を潰す刹那。視聴者数が5000千人を超えたところで、いよいよ本題に入る。

 刹那は蒼と雪を呼び、何故だか2人を抱き寄せて膝に座らせた。蒼は夕陽に、雪は刹那に、力尽くで捕まえられて逃げられない。

 普段は見せない絡み方に、コメント欄は絶叫で埋め尽くされた。


「ちょっと、何これ刹那」


 打ち合わせになかった出来事にキレる雪。刹那の企みだと確信して、小さな肘打ちを食らわせ続ける。

 夕陽が『まぁまぁ』と雪を宥め、刹那が雪の肘を捕まえて説明を始めた。


「こないださ、うちの蒼と雪が話題になってたじゃん? オレ、めっちゃ怒ってんだよね~」

「うん、同感だね」


 いつも通りの笑顔に見える2人だが、その雰囲気は夜叉とでも呼ぶべき恐ろしいものだ。


「モラルっつぅかさ、愛がないよねぇ」

「そうだね。刹那は愛のない事には沸点激低即おこマシーンだからね」

「そうなんだけど何それ。つか、もしかして実は夕陽のほうがキレてたりして?」

「どうだろうね。でも、蒼と雪がこれまでの生活を送れなくなってたら、それは許せないなぁ」


 笑顔の裏にある威圧感が凄まじく、蒼と雪は口を挟めないでいた。

 呆然とする2人に構わず、刹那と夕陽はこの件に関して言及してゆく。第一に、蒼と雪の私生活を曝け出すなという事。芸能人であれどプライバシーがあるのだと主張する。


「蒼と雪は、オレらと違って本名も学校も公開してないっしょ」

「してないって事は、何かしら理由があるんだよ」

「そっ。活動とプライベートきっちり分けてたり、学校の事情だったりとかね」

「理由はそれぞれだけど、それは個人の自由であり権利なんだ。皆なら分かってくれるよね?」


 コメント欄がお利口な返事で埋まる。それに対し、刹那はご褒美と称してウインクやら投げキッスを惜しみなく送った。


「さて、次だけど」

「コレ超重要事項ね」


 その前に、いい加減離せと雪が刹那の膝から降りる。蒼は、夕陽に降ろしてもらい隣へ腰掛けた。そうして、話が再開される。


「今後、今公開されてない俺たちのプロフィールが無断で晒されたら」

「オレら、容赦しないぞ♡」


 刹那と夕陽は、揃ってウインクを飛ばした。良い子の返事と歓声がコメント欄に飛び交う。

 2人の圧に、雪は思わず『アイドルとしてどうなの?』と苦言を呈した。


「えー? こういうオレらもカッコ良くない?」


 カメラ目線で首を傾げ、自分が一番良く見える角度をお届けする刹那。同意のコメントが追いきれないほど駆け抜けていく。

 刹那と夕陽はクールでカッコイイをコンセプトにしているので、ファンはお怒りモードの2人にトキメくばかり。この流れについては夕陽が配信直前、念のため社長から許可をとっていたので問題はない。だが、それを知らない蒼と雪は肝を冷やしていたのだった。


 夕陽は、蒼と雪に言いたい事はないかと尋ねる。すると、蒼が名乗りを上げた。


「僕たちがアイドルとして皆とずーっと居られるように、思い遣りを大事にしてね。それと、雪が困るようなことがあったら、僕も黙ってないからね」


 ニコッと微笑んで締めくくった蒼。涙さんとムーンベルからの投げ銭が火を噴く。


「あ、またこの2人やってるよ。蒼ったらモッテモテ~」


 金額と勢いに驚く夕陽と雪を他所に、慣れた様子でケラケラと笑う刹那。呆れた蒼は乾いた笑いでやり過ごす。

 雰囲気が和らいだところで、刹那1人が賑やかしい、いつも通りの配信内容へと切り替わる。


 配信が終わると、湊と尚弥は2人に礼を言った。なんてことないと返す2人だが、おかげで例の話題からはファンが守ってくれる流れになったのだ。それだけでも、非常に心強い事だった。

 尚弥は改めて湊にも礼を言う。湊は、照れくさそうに『僕たち、イイ仲間だね』と言って、満面の笑みを見せた。



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