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第96話 あちらこちらの事情


 撮影が始まる1か月ほど前、SNSで上がった煉のドラマ出演が決まったという噂。学校中の女子が、情報を求めて煉に詰め寄ること数日。煉の苛立ちはピークに達していた。


 放課後、帰り支度にモタついていた湊は、1人夕陽の差し込む教室に居た。撮影が近づくにつれ、煉とのぎこちなさで気分が滅入っていた湊。窓から見える夕陽を眺め、溜め息を吐いては煉の事ばかり考えていた。

 そこへ、執拗い女子から逃れようと教室へ戻ってきた煉。


「おま··、まだ居たのかよ」

「居ちゃ悪いの?」


 ここ数日、ずっとこうである。互いの素っ気なさに、ツンとして返すのを繰り返していた。

 このやり取りに嫌気が差していた煉は、ツカツカと湊に歩み寄る。


「なぁ、いい加減──」


 湊との関係を修復しようと、煉が湊の腕を掴んだ時、廊下から女子の声と足音が聞こえた。

 慌ててロッカーに身を隠した煉。腕を掴んでいた湊も一緒に、狭いロッカーで身を寄せて女子が去るのを待つ。


「なんで僕まで引っ張り込むの!?」


 小声で抗議する湊。


「咄嗟だったんだからしょうがねぇだろ。アイツらマジで執拗いんだよ」


 煉はゲンナリした顔で、ロッカー上部にある空気穴から外の様子を覗き見る。


「ちょっと煉、もうちょっと離れてよ」

「あ? 狭いからムリ」

「せめて体勢変えてよ。その、あ、当たってるから」


 下腹部に当たる煉のモノが気になる湊。それに気づいた煉は、挑発する様に湊の腰を抱き寄せ、ワザと当てて意地悪をする。


「ね、待って、こんな所で硬くしないでよ」


 必死に抵抗する湊。だが、その手には力など入っていない。むしろ、期待してますと言わんばかりに身体が熱を帯びてゆく。

 湊の肌に触れ、その熱を感じた煉。さらに腰をグッと引き寄せ、耳元で甘い声を響かせる。


「しょうがねぇじゃん。お前がずっと相手してくんねぇから溜まってんだよ」

「ひぅ··」

「シィ―····、声出したら見つかんだろ」


 そう言いつつ、湊の尻に手を伸ばす煉。それと同時に、女子が教室の捜索を始める。


「だ、だめ、や、そんなトコ触っちゃ··んっ、ぁ··」


 必死に声を殺す湊。けれど、煉は容赦なく性感帯に触れてくる。

 次第に蕩けて思考が緩んだ湊は、くたっと煉に身を預けてしまう。そのまま、煉の匂いに埋もれ軽く達してしまった。


「煉、イッちゃった····」

「····脱がすぞ」

「へぁ? 待って、こんなトコで、ダメだよ」


 口では拒絶するものの、抵抗などできない湊。ロッカーに当たらないよう慎重に、煉は湊の下半身を剝いてしまった。


 湊の片足を持ち上げ、ナカを目指す煉。どう頑張ってもロッカーに触れ、カタカタと小さな音が鳴る。

 懸命に声を抑える湊だが、煉のモノを受け入れては我慢などできず、小さく甘い声を漏らしてしまう。見かねた煉は、キスで唇を塞いだ。



 本能に抗えなかった2人は、汗だくでロッカーから抜け出した。とっくに女子は去っていて、薄暗くなった教室で再び、危険を顧みず求め合う。


 放課後の、誰も居なくなった学校で、机へ手をつき煉に身体を暴かれる湊。溢れる声は甘く、わずかに廊下へ漏れていた。

 そこへ、近づいてくる人影。教室の手前でぴたりと足を止め、そろりと覗き込む。


 煉と湊の行為を目の当たりにし、その影はすぐに目を逸らして身を引いた。ズルズルと壁に背を預け座り込む。膝を抱え、放心状態で動けなくなってしまった。


「樹?」


 少し離れた所から影に声を掛けたのは、部活終わりの仁だった。忘れ物を取りに来たのだが、廊下で蹲っている樹を見つけ駆け寄ってきたのだ。


「仁····」


 持ち上げた顔は今にも涙が溢れそうで、鼻を真っ赤に染めていた。どうしたのかと声を上げそうになった時、教室から聞こえてくる甘い声に気付いた仁。そっと教室を覗き、状況を確かめる。


 2人を見た瞬間、怒り狂いそうになった仁は唇をかみしめて振り返った。力づくで樹を立たせ、掴んだ腕を引いてその場を離れる。


 仁は、樹を自宅へ連れ込み、ベッドへ放り投げた。


「わぁっ」


 驚く樹。仁は、馬乗りになって樹にキスをした。


「んんーっ!」


 仁は、樹の抵抗を許さずキスで蕩けさせていき、その隙に脱がせていく。あっという間にひん剥かれた樹は、大晦日同様、仁に身体を許してしまった。

 最中、仁は泣きじゃくる樹に、本気で告白をする。


「樹、好きだよ。もうお前がアイツらに傷つけられんの見てらんない。俺が、樹のコト笑顔にしたい」

「平気、だし、んぁっ··、俺は、湊が好き、だから····」

「俺に抱かれんの嫌? 俺は好きになれない?」

「······ならない」

「なれないじゃなくて? 樹が辛い時、1人にしたくない。ね、湊きゅんの代わりでいいって言ってもダメ?」 


 湊と煉が付き合い始めてから、ずっと浮かない表情だった樹。心からの笑顔など、久しく見ていないと仁は言った。

 仁の本気が伝わるだけに、樹は答えを迷う。心は湊のモノなのに、そう誓ったはずなのに、雄を剥き出しにくる仁に惹かれている自分にも気づいていた。だからこそ、仁の狡い提案を断り切れなかったのだ。


「俺、最低じゃんか····」

「最低でもいいじゃん。俺がいいつってんだから」


 こうして、湊には内緒で付き合うことになった仁と樹。付き合うと言っても、利害の一致という域を出ない関係。

 それでも仁は、煉に堂々と彼氏面できると満足していた。



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