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第106話 友達の為に


 校長室へノックもなしに入る煉。立派な椅子に座り侵入者を睨みつけるのは、校長である鈴だ。


「あら、月宮くん。ノックってご存じ?」

「わりぃな。知らねぇ」


 煉の態度に顔を顰める鈴。だが、口調は冷静なまま用件を聞く。


「湊の正体がバレた。けど、学園内で騒ぎは起こさせねぇから見逃してくれ」


 あまりにも堂々とした態度で、平然と言ってのける煉に、開いた口がふさがらない鈴。なんとか叱責の言葉をのみ込み事情を聴く。


「パパラッチってやつね。下衆くて嫌いだわ」

「でよぅ、ひとつ提案なんだけど」


 ポケットに手を突っ込んだままドサッと机に座り、傍若無人ぶりを前面に出す煉。目の前へ座った煉に、鈴の眉がピクンと上がる。引き攣った笑顔で『聞くだけ聞いてあげるわ』と余裕なフリをする。

 怒りを抑える鈴へ煉が持ち出した提案とは、学園で生徒を保護するというもの。


「そもそも、俺だけ例外であれこれ活動してる時点で校則もクソもねぇだろ」

「それに関して、私は許可出した覚えなんてないわよ。アンタが勝手に無法地帯作ってるだけでしょうが」

「黙認してたんだから同罪だろ。だいたい、生徒からバイト許可しろって声どんだけ出てると思ってんの、校長センセ? ま、俺もプライベートなくなってて怠かったんだよ。つぅうコトで、学園として生徒を守る義務ってあるよな? 姉さん♡」


 煉は、鈴の顎を指で持ち上げ、真正面でウインクをして誑かした。


「っきぃぃ! 姉の純情を弄ぶんじゃないわよまったく! なんっでこんなイケメンに生まれたのかしら!」


 煉は、喚き散らす鈴に見えぬよう、顔を逸らしてベッと舌を出して悪態をつく。

 湊と挨拶へ訪れた時とは違い、鈴の弱い所を突いて我儘な弟を演じ、上手く甘えて見せた煉。鈴は、まんまと煉の思惑にハマってしまった。


(湊並みにチョロっつぅの)


 湊を守る為なら、不本意に甘える事さえ厭わない煉。なりふりなど構っていられないのだ。

 そうとも知らず、空き部屋で煉と合流した湊は、鈴との話はついたという報告を受けた。頼りになる煉を尊敬の眼差しで見つめる湊。だが、樹と仁は疑いの眼差しを向けている。


「そんで? 一旦誤魔化せたけど、これからどうすんの? ドラマも雑誌も大盛り上がりのお2人さん」


 仁が嫌味っぽく言う。鈴の対応次第だが、当面は上手くやり過ごすしかないだろうと煉が答えた。


「そうだ····僕、お姉さんに謝りに行かなくちゃ」


 約束を破ってしまい、少なからず学園を騒がせてしまった。罪悪感を感じている湊は、煉にアポを取るよう頼んだ。


(アレの後で会いづれぇな····)


 内心、極力鈴を避けようと目論んでいた煉は、真実を話す事もできず承諾してしまった。真面目な湊の純真さを、無下にすることができなかったのだ。

 煉は大きな溜め息を吐き、鈴へメッセージを送った。煉への怒りに満ちた返信をするも、湊の申し出は受け入れた鈴。後日、場を改め月宮家で謝罪と今後について話し合った。



 騒動から数日、サルバテラのメンバーはレッスンスタジオに集まっていた。


「湊、ナオ、大変だったね」


 2人を心配していた綾斗が、ここ数日の心労を労う。そして、レッスンが始まる前に、2人の状況について把握しておきたいと話を聴く。


 湊は、学園が保護する方針ですすんでいると説明した。尚弥は、学校を休んでいるという。


「もともと学校なんて行きたいわけでもなかったし、行かなければ騒がれもしないでしょ」


 淡々と心情を漏らす尚弥。それを聞いた秋紘は、尚弥の頬を人差し指で挟みグリグリとこねくり回す。そして、ぐいっと無理やり顔を上げさせた。


「にゃ、にゃにすんにょ····」

「ナオさぁ、なんでオレらのコト頼んないの?」

「は?」

「あぁ~悲し。オレ超絶悲しぃぃぃ」


 暴れて抵抗する尚弥を、座っていた一人掛けのソファに押さえつけた秋紘。尚弥が自分たちを頼ってくれなかったことを執拗く嘆き、ウンザリする尚弥へ『オレたち一心同体じゃん』とウインクを飛ばした。

 身震いした尚弥は、渾身の前蹴りを秋紘のみぞおちへ見舞う。


 尚弥から手を離して蹲る秋紘。尚弥は、学校の違う秋紘たちに何ができるのかと問う。実は、もともと不登校気味だった尚弥。特別仲の良い友達もおらず、学校へ行く意義を見出せないでいた。

 尚弥とは真逆の陽キャ丸出しな姉が勝手にアイドルオーディションへ履歴書を送り、面白がった社長が採用した結果、不本意にアイドル活動をしているという経緯がある。そんな尚弥だが、湊と綾斗に出会い、少しずつ色々な事へ前向きな考えを持てるようになっていた。

 今回の騒動は、それをぶち壊してしまうものだった。何事にもやる気の起きない、沈んだ尚弥が顔を覗かせているのだ。


 けれど、それを救うのはやはり湊だった。


「僕がナオくんの学校に行くよ!」


 湊の突拍子もない発言に『へ?』と声を揃える3人。


「僕がナオくんの友達だって言う。サルバテラのメンバーじゃない、ただの友達だって。だから、ナオくんを困らせないでってお願いする」


(なんかあれだなー····湊の言動、煉っぽくなってきてんのよな~)


 別の心配をする秋紘だったが、それよりも泣き出してしまった尚弥に驚いた。



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