校長室へノックもなしに入る煉。立派な椅子に座り侵入者を睨みつけるのは、校長である鈴だ。
「あら、月宮くん。ノックってご存じ?」
「わりぃな。知らねぇ」
煉の態度に顔を顰める鈴。だが、口調は冷静なまま用件を聞く。
「湊の正体がバレた。けど、学園内で騒ぎは起こさせねぇから見逃してくれ」
あまりにも堂々とした態度で、平然と言ってのける煉に、開いた口がふさがらない鈴。なんとか叱責の言葉をのみ込み事情を聴く。
「パパラッチってやつね。下衆くて嫌いだわ」
「でよぅ、ひとつ提案なんだけど」
ポケットに手を突っ込んだままドサッと机に座り、傍若無人ぶりを前面に出す煉。目の前へ座った煉に、鈴の眉がピクンと上がる。引き攣った笑顔で『聞くだけ聞いてあげるわ』と余裕なフリをする。
怒りを抑える鈴へ煉が持ち出した提案とは、学園で生徒を保護するというもの。
「そもそも、俺だけ例外であれこれ活動してる時点で校則もクソもねぇだろ」
「それに関して、私は許可出した覚えなんてないわよ。アンタが勝手に無法地帯作ってるだけでしょうが」
「黙認してたんだから同罪だろ。だいたい、生徒からバイト許可しろって声どんだけ出てると思ってんの、校長センセ? ま、俺もプライベートなくなってて怠かったんだよ。つぅうコトで、学園として生徒を守る義務ってあるよな? 姉さん♡」
煉は、鈴の顎を指で持ち上げ、真正面でウインクをして誑かした。
「っきぃぃ! 姉の純情を弄ぶんじゃないわよまったく! なんっでこんなイケメンに生まれたのかしら!」
煉は、喚き散らす鈴に見えぬよう、顔を逸らしてベッと舌を出して悪態をつく。
湊と挨拶へ訪れた時とは違い、鈴の弱い所を突いて我儘な弟を演じ、上手く甘えて見せた煉。鈴は、まんまと煉の思惑にハマってしまった。
(湊並みにチョロっつぅの)
湊を守る為なら、不本意に甘える事さえ厭わない煉。なりふりなど構っていられないのだ。
そうとも知らず、空き部屋で煉と合流した湊は、鈴との話はついたという報告を受けた。頼りになる煉を尊敬の眼差しで見つめる湊。だが、樹と仁は疑いの眼差しを向けている。
「そんで? 一旦誤魔化せたけど、これからどうすんの? ドラマも雑誌も大盛り上がりのお2人さん」
仁が嫌味っぽく言う。鈴の対応次第だが、当面は上手くやり過ごすしかないだろうと煉が答えた。
「そうだ····僕、お姉さんに謝りに行かなくちゃ」
約束を破ってしまい、少なからず学園を騒がせてしまった。罪悪感を感じている湊は、煉にアポを取るよう頼んだ。
(アレの後で会いづれぇな····)
内心、極力鈴を避けようと目論んでいた煉は、真実を話す事もできず承諾してしまった。真面目な湊の純真さを、無下にすることができなかったのだ。
煉は大きな溜め息を吐き、鈴へメッセージを送った。煉への怒りに満ちた返信をするも、湊の申し出は受け入れた鈴。後日、場を改め月宮家で謝罪と今後について話し合った。
騒動から数日、サルバテラのメンバーはレッスンスタジオに集まっていた。
「湊、ナオ、大変だったね」
2人を心配していた綾斗が、ここ数日の心労を労う。そして、レッスンが始まる前に、2人の状況について把握しておきたいと話を聴く。
湊は、学園が保護する方針ですすんでいると説明した。尚弥は、学校を休んでいるという。
「もともと学校なんて行きたいわけでもなかったし、行かなければ騒がれもしないでしょ」
淡々と心情を漏らす尚弥。それを聞いた秋紘は、尚弥の頬を人差し指で挟みグリグリとこねくり回す。そして、ぐいっと無理やり顔を上げさせた。
「にゃ、にゃにすんにょ····」
「ナオさぁ、なんでオレらのコト頼んないの?」
「は?」
「あぁ~悲し。オレ超絶悲しぃぃぃ」
暴れて抵抗する尚弥を、座っていた一人掛けのソファに押さえつけた秋紘。尚弥が自分たちを頼ってくれなかったことを執拗く嘆き、ウンザリする尚弥へ『オレたち一心同体じゃん』とウインクを飛ばした。
身震いした尚弥は、渾身の前蹴りを秋紘のみぞおちへ見舞う。
尚弥から手を離して蹲る秋紘。尚弥は、学校の違う秋紘たちに何ができるのかと問う。実は、もともと不登校気味だった尚弥。特別仲の良い友達もおらず、学校へ行く意義を見出せないでいた。
尚弥とは真逆の陽キャ丸出しな姉が勝手にアイドルオーディションへ履歴書を送り、面白がった社長が採用した結果、不本意にアイドル活動をしているという経緯がある。そんな尚弥だが、湊と綾斗に出会い、少しずつ色々な事へ前向きな考えを持てるようになっていた。
今回の騒動は、それをぶち壊してしまうものだった。何事にもやる気の起きない、沈んだ尚弥が顔を覗かせているのだ。
けれど、それを救うのはやはり湊だった。
「僕がナオくんの学校に行くよ!」
湊の突拍子もない発言に『へ?』と声を揃える3人。
「僕がナオくんの友達だって言う。サルバテラのメンバーじゃない、ただの友達だって。だから、ナオくんを困らせないでってお願いする」
(なんかあれだなー····湊の言動、煉っぽくなってきてんのよな~)
別の心配をする秋紘だったが、それよりも泣き出してしまった尚弥に驚いた。