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第87話 煉は湊の王子様


 ガラの悪い3人の男たちに、多目的トイレへ連れ込まれてしまった湊。口に小さなタオルを詰め込まれ、両手を頭上で捕まえて壁に固定され身動きできなくされている。

 湊の腕を片手で掴んでいるロン毛の男は、人のモノを奪うのが好きだと言った外道。鬼畜だの人でなしだのと、後ろから仲間の2人にナジられている。


 恐怖に怯え涙をポロポロと零す湊だが、必死に抵抗を見せる。が、ビクともしない。


「んーっ!」


 懸命に助けを呼ぼうとするが、タオルを口いっぱいに詰め込まれている所為で声も出せない。恐怖で足が震える湊。スマホを鞄に入れたま置いてきてしまったことが悔やまれる。

 金髪の男が、ロン毛の男に指示を受けて湊の身体チェックをする。個人情報を特定できるものがないか、ポケットを念入りに調べた。

 けれど、荷物は全て置いてきていた湊からは財布すら出てこない。苛立ち始めたロン毛の男は、直接湊から聞き出すことにした。

 湊の股に膝を割り入れ、唸るような低い声で『騒いだら痛いコトしちゃうかもよ?』と脅してからタオルを抜き取る。


「ねぇ、名前教えてよ」

「やだ」


 顔を隠すように俯いて拒絶する湊。ロン毛の男はポケットに突っこんだままだった手で、即答する湊の前髪を鷲掴んで凄む。


「名前は?」


 答えを待たずに湊の首筋を舐め、甘噛みをして恐怖心を煽る。八重歯が食い込むと、湊は震える声で答えてしまった。


「ひぅ····み、湊、です」

「湊ちゃんね。なら次は、女の子か男の子か確認しようね」


 そう言って、男は膝で湊のモノを持ち上げると、ズボン越しに湊の股間を掴んだ。我慢の限界が近かった膀胱に、不意打ちの刺激が響く。


「ひぁっ」


 思わず声を上げてしまう湊。男は、湊が男である事を確信すると、恍惚な表情を浮かべ『久しぶりのケツ穴かぁ』と言った。耳元で囁かれたその言葉に、湊は震えあがる。

 後ろの男たちは、男に興味はないと言った顔で、事が済むまでスマホを弄って時間をつぶすつもりらしい。


「俺、遊星ね。その可愛い声でいっぱい名前呼べよ」


 遊星と名乗ったロン毛の男は、嫌がる湊のシャツを捲って肌に触れる。腰から胸へと手を滑らせ、湊の滑らかな肌を堪能した。

 あまりの気持ち悪さに、湊はボロボロと泣きながら『助けて····』と呟く。その時、外から煉の声が聞こえた。


「湊? あれ、居ねぇ。ドコ行ったんだアイツ····」


 煉は、男子トイレを覗いて言った。それは丁度、多目的トイレの扉前。


「ふぅっ、んんーっ」


 大きな手で口を塞がれていた湊が、懸命に声を上げた。その声に気づいた煉は、多目的トイレのドアをダンダン叩いて声を荒げる。


「湊、そこに居んのか!?」


 中では不良たちが『やべぇじゃん』と慌てている。が、遊星は落ち着いたまま、仲間の2人に鍵を開けたら飛び出して逃げろと命じた。自分は湊を人質に、ゆっくり出ていくと言う。


「マジかよ。お前マジでイカレてるって」

「付き合いきれねぇよ。俺らもう知らねぇからな」


 2人は遊星の言葉に従い、鍵を開けると同時に飛び出していった。その際にぶつかった煉がよろける。けれど、すぐに体勢を戻し湊の姿を確認した。


「湊!」


 背後から湊の首に腕を回し、軽く締めあげている遊星。あわや、湊の足が浮きかけている。


「テメェ、何してんだ! 今すぐ湊を離せ!」

「いいけど、まだこの子食べてる途中なんだよね」

「は?」


 ポケットからナイフを取り出した遊星は、を湊に突き付けて言う。


「今から彼氏おまえの目の前で犯すから。中入って鍵閉めろよ」


 とんでもない事を言い出す遊星に、身構えていた煉はすっと背筋を伸ばして立ち直す。


「お前、誰相手にしてっか分かってんのか」

「あ? 知らねぇよ。この子の王子様ってか?」


 嘲笑うかのように言う遊星に、煉は堂々たる態度で答える。


「正解。俺はソイツだけの王子様なんだよ!」


 俊足で間合いを詰めた煉は、回し蹴りで湊の顔スレスレを狙いナイフを蹴り飛ばした。そして、遊星が怯んだ隙に湊を奪還する。


 目の前で起きた事に理解が追いつかない湊は、震える手で煉にしがみついたまま離れない。煉は湊を庇いながら、殴りかかってきた遊星を長い脚で前蹴りする。

 煉の足が綺麗にみぞおちへ入り、遊星はその場にどしゃっと倒れた。今のうちにと、煉は湊を連れてその場から走り去った。



 皆のもとへは真っ直ぐ戻らず、一旦離れた場所にある別のトイレへ身を隠す2人。


「ハァハァ····湊、大丈夫か?」

「だ、だいじょば、ない··。漏れる····」


 限界を超え決壊寸前だった湊は、心配する煉を置いて用を足す。


 ギリギリ間に合った湊は、手を洗いながら煉に礼を言う。煉が強い事に驚いた湊は、格闘技でもやっていたのかと尋ねた。

 煉は空手をやらされていたと答えると、それよりも経緯を説明しろと湊に詰め寄る。湊が洗いざらい話すと、煉は力いっぱい湊を抱き締めた。


「ンだよそのイカレ野郎····。ンっだよマジで····間に合ってよかった··、お前が無事でよかった····」


 話を聞いたうえで心底安堵した煉は、しばらく湊を抱き締めて離さなかった。



「ねぇ煉、さっきからずっとスマホ鳴ってるよ?」

「どうせ樹か仁だろ。もうちょい、あと1分だけ待て」


 そう言って、数分湊を抱き締めていた煉は、漸く電話に出る気になってスマホを取り出す。

 そして、煉の指がスマホに触れようとした時だった。


「あーっ! 居たぁ! 樹、こっちこっち!」


 仁がトイレへ駆け込んできた。惟吹から『湊にぃがトイレから戻らない』と聞き、心配になり仁と樹で2人を探していたのだ。


「もう、どっかにシケ込んでんだろうなとは思ってたけど、まさかこんなトコで··。君らねぇ、どうせならもうちょっと人目につかないトコでやりなさいよ!」


 先走って2人に説教をする仁。そこへ、怒りを露わにした樹も到着した。そんな2人へ、煉は事の顛末を説明する。

 心配を掛けたくないから惟吹たちには黙っていてほしい、と言う湊の意思を尊重する3人。だが、湊にはスマホを肌身離さず持つよう命令が下った。煉はGPSで湊の居場所を管理すると言い出す始末。

 それは流石にやり過ぎだと湊が言うけれど、誰も湊の味方につかない。ごねる湊に、煉は久々に『命令な』と言い放った。



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