前回同様、Renと蒼の密接な絡みをメインにシャッターを切ってゆく相楽。2人を焚き付け、読者が求める2人の距離感を収めようとする。
カメラマンの口八丁には慣れている煉。浮ついた誉め言葉に易々と乗ることはない。けれど、未だに慣れない湊はまんまと乗せられてしまう。
「蒼、Renの肩に手添えて、もっと顔近づけてみて。お、いいね! Ren、もっと甘い雰囲気出せる?」
玉座の様に絢爛な椅子へ、王様の如く
湊は、そんな煉にどう絡んでいいのか分からず、その後も言われるがままのポーズをとり接近する。
湊以外に褒められたとてなんとも思わない煉。むしろ、気分を乗せる為だけの軽い言葉には虫唾が走ると感じていた。無意識に、湊の耳元で舌打ちを零してしまった。その舌打ちに反応してしまう湊。
「ふ··ン··」
湊の歪む表情に焦る煉。頬を赤らめた甘い湊をカメラに収めさせるわけにはいかない。煉は、慌てて湊を引き寄せカメラに背を向けさせる。
「そのまま、顔伏せて視線だけカメラ向け」
煉の指示通りに動く湊。視界の隅に見えるカメラへ、自分はどう映っているのかと想像してみる。
(煉の所為で、たぶんえっちな顔してる····。あ、だから煉は隠そうとしたのか)
緊張なのか煉への昂りなのか、思うように頭が回らない湊。体勢を戻すため、煉の胸を押して離れようとしたその時、足がもつれて後ろへ倒れそうになった。
(わ····ヤバ··倒れる····)
覚悟を決めて目を瞑る湊。だが、煉が腰を受け止め危機を脱した。
「っぶね····。大丈夫か?」
「へ、平気。ありがと」
「ん? ちょと触んぞ」
湊の異変を感じた煉は、そっと首に手を添える。そして、眉間に皺を寄せた。
「蒼、大丈夫?」
動かなくなった2人を心配して、撮影を中断していた相楽が声を掛ける。答えない湊に代わり、煉が返事をした。
「大丈夫じゃねえ。コイツ熱ある」
「えぇ!? マジで? 撮影中止! 誰か蒼のマネ呼んで!」
「いい。コイツん家聞いてっから送ってく」
そう言って、湊をお姫様抱っこして運んでいく煉。一旦楽屋に戻り、煉は着替える前に諏訪を呼んだ。
諏訪が到着すると、毛布で包んだ湊を再び抱えて煉が車へ運ぶ。湊を家に送り届けた煉は諏訪だけ帰らせ、看病をするため湊の部屋へ上がり込んだ。
まだ家人が誰も帰らぬ西条家。あと数時間は湊と2人きり。そんな状況で、看病の“か”の字も知らない煉は、とりあえず近所のコンビニへ行き熱冷ましのジェルシートなどを買い込んできた。
帰るなり眠っていた湊を起こし、熱を測ると39度を超えているではないか。スポドリを飲ませてから、薬箱を漁り解熱剤を探し出すとレトルトの粥を温めた煉。全てスマホで調べながら、一つ一つ着実にこなしてゆく。
せめて、惟吹が帰るまで。そう思って、煉は湊の看病に徹した。
「食って薬飲め」
「ふぇ····お粥··、食べぇない····」
「気持ちわりぃ? プリンかゼリーなら食えそうか?」
「··じぇりー····」
熱を持った唇を、ぷるぷる震わせながら話す湊。煉は、その誘惑に耐えながらゼリーを食べさせる。
ゼリーを一口含んだ湊は、ゆっくりもぐもぐしながら、突然えぐえぐと泣き出した。
「え··、は? なに、どうしたんだよ。どっか
「ふ··、ううん、痛くにゃい····。ごめ、ごめんね、迷惑、いっぱい掛けちゃって····」
(コイツ、熱でワケ分かってねぇな····)
とろんとろんになっている湊。煉はゼリーを置き、泣きじゃくる湊をギュッと抱き締めて落ち着かせた。
そして、楽屋で寝かしつけた時のように、小気味よく背中をトントンしてみる。ふぅと小さく溜め息を吐くと、煉は言い聞かせるように言う。
「心配はしてっけど、迷惑とか思ってねぇよ。大丈夫だから落ち着け」
「煉··、
(喋れてねぇしふにゃふにゃだな····赤ちゃんかよ。クソかわすぎんだろ)
「俺が優しくすんのはお前だけな。特別だぞ」
「
腕の中に感じる愛らしい高温を、なかなか手放せない煉。湊が満足するまで、暫く抱き締めて離さなかった。
(寝た··か? 離したくねぇな。けど、寝かしてやんねぇとだよな)
煉は、眠ったであろう湊を渋々ベッドに横たえる。けれど、身体を離した直後、湊が煉の手を握った。
「煉、やだ、手····あ、でも風邪移っちゃ──ゲホッゲホッ」
「今更だろ。くだんねぇコト気にしてねぇで寝ろ。起きるまで居てやっから」
(つぅかこれ、風邪じゃなくて疲れからとかだろ。マジで、どんだけ疲れてんだよコイツ。てかなんでこんなんなるまで気づけなかったんだよ俺。クソッ!)
煉は自分自身への腹立たしさを抑え、湊の額を柔らかく撫でる。そして、手を握ると耳元で極上の甘い声を鳴らし『おやすみ』と言った。
煉の声に安堵した湊は、すぅっと眠りに落ちる。
ドタドタドタッと騒がしい足音が近づき、湊の部屋の扉がバンッと開かれた。
惟吹だ。煉が送っておいたメッセージを見て、練習試合が終わるや全力疾走で帰ってきた。惟吹は、息を切らしながら状況を見定める。
ベッドの脇には、スポドリやジェルシートなどの看病セットを大量に詰め込んだ袋が2つ。一口も食べていないお粥に、一口分だけ減ったゼリー。ストローの挿されたスポドリのペットボトルは、煉が片手で持ったまま。
そして、浅い呼吸で眠る湊と、湊の手を握ったまま隣で寝落ちしている煉。惟吹は、煉なりに頑張ってくれたのだろうと察し、静かに近づいてスポドリを回収した。