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第102話 キスの行方


 煉と湊が出演するドラマ『恋に気づいた時から』は、特に若い世代から絶大な人気を博している。金曜が放送日とあって、翌週には学校中がその話題で持ちきりになるほどだった。

 略して『恋きづ』と呼ばれ、主要キャストは勿論の事、それぞれの登場人物が恋を通して傷ついていく内容と掛けて話題になっていた。奇跡的に、湊が蒼である事はまだバレていない。


 例によって、1人で見る覚悟が持てない湊。惟吹が後ろから湊を抱えるように座って、密着した状態で鑑賞会をしていた。


「この女優さ、俺好きくない」

「江崎さん? まぁ、役では結構調子いい感じに見えちゃうよね」


 幼馴染と恋人の間で揺れるヒロインの姿を、一途な惟吹は快く思えないらしい。


「てか何、湊にぃの笑顔超絶可愛かったんだけど。ヒロインさ、いっそ湊にぃのが良くない?」

「あはは。僕がそこに立ったら話変わっちゃうよ」


 そうなれば、煉も大喜びする事だろう。2人は同時に過った考えを、同時にポロリと零して笑い合った。


「来週だっけ? 煉のキスシーン」

「····うん」

「やっぱり見るのやめとく?」

「ううん。煉は見たい」


 我儘を言う湊に、惟吹は呆れて言う。


「んじゃ、キスシーンだけ俺が目塞いでてあげるね」

「いいの? ありがとう! やっぱり、直視するのはツラいかなって思ってたんだよね」

「はいはい。良い弟持って良かったね」

「うん! 惟吹、大好き♡」


 屈託のない笑顔で、惟吹に抱きつく湊。この時ばかりは、距離感をバグらせてしまった事を後悔する惟吹であった。



 翌週。問題のキスシーンに、緊張した面持ちで身構える湊。先週と同じ体勢でテレビに向かう。が、今日は惟吹がソファに座り、湊は惟吹の足に挟まれる感じで包まれている。


「湊にぃはキスシーンの撮影の時って、現場で見てなかったの?」


 湊を後ろから抱え、湊の頭に顎を乗せて聞く惟吹。


「見れなくてトイレに逃げちゃったんだよね」

「あぁ、ぽいわー。お、そろそろかな?」


 煉が、涙ながらに去ろうとする江崎の腕を掴み、振り返らせてキスをする。

 キスの寸前に見せていた、煉の知らない表情かおに動揺する湊。惟吹は、キスシーンの直前で湊の目を塞ぎ、そのままそっとキスをした。


「····っ!!」


 湊は抵抗するも、力の強い惟吹に力では敵わない。画面の中でキスをする煉へ、惟吹はあてつけるかのようにキスを続ける。

 煉がキスを終えると、惟吹も唇を離した。


「なっ、何すんのさ!」


 バッと距離を取って、袖で唇を拭う湊。


「湊にぃの心のケア」

「····はぁ!?」


 煉が他の人とキスをする事に、複雑な気持ちを抱えていた湊。湊も他の人とキスをする事で、少しは気が晴れるのではないかという持論を展開した。


「俺なら家族だし浮気に入んないでしょ?」

「え、そうなの!? 家族って浮気にならないの?」


(可愛いくらいバカだなー····)


「当然じゃん。家族なんだから、ハグと同じでスキンシップの一環だよ?」

「そ、そうなんだ····。あ、でももうしないでね! 僕的に、ハグとキスはやっぱり違うって言うか····」


 惟吹の善意を疑わない湊は、懸命に惟吹を傷つけまいと言葉を選ぶ。


「分かったよ。もう唇にはしないから安心して」

「うん、ありがと」


(····ん? って言ったよね? ほっぺとかにはするって事なのかな。まぁ、唇じゃなかったらいっか。家族だし、外人さんは挨拶にキスしてるもんね)


 惟吹の堂々たる態度に、自分が神経質になり過ぎているのだと思った湊は、それ以上言及することはなかった。



 翌日、待ち合わせ場所に遅れてやって来た煉。来るなり例のシーンを見たのかと尋ねられ、惟吹に目隠ししてもらったと答えた煉。相変わらずの距離感に不満を抱きつつも、湊が泣いていないのならと容認した。まさか、惟吹がキスをしたとも知らずに。


「煉····」

「ん?」

「早く煉の家、行きたい」


 湊の積極的な誘いに、心臓が跳ねる煉。いつもと違う様子の湊に、一抹の不安を感じながらも、煉はバイクを走らせた。


 煉の家に着くと、湊は煉をベッドに押し倒した。煉の様にスマートにはできず、ぎこちなく強引に突き飛ばしたようになってしまう。

 それでも、湊は自分の感情が抑えられず、精一杯攻めの姿勢で煉に迫る。


「お前、今日はどうしたんだよ」

「自分でもわかなんない。けど、早く煉の唇消毒しなきゃって····、会ったら余計に思ったの」

「キスシーンあった日、あんだけ激しく消毒したのに?」


 不敵な笑みを浮かべて言う煉。湊はを思い出し、顔を真っ赤に染め上げる。


「あれは、煉だって消毒しろって言ってめちゃくちゃにシたじゃない····」

「お前意外とキスしたんが気持ち悪すぎたんだからしょうがねぇだろ」


(そっか。煉は家族とするような感じじゃないもんね。煉には僕しかいないんだ····)


「煉、目閉じて」

「ん」


 瞼を下ろした煉。湊は、改めて見る整った顔に息を呑む。そして、勇気を出してそっと唇を重ねた。

 下手くそなキスに、煉はどこまでも欲情する。だが、たどたどしい舌の絡め方にもどかしさを感じつつも、湊が満足するまで耐えた。


 満足して唇を離そうとした湊。煉はその後頭部を捕まえ、焦らされた仕返しと言わんばかりに激しく舌を絡めてイカせる。


「れ、煉····キス、も、れきにゃい····」

「俺はもっとシたい」


 そう言って、煉は再び唇を塞いだ。



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