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第79話  ファンサはライブでサプライズ


 過去一大きな会場でのワンマンライブ。会場は、ファンでびっしりと埋め尽くされている。


 正面の大きなスクリーンに、ポップな字体でカウントダウンが表示された。ファンは、声を合わせてテンカウントを始める。

 ファイブカウントからは毎秒、悲鳴にも似た歓声が上がった。


『1··、ゼロ!』


 派手な爆発音とともに、メンバーがステージに飛び出す。会場が、割れんばかりの歓声に包まれた。


 最前列、右から2番目に立つ蒼の真正面、煉がいつもの変装でペンライトとうちわを持って立っている。

 蒼は、着地と同時に指で銃を作ると、口パクで『バーン♡』と言って煉を狙い撃ちした。煉の1番お気に入りのファンサを贈ったのだ。恋人特権をこんな所で行使してくるとは、煉も予想外だった。


「アイッツ··♡」


 ふやけた顔を見せる煉。普段は見せない煉の表情を見てしまい、蒼はつられて表情を緩める。

 ファンの歓声でハッと我に返る蒼。キリッとした顔も可愛いので大差なく、ファンからはまた黄色い声が上がった。



 ライブ中盤、トークを終えると夕陽のソロ曲のイントロが流れ始めた。しっとりとしたバラード、と思わせて、前奏が終わる頃にテンポを上げた激しいギターサウンドに惹き込まれる。重厚感のあるメロディーは、温厚そうに見えてその実、血の気の多い綾斗のイメージそのものな曲だ。最後は、イントロと同じバラード調の静かなピアノで締める。

 続いて刹那のソロ曲。セクシーなロックでスタンドマイクプレイを披露する刹那。前半のミソジニーを思わせる歌詞へ愛を投げ入れて、飄々とした秋紘らしさを演出している。次のスタンバイをしていた湊に聞こえるほどの、色めき立った悲鳴が上がっていた。


 いよいよ蒼の出番。刹那のショッキングピンクに染められたステージが、淡いピンクへと落ち着く。

 ポップな前奏が始まり、蒼が満を持して恋を歌う。片想いの相手へ素直になれない自分を責めるが、勇気を出して想いを告げるストーリー性のある歌詞。サビの終わりには、尚弥が絶賛していた色々な手法でハートを表現する。

 恋が叶った曲の終盤、最後のハートはスタンドマイクの向こう、煉へ向けて手で大きなハートを描きウインクを添えて送った。

 煉は思わずよろめいて、腰まである柵を支えに踏ん張る。視線は蒼から外せず、照れ顔で手を振りながらハケていていくのを見届けた。


 入れ替わりで出てきた雪は、蒼とアイコンタクトを交わして微笑む。ファンに塩対応すぎる雪の、レアな笑顔にファンは歓喜する。マイクの前に立つと、スンと無表情に戻り淡々と歌い上げる雪。

 アコースティックギターの単調なメロディーラインに乗せて、静かで透明感のある雪の歌声が会場の空気を研ぎ澄ます。シックで大人っぽい雰囲気の、雪を代表する一曲になりそうな傑作だとメンバーは思っていた。


 それぞれのソロ曲を披露し終え、後半へ向けてアップテンポな曲が続く。ステージから会場を縦断する様に、客席の中央へと伸びる花道。刹那が夕陽の手を引き、蒼が雪の背中を押して会場のど真ん中を目指す。

 花道の先端は、4人が歌って踊れる円形のスペースがある。それぞれ背中合わせに、客席を向いて大きく手を振りながら最後の曲を歌った。

 曲が終わると雪から順に、1人ずつ感謝と別れの言葉を置いて、花道からステージへ戻ってゆく。最後に綾斗が戻ると、揃ってお辞儀をしてステージを降りていった。


 会場からは鳴りやまないアンコール。暫く焦らされ、照明が落ちるとファンは再び熱を上げる。

 この日、誕生日である雪を刹那が担ぎ、サプライズのバースデーケーキを夕陽と蒼が2人で持って出てきた。雪にはアンコール自体サプライズで、パニクる雪を刹那が捕まえたのだ。

 激しい抵抗を見せる雪。だが、大きなスプーンいっぱいに乗せたケーキを、蒼が『あーん』と言って差し出すと、大人しく大口を開けてケーキを頬張った。


 会場からは『結婚式かよ』や『ウェディングケーキかよ』とざわめきが起こっていたが、そんな囁きはメンバーの耳に届くはずもなく、公開お誕生日会は賑やかしく終えた。

 丁寧にアンコールの段取りを説明する蒼。それを、うんうんと聞く雪。2人を微笑ましく見る夕陽と刹那とファン一同。


「それじゃぁ行くよ! まずは『君と僕との明日を』。みんなー、手拍子してねー!」


 蒼が一曲目のタイトルを高らかに叫ぶとイントロが始まった。友人同士が無邪気に楽しい明日を信じる、青春を描いた一曲。湊の呼び掛けに応え、ポップで爽快な曲調に合わせた手拍子が始まる。


 それから数曲のメドレーを歌い、今度こそライブを終える。



 控室へ戻る前に、刹那がスマホでゲリラ配信を始めた。


「やっほー。ライブ終わりだよ~」


 熱気冷めやらぬ汗だくの刹那に、会場からはまた悲鳴が上がっている。

 メンバーの後姿を映し、水分補給する雪にカメラを下ろされた刹那。雪の手から逃げる様に、カメラは蒼へ向く。


「僕!? えっと、ライブ楽しんでもらえたかな? 僕はすっごく楽しかったよ」


 ニコッと笑った蒼。会場からは悲鳴が聞こえた。


「あれ? 会場で見てくれてる人もいるのかな? 気をつけて帰ってね」


 そう言って手を振ると、会場から様々なレスポンスが悲鳴となって聞こえてきた。

 勿論、会場でその姿を見ていた煉は、即座に『可愛過ぎ。帰り、送るから。何時でもいいから連絡しろ』とメッセージを送った。


刹那せーつな、皆さん帰れなくなっちゃうでしょ。ライブ後の配信はまた後でね」


 そう言って、綾斗は秋紘のスマホを取り上げて強制終了させた。



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