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第105話 先手必勝


 教室に着くまで、やたらと周囲からの視線を感じていた湊。前髪の隙間から、ざわつく周囲を覗き見る。

 やはり、刺さる視線は気のせいではなかった。不安が過り、リュックの肩ベルトをギュッと握る。そして、固唾を呑んで教室へ急いだ。


 小走りで階段を上る湊のスマホが鳴り、足を止めて確認する。樹からの着信だ。


「も、もしもし。どうしたの?」


 声を潜めて出る湊。電話の向こうでは、樹が興奮して捲し立てている。


「え、何? 待って樹、早口で何言ってるか分かんない」


 困惑する湊。すると、電話口の相手が煉に替わった。


「お前今どこだ?」

「煉! 今ね、教室の手前の階段だよ」

「ンなら引き返していつもの空き教室に来い。状況説明すっから」

「わ、わかった····」


 状況を説明するという事は、自分に関わる事なのだと覚悟をする湊。嫌な予感がして、足早に煉のもとへ向かう。


 空き教室には三王子が揃っており、既に対策会議が始まっていた。何の対策会議かと、湊が尋ねる。


「落ち着いて聞けよ?」

「う、うん」

「お前の正体、つぅか蒼の正体がバレかけてる」

「····やっぱり」


 バレという事は、まだ完全にバレたわけではないという事。バレたのだと踏んでいた湊にとっては、幾分かマシに思えた。

 けれど、事はそう単純ではなかった。


「煉との事は?」

「そこまではまだだな」

「今はね、蒼と雪の私生活ってネットに上がってる段階」


 そう言って見せてきた樹のスマホには、制服姿の湊と尚弥が映し出されていた。ネットで話題になっていて、これを見た生徒たちが湊を観察していたというわけだ。

 湊は知っての通り。だが、尚弥は私生活が煩わしくなるのを避ける為、正体をひた隠しにしていた。湊ほどではないが、髪型とキャラを変え普段を過ごしている。

 尚弥の場合、雪のイメージであるミステリアスなツンデレではなく、クールかつ穏やかで愛想もそこそこの尚弥が見られる。これは、サルバテラのメンバーですら知らない。

 なぜなら、メンバーの前で見せる尚弥は、愛らしさすらある我儘な弟という感じなのだから。


「湊きゅんさ、結構ヤバくない? バレたらどうするつもりだったとかある?」

「····ない」


 三王子は皆、溜め息を吐く姿も麗しい。などと言っている場合ではなく、呆れた3人は湊を放って対策を練り始める。


 勉強はできるが、頭の回転は速くない湊。対して、それほど抜きん出た成績ではないが頭の回転は無駄に早い3人。対策を練るのに適しているのはどちらか、火を見るより明らかった。

 湊はちょこんと椅子に座り、授業などサボらされて会議を見守る。


「現時点でほぼ確定だと思われてるよね。湊きゅんが教室に行ったら最後····って感じじゃない?」

「だろうな。コイツが質問攻めに耐えれるわけねぇし、余計な事までベラベラ言っちまいそうだもんな。だからって樹が助けに入ったらハナシややこしくなるだろうし····」

「煉が助けに入ったら尚更だよな。違和感過ぎて関係バレんの絶対秒だわ」

「それな~。できるだけ湊きゅんが困らなくてぇ」

「煉との関係がバレないように····だもんな」


 樹と仁が、頭をフル回転させ唸る。


「ねぇ、湊きゅん」

「なに?」


 何かを閃いた仁が、湊にある事を確認して作戦の方針を固める。


「よし、じゃぁとりあえずそれでいってみっか。湊、ダメならすぐ言えよ」

「うん、ありがとう。頑張るよ」

「大丈夫。上手くいかなかったら次の作戦考えるし、湊きゅんは俺たちが守ってあげるからね」


 仁がウインクを飛ばして言った。湊は、王子たちの心強さに感謝する。


「あと、鈴には俺から言っとく。あんな記事、反則だもんな」

「だよだよ! 絶対ヤな奴の仕業だもんね。湊きゅんは悪くなーい」

「でもま、それを判断するのは校長だし、それをどうにかすんのが煉の役目だよね」

「任せとけ。俺はこのまま鈴トコ行ってくっから、お前ら暫く湊の事頼んだぞ」


 樹と仁は『任せとけ』と声を揃える。そして、教室を出て行く煉の背中を見届け、頼ることを覚えた煉の変化に感動していた。


「あの孤高の王様だった煉がなぁ····」

「湊きゅんのおかげで人間味出たよね」


 しみじみという姿は、まるで我が子の成長を喜ぶ親の様。だが、2人は即座に思考を切り替え、湊へ意識を向ける。


「それじゃ、湊は教室に行ってみようか。大丈夫? できそう?」

「できなくてもやる! 皆が居てくれるし、煉だって頑張ってくれてるんだもん」


 守り手のいる自分は恵まれている。そう思う湊が今何よりも案じているのは、状況が分からない尚弥の事だった。

 早くケリをつけて、尚弥に連絡しなければ。その気持ちがまた、湊を強くするのであった。



 1限目が終わり、休み時間の教室に現れた湊。前髪を上げ、蒼として現れたその姿に、生徒たちは歓声を上げる。


「やっぱり蒼だ!」

「本物!?」

「うそでしょ!?」


 と、一気にどよめいた。教室へ来るまでに通った各クラスからも、多数の生徒が見物に来てごった返してゆく。


「黙っててごめんね。静かに学校生活を送りたくて、内緒にしてたんだ。うちの学校、芸能活動禁止だしね」


 そう言うと、湊は人差し指を唇に当て、パチンとウインクをして見せた。それから『あんまり騒がないでね』と愛らしい笑顔を見せる湊。完全に蒼を演じている。

 仁の作戦とはこれだった。事務所的に問題がないのならと打ち出した案。先手を打ち、自ら正体をバラすことで追及を最小限に留めようと企てたのだ。これが功を奏し、湊が一方的に説明した事情を周囲は聞き入れた。


 湊がそれ以上絡まれることのないよう、何より煉との事を言及される前に、タイミングを見て仁が絡みに行く。チャラ男キャラを活かし、新たな人気者とお話がしたいなど調子の良いことを言って、湊を教室から連れ出した。

 これで、三王子との接点も作れたので一石二鳥というのが仁の主張。あとは、煉が鈴を説得できるかにかかっていた。



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