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第81話  複雑な心が交差する


 驚く湊を胸に抱え、怪しい2人組の男を睨む煉。


「テメェら、俺のもんに何··して····──」


 と、低い声で凄んだものの、煉は相手を視認してクルッと踵を返した。


「ちょいちょい、もう煉~。何今のぉ、王子様じゃ~ん」


 聞き慣れた軽口。煉は、湊を小脇に抱え込んだまま寸秒も足を止めようとしない。


「てか何ムシしようとしてんの?」


 男の1人が、煉の肩を掴んで呼び止める。その手を跳ね退けるように、煉は腕をブンと振り回した。


「なんっでお前らが居んだよ!」


 そう叫んで振り返った煉の視線の先には、にへらと笑う仁と、ムスッと唇を尖らせている樹が居た。


「··ぷはっ! 煉、苦しいよ」


 湊が、緩んだ煉の腕から抜け出した。


「あぁ、わりぃ」


 バッと腕を上げて、今度は優しく支えるように湊の腰へ手を添える煉。途端に甘くなった表情を見て、仁が『あまぁ~い♡』と揶揄う。


 元々2人で遊ぶ約束をしていたが、そのまま初詣がてらカウントダウンもしようという事になり、樹を迎えに来た仁。どこへ行こうかと相談しながら歩いていると、1人で歩く湊を見つけ心配になり声を掛けたのが樹。そこを、煉が目撃し今に至る。

 折角だから、デートの邪魔をしようと企む樹。一緒に遊ぼうと執拗に誘うが、煉は決して首を縦に振らない。


 2人の押し問答に飽き、湊と仁はすぐそばにあった自販機へ飲み物を買いに行く。

 湊と仁はそれぞれ、煉と樹へ飲み物を手渡し落ち着くよう諭す。激論の末、23時半まで共に行動し、そこからは別行動をすることになった。


「んで? 湊きゅんと煉はドコ行く予定だったの?」

「俺ん家」


 煉は、家の鍵を見せて言った。その家とは、昨日契約したばかりの新居。湊を連れ込みたいと思った煉は、諏訪に我儘を言って、予定をかなり前倒しに契約まで漕ぎ着けたのである。

 部屋にはベッドしかなく、住むにはまだ不便な状態。それでも、湊と過ごすだけならベッドだけで充分だと言って、困惑しっぱなしの湊を言いくるめていたのだ。


「ベッドがあれば充分だってぇ〜。煉くんや〜らしぃ♡」

「るっせぇ」


 煉は、仁のケツを決定黙らせた。


「いててっ····。まぁ、それは後でどうぞ。折角だし遊び行こーぜ?」

「チッ··、勝手に湧いて出たくせに折角もくそもねぇだろ。ったく、来い湊」


 煉はぶつくさと呟き、コートを広げて湊を呼ぶ。不機嫌極まれりな煉のコートの中で、湊は煉の服を掴み『まぁまぁ』と宥めた。


「僕、家族以外と年越しなんて初めてだから、皆とわいわいして過ごすのも楽しそうだなって思うよ。煉は、そういうの嫌?」


 コートの中から見上げて聞く湊の愛らしさに、グッと息をのむ煉。湊を包んでいるコートをふわっと持ち上げ、湊の耳元へ唇を寄せて答えた。


「お前が楽しいンなら別にいいけど、俺はお前と2人きりで過ごしてぇ」


 一瞬にして熱くなる耳。湊の意識は、全てそこに持っていかれる。


「んぅっ」

「そういう声、もっと出させる事もシてぇしな」

「にゃっ、れ、煉のえっち····」

わりぃかよ。後でシねぇの?」

「ひゃぁぁ··す、するぅ····」


 堪りかねて耳を覆い隠してしまう湊。か細い声で、煉の情欲を受け入れてしまった。


「ちょっと~、樹くんが妬いちゃうからイチャつかないでください~」

「仁煩い。ね、行くとこ決まってないならさ、比愛珠名ひめすな神社行かない? 屋台出てるみたいだし。そこだったら煉のタワマンも近いし文句ないでしょ」


 そうして、4人は比愛珠名神社へ向かった。


 それなりに大きな神社なので、毎年初詣に訪れる人で賑わっている。参道には、沢山の屋台が並んでいた。

 神社は凄い人混みで、はぐれないようにと煉は湊の手を握る。その手をクイッと引き、湊は煉に耳打ちをした。


「念のために前髪降ろしてきてて良かったね」


 囁くと、いつもより少し高くなる湊の声。不意打ちの愛らしさに、煉の心臓がはやる。


「··だな。俺も、変装マスクしてきてて良かった」

「えへへ、そうだね」


 2人のやり取りを、後ろから見つめている樹。握りこぶしに力を込める樹に気づいた仁は、気を利かせ2人の間に割って入る。


「ねぇ~、お腹空いた~」


 湊から煉を掻っ攫うように肩を組んで、2人を引き離す仁。おどけて見せる仁に、樹も便乗する。


「俺も~。仁となんか食べよって言ってたから、夕飯食べてないんだよね」


 煉と反対側に立った樹は、湊の肩を抱いて言った。


「あ··っと、そうなの? じゃぁ、食べ物から見て回ろっか」

「湊も腹減ってんのか?」


 仁を押し離し、樹から奪い返すように湊の腰を抱き寄せると、煉が尋ねた。湊が夕飯を軽くしか食べていないと言うと、煉はあれもこれもと屋台で食べ物を買い漁った。

 境内の隅、祭りの様な賑わいから少し外れた所で、古びたベンチに座って食べる4人。もりもりと食べる湊を見て、樹がぽそりと言った。


「湊って、そんなに食べるんだね」

「んぇ? 樹、何か言った?」

「ん? 湊、ちょっと太ってきたかなぁって」


 いつもと変わらぬ笑顔で答える樹。湊は樹の言葉に驚いて、自分の腹とこれから口に運ぶ予定だった焼きとうもろこしを交互に見た。そして、樹に『とうもろこし、食べる?』と聞く。


「あはは、ごめんごめん。太ったって言ったけど、湊はもともと細いほうだったから安心したんだよ」

「へ? 安心?」

「うん。もっとお肉付けてもいいくらいだと思うよ? だから、もっといっぱい食べなさい」


 樹は、兄ぶった口調で言う。湊は、困り顔で暫くとうもろこしと睨めっこをしてから、思い切ってかぶりついた。

 美味しそうに食べる湊を、優しい笑みを浮かべて見つめる樹と煉。そんな2人を、仁は複雑そうな表情を浮かべて見ていた。


「てかさ~、前から思ってたんだけど、湊きゅんって芸能人のアレに似てない?」


 仁の一言に3人が固まる。


「最近人気のさ、アイドルの星空蒼! 俺、サルバテラの中だと蒼が一番かわいいなって思うんだけど、ね、知ってる? オリコンでめっちゃ順位上げてきてる··サルバテラって··アイドル····え?」


 揃いも揃って視線を逸らす3人。あからさまに怪しい。


「え、ねぇ、ちょい待って? 湊きゅん、ちょっと前髪ごめんね」


 そう言って、煉と樹が庇うよりも早く、仁は湊の前髪を上げてしまった。


「ぅえぇぇっ!? マ!? 湊きゅん、蒼に似すぎじゃない?」


 仁が騒ぐ所為で、ちらほらと注目を浴びてしまう。湊は慌てて前髪を下ろしたが、周囲が騒めき始めていた。



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